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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-06-19

奇跡も、魔法も、あるんだよ

最近、本当にあるのではないかと思い始めています。

アニメの話ではありません、現実の、ナノテクノロジーの話です。

きっかけとなったのは、次の一報の論文です。

A Molecular-Sized Tunnel-Porous Crystal with a Ratchet Gear Structure and Its One-way Guest-Molecule Transportation Property

http://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/nr

Nanoscale, 2012,

DOI: 10.1039/C2NR30880K,

英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)の雑誌、"Nanoscale"に掲載されています。

どうしてこんな論文を見つけたのか。

私は甦るMaxwellの悪魔というホームページを作成しているのですが、

上の論文は、そのホームページの掲示板で紹介されていたものです。

論文の著者は、岡山大学 分子設計学研究室のグループ、

「最近、我々のグループで細孔性有機結晶内の1次元トンネル内で分子を一方方向へ動かすことに成功しました。」

というコメントが付いていました。


論文には、こんな感じの写真が掲載されていました。

f:id:rikunora:20120619081401p:image

この図は何かというと、ナノテクで作った非常に細い〜分子1個がやっと通れるくらいの細いトンネルの中に、

アントラセン分子が入り込んだ様子を表しています。

アントラセンは紫外線を当てると青白い蛍光を発するので、トンネル内にどのように入り込んでいるかを見てとることができます。

このナノ・トンネルを作った(再結晶させた)直後には、アントラセン分子はトンネル内に均一に入っていました。

それが2日後に見てみると、トンネルの片方の端に自然に集まってきていたのです。

問題は、いったい何の力でアントラセン分子は動いたのだろう、という点です。

このナノ・トンネルには秘密があって、

 ・天井と床はフッ素で、

 ・側壁はノコギリの歯のように、ギザギザに配置されたナフタレンで、

できています。

フッ素というのは、あらゆる元素の中で最も電気陰性度が大きいので、

そのおかげでナノ・トンネルが潰れたり、ふさがったりしないのです。

トンネルの天井と床がフッ素コーティングでツルツルになっている、といった感じ)

また、側壁のナフタレンがノコギリの歯状に配置されているため、

トンネル内の形状は「行きと帰りが異なる」、異方向性を有しています。

こうしたナノ・トンネルの形状から想像するに、きっとアントラセン分子は

「ねこじゃらしの毛」に導かれるようにして動いたのでしょう・・・

f:id:rikunora:20120619081426p:image

・・・って、ちょっと待った!

これってマックスウェルの悪魔になっているのではないでしょうか。

アントラセン分子は何のエネルギーで動いているのか。

きっと分子がモゴモゴ振動する運動 〜 熱振動によって動いているのでしょう。

他に何の力も加えずに、熱振動だけで物体が動いたということは、

身の回りにある気温のエネルギーだけで、物体を意図した方向に動かすことができる。。。

つまり、もう原子力なんて要らない!ってことなんでしょうか。


ノコギリの歯のような仕組みで、熱振動から利用可能なエネルギーを取り出す試みは、

以前から何人もの人が考えてきました。

有名なのは「ファインマンラチェット」でしょう。

f:id:rikunora:20120619081449p:image

図のように、分子くらいの小さな「歯車とかぎ爪」を作れば、

歯車は熱振動の力で一方向だけに回転することになる。

そうすれば、熱振動からいくらでもエネルギーが取り出せるのではないか、というものです。

しかしならが、もしこんな仕掛けを作ったとしても、

歯車は意図した向きには回らないだろう、というのが今日の見解です。

もし回ったとしたら、物理の法則はメチャクチャになってしまいます。

「歯車とかぎ爪」の動きを力学的に検討しても、やはり一方向に回転するはずがないのです。


ところが、ナノ・トンネル内のアントラセン分子は、とにかく実際に動いています。

一体なぜ動くのか、説明が付かない。

こんなの絶対おかしいよ!

私も自分なりに考えているのですが、まだこれぞといった理由が思い当たりません。

もし理由を思い付いた人、教えてください。

もちろん、慎重に考える必要はあるかと思います。

つい最近も「超光速ニュートリノ騒動」があったばかりです。

フタを開けてみると、「なぁ〜んだ、そんなことか」となる可能性は高い。

それでも、ナノの世界には、まだまだ思いもよらない現象があるのだと感じました。

*参考 >> wikipedia:ブラウン・ラチェット


hirotahirota 2012/06/19 12:38 これを見てアクチンとミオシンによる筋繊維が動くメカニズムを思い出しました。
アクチン-ミオシンも熱運動を利用して動く説が有力だったはずですが、解明されたんですかね?

rikunorarikunora 2012/06/19 14:41 さすがですねー。
実は私は、筋繊維のメカニズムをヒントに、きっと熱運動は利用できる、
といった内容のことをホームページに書いています。http://brownian.motion.ne.jp/
たぶん、アクチン-ミオシンは熱運動を利用して動く、というのが有力な説になっていると思います。
ただこれも少し以前の知識なので、現在のところどうなっているのかわかりません。
完全な解明は、まだ為されていないと思います。

