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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-01-21

カレーうどんはなぜ飛び散るか

それは、断熱過程によって、麺にエネルギーが蓄積するからです。

簡単なモデルで考えてみましょう。

f:id:rikunora:20120122025618p:image

これは「大学演習 熱学・統計力学(久保亮五)」という本に載っていた物理の問題です。

うどんを単純な振り子と見なせば、麺をすするという行為は、ちょうど上の問題のように、

振り子の糸を引き上げる過程だと考えることができます。

糸を引っ張り上げるには、それだけの力を加える必要があるのですが、その加えた力はどこに行くのでしょうか。

行き先は2つあります。

1つは重りを持ちあげるため、つまり位置エネルギーとして蓄積されます。

もう1つは、振動運動のエネルギーとして蓄積されます。

振り子を揺らしたまま糸を引っ張れば、引っ張ったエネルギーの一部は振動運動に変わるので、

結果として、より強い振動を生み出すのです。

この振動こそが、カレーを飛び散らせる原動力となるわけです。

 * 麺をすする力 -> 麺の振動エネルギー -> カレーの飛散


上記の振り子に溜まるエネルギーを確かめるべく、シミュレーションを行ってみました。

* 振り子の糸を引っ張るシミュレーション(要Silverlight4)

>> http://brownian.motion.ne.jp/memo/NoodlePendulum/

画面右上の数字は、糸を引っ張るのに要したエネルギーの累積値です。

(単位はパソコン内部の単位というか、適当な比較値です。)

振り子の初期の振れ角を変えて、エネルギーの累積値を調べると、以下のようになりました。

 振れ角 : 糸を引っ張るエネルギーの累積

  0度 : 158760.26

 30度 : 159641.26

 60度 : 163163.28

 90度 : 166913.94

振れ角が大きいほど、余計なエネルギーがかかっていることが見てとれます。

この余計なエネルギーは、全て麺の振動エネルギーとなり、カレーを飛ばすところとなるわけです。


ソースコードはこちら。Silverlight

* Visual WebDeveloper 2010 Express のプロジェクト・ディレクトリ丸ごと

>> http://brownian.motion.ne.jp/memo/NoodlePendulum/NoodlePendulum.zip

※ ちなみに Silverlightって、ちょっとしたシミュレーション作りにはとても便利。

※ 普及率はいまひとつだけれど、作り手にはやさしいと思う。


では、なぜ振り子を揺らすと余計なエネルギーがかかるのか。

f:id:rikunora:20120122025720p:image

揺れている振り子を引っ張り上げるには、重力と遠心力、2つの力に応じるだけの張力が必要です。

振り子が真下に来たときには、糸の張力には、重力+遠心力がかかるので、

静止している場合と比べて遠心力の分だけが余計にかかります。

しかし、振り子が上死点〜最も高い位置で速度が0になっているときに引っ張れば、

遠心力はかからず、重力も斜め方向になっているので、より少ない力で引っ張ることが可能です。

極端な話、振り子が90度振れて真横に来た時は、ほんのわずかの力で引っ張り寄せることができるでしょう。

結局のところ、引っ張り上げるのに要するエネルギーは、振り子が上から下までいろんな位置に来たときの平均になるわけです。

正確に見積もるには、ちょっとした計算が必要ですが、結果のみを言うと

  E/ν = (系の有する全エネルギー) / (振動数) = 一定

という法則が得られます。

この一定値のことを「断熱不変量」と呼んでいます。

摩擦熱などによる損失が無いときに、一定になる量、という意味ですね。

(計算の詳細が知りたい人は、上記の問題が載っていた本を見てみよう。)


この「断熱不変量」を元に考えると、系にエネルギーEを加えた分だけ振動数νが上がることになります。

うどんで考えれば、麺をすすり上げるのに加えたエネルギーに比例して、麺の振動が増大する。

そして、うどんがピュルっと振動したエネルギーを受けて、麺に付着したカレーが飛び散るというメカニズムだったのです。


それでは、どうしたら麺に蓄積する振動エネルギーを抑えることができるのか。

振り子の運動から、

 ・真下にあるときに引っ張ると余計な力がかかり、

 ・上死点あるときに引っ張れば少ない力で済む、

ということが分かります。

つまり、うどんの振動運動を見切って、上死点あるときにだけうどんをたぐり寄せれば、

カレーは飛び散らないってことになるわけですが・・・

そんなことできっかー!

まあ、カレーうどんを食べるときには素直にあきらめて、

濃い色のシャツを着る、というのが現実的な解決方法でしょう。


※1/23追記

Q: なぜうどんだと飛び散るのに、そばだと飛び散らないのか?

A: 熱・統計力学の文脈で言えば「熱容量」の違いだと思います。

軽くて弾力の乏しいそばよりも、重くて弾力のあるうどんの方が、

より多くのエネルギーを蓄えられるからだと思うのです。


Q: なぜカレーは飛び散るのに、汁はさほど飛び散らないのか?

A: カレーの方が麺にしがみつく力が強いので、ギリギリまで力を溜めてから飛び出すのだと思います。

汁はカレーよりわずかの力で飛び出すので、遠くまで飛ばないのではないでしょうか。

f:id:rikunora:20120208000653p:imageあずまんが大王より.

森山森山 2012/01/22 13:56 面白い!!
身近なところに物理学が隠れているんですねえ。
蕎麦のときはなぜあんまり飛び散らないんでしょうか

rikunorarikunora 2012/01/23 20:53 そばについて、上に追記しました。
弾性体を想定してシミュレーションすれば、もう少し深くつっこめると思います。
あと、うどんと関係ないですが「建築知識1月号」買いました。
これ、すごいですねー。期待以上にためになった。
そこでふと思ったのですが、耐震構造って、カレーうどんに応用できないでしょうか?

BIGAPPLEBIGAPPLE 2012/01/24 09:30 つゆの年度に関連するものだと思うのですが,
上唇と下唇によってこそげ落とされる
(つまり,麺の先端へとどんどんたまっていく)
つゆの量との関連を加味すれば,
きつねうどんとカレーうどんの飛び方の違いが統合されそうな気がします。(^^)

hirotahirota 2012/01/24 13:10 引っ張り上げる力だけ考えて、麺に横から加わる力を忘れてますよ。
上死点で引っ張れば良いとのことですが、上死点は最も麺が曲がってる状態ですから、ここで引けば麺をより強い力で押し戻すことになります。
これはブランコを上死点で押すのと同じでエネルギー増加となります。
麺が長い状態では無視できるでしょうが、短くなると支配的ではないですか?
この効果は太くて弾力性のある「うどん」で大きいですね。

アトムアトム 2012/01/24 17:55 カレーうんどんに熱くなれる理系人間ってすばらしい!
癒されます・・・、ほっ。

さるさる 2012/01/24 20:15 NHKのすいえんさーでずいぶん前にやってた

rikunorarikunora 2012/02/07 10:48 コメントすっかりご無沙汰してました。
ブコメを含め、たくさんの反応ありがとうございます。
これだけ騒がれると、さらに弾性体か多重振り子について考えないわけにはいかなくなった。
ただ、それでも断熱不変量という概念は成り立つわけで、
広く一般に適用できるのが統計力学のすごいところだと思う。

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