量子消しゴム実験やってみた

量子力学と言えば、日常とは縁遠い、特別なミクロの世界というイメージがあります。
ところが、やり方さえ工夫すれば、量子の世界を家庭でもわりと手軽に試すことができるのです。
今回やってみたのは「量子消しゴム実験」。
元ネタは日経サイエンス 2007年8月号に載っていたものです。
>> http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0708/200708_080.html
(このページから記事をダウンロード購入できます)
詳しい解説は元記事に譲るとして、以下に実際にやってみた結果を載せます。

■ 用意するもの
1.レーザーポインタ
手頃なものであれば、2〜3千円位で購入できます。私はこのレーザーポインタを使いました。

SANWA SUPPLY レーザーポインター LP-ST300S

SANWA SUPPLY レーザーポインター LP-ST300S

2.偏光版
Amazonで購入しました、価格630円。

偏光板125mm 透過率38%

偏光板125mm 透過率38%

3.写真クリップ
 偏光板を立てた状態で留めておくものです。これが無いと実験は難しいでしょう。

4.ホチキスの針
 詳しくは後述。

■ 実験1.干渉縞を見る

レーザーポインタの正面に、まっすぐ伸ばしたホチキスの針を置いて、光線を二分します。
実験装置はこんな感じ。

ホチキスの針は、消しゴムにさして立ててあります。

レーザーポインタからホチキスの針までの距離は15cm程度、その先スクリーンまでの距離は1m程度です。
二分した光線の当たった先をよく見ると、輝点の両側に干渉による縞模様が出現します。
部屋を暗くしないと、よく見えないかもしれません。

ここまではレーザーポインタさえあれば誰でもできるので、ぜひ一度お試しあれ。
以下、幾つか気になった点について。

* 一番上手くいったのはホチキスの針
干渉縞を作るにあたって、他に、紙で作ったスリット、まち針、シャーペンの芯、を試してみました。
その結果、一番うまくいったのが「まっすぐ伸ばしたホチキスの針」でした。
なぜこんなものを思い付いたのかと言えば、元の日経サイエンスの記事にあったからです。
影を作る材質なんて何でも良いように思えるのですが・・・とにかくホチキス針でうまくいきました。

* ピンホールはダメだった
元記事では、レーザーポインタの先にアルミ箔を貼り、そこに小さな針穴を空けてビームを絞るようにとありました。
当初、私もその通りやってみたのですが、うまくいきませんでした。
というのは、レーザー光をピンホールに通すと、それだけで回折による縞模様が出てくるからなのです。
(これはこれで、別の実験になりますね。)
細く絞り込むと、できた縞模様が干渉によるものなのか、回折によるものなのか、区別がつきにくくなります。
私の場合は、いっそ絞り込み無しでやった方がうまくいきました。
もしかすると、穴の大きさを調整した絞りを入れた方が、もっときれいな結果が出るのかもしれません。

* キラッ☆
実際やってみると、マンガに出てくるキラキラ記号が、まんざらウソでもないことが分かります。

あれは光の波動性の成せる技だったのか。

■ 実験2.干渉縞を消してみる

次はちょっとした工作が必要です。
ホチキスの針の右側に縦方向の偏光板、左側に横方向の偏光板が配置されたものを作ります。
こんなものです↓ 台座には写真クリップを使っています。

購入した偏光板(サイズ12.5x12.5cm)を縦横4枚に切り分けて、そのうちの2枚を使用します。
このとき、ホチキスの針と左右の偏光板との間に、ほんのわずかの隙間も残さないこと。
作る際には、まず2枚の偏光板を横に貼り合わせて、その上から境目をホチキスの針でふさぐようにします。
貼り合わせは、単純にセロテープで行っています。
もちろん光をあてる部分にはセロテープを被せないようにします。
こうして作った、右側=縦偏光、左側=横偏光の装置に、先ほどと同様にレーザー光を当ててみます。

すると、今度は干渉縞ができません!

・・・と、簡単に書きましたが、実はここで干渉縞を消し去るには、かなりの調整が必要なのです。
調整のコツは後回しにしますが、ここでは干渉縞が消えたものとして先に進みましょう。

■ 実験3.干渉縞を復活させる

干渉縞が消えている状態で、さらに、光線の先にもう1枚の偏光板を「斜め45度に」配置します。

すると、、、干渉縞が復活します!

ここで、偏光板の向きを回転させてみると、おもしろいことが起こります。
縦方向に置いても、横方向に置いても、干渉縞が消えます。
しかし、斜め方向に置くと、干渉縞が出現します。
斜め45度のときに、最も強く干渉縞が現れるのです。

ここで、実験のコツを記しておきます。
干渉縞の消去は、装置のちょうど真ん中に、左右等しくなるようにレーザー光を当てないとうまくいきません。
それを確かめる方法は、実験3の状態で、偏光板の向きを回転させることなのです。
レーザー光が左右同等に当たっていないと、縦か横かの、どちらか一方の偏光が強く出ます。
例えば縦方向が強かった場合には、光線の先に縦方向の偏光板を置けば明るく、横方向の偏光板を置けば暗くなります。
この縦横の明るさの違いを見て、ちょうど真ん中にレーザー光が当たるように装置を調整するわけです。
調整がうまくいけば、最終的には
 ・縦方向、横方向の明るさが同じくらいで、干渉縞が消える。
 ・斜め方向にるすと、干渉縞が出現する。
といった状況が実現できるはずです。

■ 一体何をしたのか

実験1 -> ホチキスの針の、左右を通った光によって、干渉縞を作った。
実験2 -> 右側の光と、左側の光が、偏光によって区別できるようになると、干渉縞は消えてしまった。
実験3 -> ところが斜めの偏光板を置いて、左右の区別が付かないようにすると、干渉縞が復活した。
つまり、干渉縞は「左右の区別がつかない状態に限って出現する」ことになります。
落ち着いて考えてみると、これ、とっても変なことです。
実験2によって、縦横に分離した光は、もはや干渉を起こさないことが分かっています。
なのに、実験2の「後に」置いた斜めの偏光板によって、再び干渉縞が復活するとは、これいかに?
ホチキス針の横を通過する光は、通過する時点で、その先にある斜めの偏光板の存在を「あらかじめ知っている」のか?
ちなみにタイトルの「量子消しゴム」は、斜めの偏光板が「光の過去の記憶を消してしまう」という意味です。

■ おまけの実験

偏光板を持っていたら、ついでにこんなことを試してみてください。
2枚の偏光板を同じ向きに重ね合わせると、向こう側はよく透けて見えます。

偏光板を90度ずらして、縦横を違えて重ね合わせると、光を透過しなくなります。

ここで、2枚の偏光板の間に、3枚目の偏光板を斜め45度に差し込むと・・・

・・・不思議なことに、3枚の方が2枚よりも光を通すようになります!
さらに、3枚目の偏光板を2枚の間ではなく、上に乗せて見ると・・・

・・・光を通しません!
なんとも納得のいかない事実です。

■ オリジナル量子消しゴム実験

以上の量子消しゴム実験は、家庭でもできる簡易版で、オリジナルの実験ではさらにおもしろいことを試しています。
* A Double-Slit Quantum Eraser Experiment
>> http://grad.physics.sunysb.edu/~amarch/
こちらに論文を訳された方がいます。
* TOSHIの宇宙 -- 遅延選択実験(タイムマシン?)(5)
>> http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-b442.html
この動画の解説がわかりやすい。
* 量子消しゴムは時間旅行の夢を見るか?
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