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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-04-01

なわとびのハーモニクス

両端を固定した弦を揺さぶると、定常波と呼ばれる波動が生じます。

バイオリンやギターなどが弦の長さによって音程を変えられるのは、この定常波の為せる業です。

弦は両端が固定されているため、通常は端に行くほど振れ幅が小さく、中央が最も大きくふくらんだ形になります。

ところがバイオリンを上手に使うと、弦の途中にも振れない点、いわゆる「節」を作ることができます。

節ができると、普通にバイオリンを弾くよりもずっと高い音が出せるのです。

こういう演奏方法のことを「ハーモニクス奏法」と言うのだそうです。

* ハーモニクス(フラジョレット)奏法で倍音の実験

>> http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/kichu/urawaza/flageolett.html


それでは、この「ハーモニクス奏法」なるものは、バイオリン以外のものでもできるのでしょうか。

身近なところで、なわとびで試してみたらどうなるか。

なわとびを普通に回すと、中央が最も大きくふくらんだ形になるのですが、

うまく回せばこんな風に、なわの間に「節」を作ることができるでしょうか?

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そもそも、なわとびを回したときに出来る形とは、一体どのようなものでしょう。

なわとびのひも(ロープ)のまわっている形はふつうの力学の教科書に記述がない。

これは実はヤコビの楕円関数 sn で与えられる曲線の形なのである。

    -- 楕円関数入門(戸田盛和)より.

重力の影響を無視して、なわが遠心力だけでふくらんだ場合、

なわとびの形は「ヤコビの楕円関数sn」というものになります。

楕円関数って何だ? 何だか難しそう・・・などと悩むよりも、むしろ逆に、

「楕円関数とは、なわとびを回してできた形のこと」なのだと思った方が気が楽です。

いちおう楕円関数snの定義は、こんな風になっています。

f:id:rikunora:20120402031220p:image

楕円関数snは、三角関数sinの発展形のような形をしています。

snという記号も、sinに似ているのでこのように書いています。

(そういえば、なわとびの形もsinに似ているでしょう。)

上に書いた式の、上半分はsin逆関数についての積分です。

このsin逆関数積分の分母に、もう1つおまけに (1-k^2 x^2) を付けくわえたのが、

楕円関数snの逆関数についての積分なのです。

式中の k は母数と呼ばれていて、おおざっぱに言えば sin からのずれの度合いを示す数字です。

k=0 のとき、sn は sin に一致します。


なわとびの形は、懸垂曲線と同じ計算方法によって求めることができます。

懸垂曲線とは、重さのあるロープの両端を持ってぶら下げたときにできる形のことです。

* 懸垂曲線:

 ロープの長さが一定のとき、重力による位置エネルギー最小となる形.

* なわとびの形:

 ロープの長さが一定のとき、遠心力による位置エネルギー最小、つまり慣性モーメント最大となる形.

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懸垂曲線が ∫y ds のところを、なわとびでは ∫y^2 ds に置き換えただけなのです。

なので、懸垂曲線の解き方を参考にすれば、なわとびの形も計算できるはず・・・

・・・なのですが、実際にやってみると鬼のような計算になるので、ここでは省略(^^;)

どうしても知りたい人は「楕円関数入門」という本を見てください。

結果は最初に挙げた通り、楕円関数 sn になります。


さて、なわとびの形が分かったところで、当初の疑問であった

「なわとびで節が作れるのか?」に答えましょう。

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「このような多くの節点をもつ形は不安的であるに違いない」

どうやら計算上、節を作ることはできそうにありません。


・・・と、長い間、私は信じてきました。

「なわとびで節を作るのは無理である」と。

しかしながら、最近、この計算結果を覆す記述を発見したのです!

* 長縄跳び

>> http://www.zkaiblog.com/hi07/17135

通常,長縄跳びを回す際の波(回転)は,腹が1つの定常波とみなせます。

この状態から回転を上げ,うまく回すと,腹が2つ(中央が節)の定常波が生じます。

さらに回転を上げれば,定常波の腹の数を3つ,4つ,5つ,…と増やすことができるはずです。

が,今のところ,4つが限界です。

そんなバカな。

あの楕円関数の計算が、間違っていたとでも言うのか。

そこで、とにかくなわとびを入手して回してみたところ、、、

できました!

確かに、腹の数が2つであれば、普通のなわとびで簡単に作ることができるではありませんか。

ここに至って、私は計算と理屈ばかりを追う余り、

自分で実際に1度もなわとびを回していなかったことに改めて気付かされました。


それでは、楕円関数の計算は間違っていたのでしょうか?

いいえ、計算そのものが間違っていたわけではありません。

前提である、「なわとびの形は(いつでも)慣性モーメント最大となる」が間違いです。

節ができている場合、なわとびは当然ながら慣性モーメント最大形ではありません。

にも関わらず、なぜ形を維持できるのか。

答は、なわを回す人が常にエネルギーを送り込んでいるから。

常にエネルギーが送り込まれていれば、もはや最も安定な状態になっている必要などないのです。

教訓:「たまには計算をやめて、実際にやってみよう」

楕円関数入門 (日評数学選書)

楕円関数入門 (日評数学選書)

※ひょっとして、この「楕円関数入門」を書いた先生も実際になわとびを回していなかったのでは?

※でもよく見ると「不安定である」と書いてあるだけで、決して「できない」とは書いていない・・・

※一応名誉のため付け加えておくと、この「楕円関数入門」はとっても良い本。

※楕円関数というひどく抽象的なものに、具体的なイメージを与える貴重な本だと思う。

hirotahirota 2012/04/02 12:28 遠心力だけ考えると不安定としか思えないけど、コリオリ力もありますからねー。

rikunorarikunora 2012/04/03 09:12 実際のなわとびだと、なわは1平面上には無くて、らせん形にねじれた感じになるんです。
それが安定に寄与しているのかも。

hirotahirota 2012/04/04 02:05 遠心力場ポテンシャル ( −r^2 ) 内の螺旋は中心対称から外れた方がエネルギーが低くなります。
しかし、コリオリ力で直角方向に曲げられて元に戻ります。

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