必殺技漫画のデファクトスタンダード(今週のテニス感想(Genius 353 『人生の行方』))

手塚が人智を超越し 人の子を玩ぶが理なら 人の子が魔をもって手塚に対峙するは因果

 今話の何が素晴らしいって、このタイミングで挿入される真田の回想。これが実に素晴らしい。それは今から三年前、皇帝がまだ皇帝ではなかった頃のこと。ジュニア大会で準優勝を果たし、有頂天になっていた少年・真田の前に立ちはだかる一つの影、いや、一つの光。それは左腕に黄金色に輝くオーラを纏った一人の少年、当時小学生の手塚国光の姿だった──。
 『雷』だの『陰』だの『林』だの、数多の人外技を使いこなし、終始試合の主導権を握っていたかに見えた皇帝・真田。しかしその実、その精神の根っこの部分には常に、昔日の手塚に対する昏い畏れの感情があったのだ、ということが明かされる。この試合、真田こそが『挑む者』であったということをここで確認。おかげでこの後の「真田の勝利」に大きなカタルシスが約束される。手塚というヒトの形をした回転=運命に対し、風林火陰山雷という魔を以って闘いを挑んだ人間・真田。このような視点で試合を観れば、最後に勝利を決めたのが真田の魂の叫びだった、ということも納得できようものである。テーマはきっと人間賛歌。

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 あと、ここ最近テニスの王子様研究に著しい成果を上げている『ピアノ・ファイア』さんから、今週の感想を抜粋。

今回の手塚真田対決は、まさに最強の矛と無敵の盾がぶつかりあうような軍拡競争の行き着く果てを見ているような思いがしました。手塚対策が完璧な真田に対して、その「手塚対策が完璧な真田」対策として手塚ファントムを解放してしまう手塚、に対して「手塚対策が完璧な真田対策を見せた手塚」対策をまだ残していた真田、に対して…………、これはなんという泥仕合っぷり。
 ──『ピアノ・ファイア - 今週のテニプリとシャカリキ!理論』より

 それ単体でも充分にテニスというスポーツを滅ぼしうる反則技・手塚ゾーンに対し、「ボールを引き寄せたところで打ち返せなければ無意味」という発想で開発された最強技『雷』、に対して「どんなに凄い球でもコートに入らなければ無意味」という発想で返した更なる最強技『手塚ファントム』。最強技が一話にして更なる最強技によって応戦される、という展開をこんだけの密度で続けられれば、そりゃ面白くないわけないのですよ。しかも単に「もっとTUEEEE」というのではなく、ちゃんと相手の技の盲点を突いているのがポイント。凡百の必殺技漫画ではまさにこの点がなってないわけで、NARUTOだのBLEACHだのはまず許斐剛の仕事場に爪垢を拾いに行くところから始めれば、という話です。