せいたかのっぽせいたかのっぽ 2012/06/19 23:54 非常に面白い内容で勉強になりました。
でも、これがマックスウェルの悪魔の事例かな?ってのは私にはどうも?
単純に構造上異方性があれば、集まりやすい方に集まったってこと
じゃダメかなあ?
サラダドレッシングが放っておいたら沈澱して分離している方が安定なのと同じで、このナノチューブ内にアントラセン分子を均一に分散させて挿入しておく方が不安定な状態なのでは??
と、単純に感じてしまいました。
でも、ナノはマクロ(多数・統計的現象)とミクロ(少数)の狭間にあって、興味深い話が多いですよね。1年ぐらい前だったかな?ナノクラスターの反発係数が1以上のこともあるとの新聞記事が記憶に残ってます。
横コメですみませんが、アクチン-ミオシンの動作原理はNewtonの2008年2月号のタンパク質の特集で詳細に出てました。というか、これまでそんなに生物学を勉強してなかったので、この内容が新しく解明された動作原理なのかは分かりませんが、とても感動したので、普段は立ち読みだけで買わないのですが、この号だけ買って持ってます。
その記事の著者、David S.Goodsllで、Amazonで今、調べてみたら、いくつか本が出てたんですね、翻訳も。本屋で見かけたことが無かったですけれど、Newtonのと似たような内容ならかなり面白い本かもしれないですね。

せいたかのっぽせいたかのっぽ 2012/06/19 23:58 ゴメンなさい。David S Goodsellです。

rikunorarikunora 2012/06/24 01:07 論文を見た限りでは、2つの可能性があると思いました。
A.マックスウェルの悪魔の如く、熱振動で動く。
B.せいたかのっぽさんのコメントの通り、単純に片側に集まった方が安定している。
このA.B.の違いは、例えば温度依存性を調べるなりして見分けが付けられます。
実は、そうした内容のメールを、思い切って岡山大の先生へメールしてみました。
ひょっとすると、何らかのご返答を頂けるかもしれません。

David S Goodsellという人を検索してみると、とても美しい(ニュートンに似合いそうな)
分子の絵を描いている人だったのですね。
 Molecular Art | Molecular Science
 http://mgl.scripps.edu/people/goodsell/
 今月の分子
 http://www.pdbj.org/mom/
今月の分子は、毎月チェックすることにします。

片桐利真片桐利真 2012/06/25 11:30 怪しいことをやっちまった、岡山大学の片桐です。
わかり易い解説、ありがとうございます。皆様のコメント、参考にさせてください。

まだまだ課題が残されている研究です。特に、ラチェットの方向は針状晶の外形からはわからず、実際にX線結晶構造解析を行ない指数付けをしなければ判定できない(だから動いた後で測定する)。完全にトンネルが開通している「完全結晶」であるかどうかは分子を通してみなければわからない。(だから動いた後で測定するしかない。だいたい完全結晶ができたことも、すごいことだと自負しています。)実際の実験は大変です。

動いてしまった事実は仕方がないので、いまは荷電粒子を連続的に取り入れて動かして放出することを計画中です。これができたら「悪魔」認定ですよね。

rikunorarikunora 2012/06/25 13:00 なんと先生ご自身のコメント、どうもありがとうございます!
「実際の実験は大変」との言葉、重みがあります。
ウィキペディアで「完全結晶」を検索すると、
「現実の結晶では、格子欠陥や不純物を完全に排除することは不可能である」
と書いてありました。
ということは、既に不可能を1つ克服されているわけで、
あと1つくらい、何とかならないかなと期待しています(^_^)尸フレーフレー

にものにもの 2012/07/01 20:36 こんにちは、初めてコメントさせていただきます。
にものと申します。
ファインマンの爪車についての情報を一つ。

『非平衡の物理学』太田隆夫のP113 7.4 確率的爪車
というやつです。これによると、
ゆらぎが単純な熱振動でなく時間相関を持っていると、
ゆらぎからエネルギーを取り出すことが可能とのこと。

自分もちゃんと理解しているわけではなく、
マクスウェルの悪魔との関係もよくわからないのですが、
ぜひrikunoraさんに考察いただいて、
見解を教えて頂けると、うれしいです。

rikunorarikunora 2012/07/02 14:45 おもしろそうな文献紹介、ありがとうございます。さっそく調べてみます。
> ゆらぎが単純な熱振動でなく時間相関を持っていると、
> ゆらぎからエネルギーを取り出すことが可能
まだ見たわけでは無いのですが、きっとこれはポイントを突いていると思います。
エネルギーが全く取り出せないのは、ゆらぎが完全にランダムで、何の情報量も持ち合わせていない場合です。
時間相関という何らかの手がかりを持ち合わせていれば、原理的にはそこからエネルギーを取り出すことは可能だと思います。

rikunorarikunora 2012/07/31 14:19 確率的爪車について、その後、自分なりに調べてみました。
以下が続編になります。
* ラチェットとゆらぎ
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20120731

片桐利真片桐利真 2013/07/31 10:02 ご報告です。
ここの「にもの」さんのコメントを参考に太田先生とコンタクトをとり、2012.12.4に太田研でセミナー(非線形動力学セミナー)をやってきました。
「理屈は実験事実に勝てない」「なにかのど元に匕首を突きつけられたようだ」と、太田先生のコメントでした。

rikunorarikunora 2013/07/31 22:43 つまり、その道の専門家でさえ頭を抱えてしまった、ということは・・・
ひょっとして、これ、化けるのでは w(゜o゜)wォォ!!
何というか、こんなブログの片隅にこっそり書いてあるだけでいいのか!
いや、化けたら有名になれるかもしれない。

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