私家版・パピヨン萌え語り / 『武装錬金』アニメ化記念

武装錬金 2 (ジャンプコミックス)

武装錬金 2 (ジャンプコミックス)

 アニメの出来が予想外に良い感じで少々気持ちが昂ぶったため、『武装錬金』を再読中。やっぱり二巻、VS蝶野攻爵編が面白い。強引に要約するとこの話、『正義の味方がいないことに絶望して悪事を働いたら俺を殺しに正義の味方がやって来た』といったものである。泣ける。
 蝶野攻爵という人間は、ああ見えて正義の味方的な存在にわりと憧憬を抱いている(第二巻55ページ、「綺麗事ばかり言う偽善者」「一番嫌いな性格だ」の時の表情を見よ)。しかし同時に頭が良いので、そんな都合の良いものは存在しない、いやよしんばいたとしても、自分の病気のことなんか彼らの扱う案件ではない、ということも弁えている。世間からは村八分にされ、ヒーローは当然やって来ない。彼にはどこにも寄る辺がない。だから「じゃあいいよ、自分のことは自分でやるよ、他人ども喰い殺してでも俺は一人で生き延びてやるわ」と覚悟を決めて、その通り実行した。──ら、そのタイミングで正義の味方はやって来た。自分を倒しにやって来た*1。最悪のタイミングである。
 蝶野攻爵という人間はああ見えて正義の味方的な存在に憧憬を抱いているので、カズキくんの言葉にいちいちグッと来てしまう。カズキくんと仲良くしたい。友達になりたい。そう思ってしまう、が、立場上それは叶わない。大体、来るならもっと早く来い、という憤りもある。正義の味方の正義アイテム・核鉄の治癒力があれば、別に化け物に転生せずとも生き延びられたかもしれないのだ──が、実はこれは、言っても詮ないことなのである。というのも、正義の味方というものは大概、何らかの事件が起きた『後』に来るものだからだ。蝶野攻爵が正義の味方に会えたのは、彼が悪党になり、事件を起こしたからこそである。この辺、世間に声を聞かせるためには犯罪者になるしかなかった、というある種の事件の犯人像と図式的には被るところがあるかもしれない(これは余談だ)。
 さてその後、蝶人・パピヨンとして再復活を果たした彼は、友達になれないならせめて敵役としてカズキくんに構ってもらおう、と考える。そのため、いかに悪役として振る舞うか、に腐心する。そう、彼の言動は、端からほとんど偽悪だったと見て良いでしょう。すべてはカズキくんの気を惹くために。これ見よがしに「世界、燃やしちゃおっかなー」なんて言い出したりね。もう、たまらんわけです。

*1:自分が被害者の時は来なかったくせに加害者になったら途端に刃物持参でヒーロー見参、というのは『るろうに剣心』の瀬田宗次郎VS緋村剣心でも見られた情景である。