ネット調査の持つ課題点

先日、日本レコード協会(以下RIAJ)から「音楽メディアユーザー実態調査」が発表されました。この調査内容を基に、YouTubeニコニコ動画などの動画共有サイトへの接触率の増加や、ダウンロード違法化によるユーザーへの影響など、様々な記事が新聞やニュースサイトなどで報道されたのは周知のことでしょう。今回のエントリーはこの調査による結果に対してあーだこーだ考察するものではなく、調査方法に関して述べたいと思う。
去年からRIAJは調査手法としてインターネットアンケートを用いています*1。報告書ではどのような調査をしたのかは触れられていても、どのように計画&実施したのかが触れられていないので、邪推的にならざるを得ないのだけど、おそらくはRIAJに限らず多くのネット調査がそうであるように、インターネットリサーチ会社に委託して実施されたものであろうと考えられます。昨今ではこのような形式を用いた調査は大変多くなっています。これまでにあった街頭調査や郵送調査に比べると、ネットを用いることで色々コストは軽減できますし、電話調査*2に比べて詳細な調査が可能、そして集計や整理も楽ですから、利用メリットは多くあります。
しかし記事タイトルにも書いたように、この形式には大きな問題点があります。調査をする上では母集団の質はとても大事になってきます。今回のRIAJが行った調査は、「人々がどのように、更にどの程度、音楽と接し利用しているか」というものです。この際に対象とすべきターゲットは「全ての人々」になります。国勢調査のように大規模な調査をするのは非現実なのでサンプル数はどうしても少なくなってしまいますが、とは言えそこにはあらゆる人々が含まれていなくてはなりません。しかしネット調査の場合、「インターネットユーザー」という前提が既に「ふるい」として影響を及ぼしてしまいます。今回のRIAJの調査で考えてみると、インターネットユーザーからの結果であればYouTubeニコニコ動画を利用する人は当然割合として高くなってきますし、音楽配信やCDとの関係も変わっていくでしょう。他にも挙げようと思えば挙げられるはずです。
「インターネットなんてきょうび誰でも使ってんじゃないの?」という指摘があろうかと思います。まさにその通りです。現在のPCやインターネットの普及率*3から考えれば、インターネットユーザー限定という少々の「ふるい」の影響があったとしても、おしなべて一般的、大衆的なサンプルとして認めてもいいかもしれません*4。しかし真の問題点はその先にある。「そのインターネットユーザーは一体どうしてこの調査を受けたの?」ということを考えた事があるでしょうか? これが先に触れた電話調査と圧倒的に違うところ。無作為抽出となる電話調査の場合、電話を家に引いてさえいれば、その調査対象の候補として自動的に入ります。そしてある日、電話がかかってきたらロボットボイスやテープに記録された音声でもって自動的に調査がスタートし、僕たちは調査を音声指示に従って受けるorめんどくさいから受話器を置くの二択を選択することになります。ではネット調査の場合で考えて見ましょう。するとこうなります。
『ブラウザを起ち上げて、はてなブックマークをいつもの様にチェックしてたらさ、いきなり画面が変わったんだよ。』『そしたら勝手に声がスピーカーから聞こえ出したわけ、喋りかけてくるのよ。いやービックリしたねあれは。』『何だと思ったらさ、あの大手企業の%!#%でさ、新商品のアンケート採りだしたんだよw』『マジふざけんなって話だよな、こっちはウイルスかと思ってポルナレフになるとこだったわ。ていうかもし仮にエロサイt(以下略)』
皆さんやその周りの方々にこういった経験はおありでしょうか? ありませんよね、当たり前の話です。では一体どのようにそのインターネットユーザーはこの調査を受けるに至ったのか。それは彼らが、先に触れたインターネットリサーチ会社が運営するサイトの会員になっていたからです。このサイトを訪れ、またはこのリサーチ会社からメールを受け、彼らがアンケートに参加するという仕組みがあります。多くのネット調査はこのようなシステムで行われていますが、このリサーチ会社の会員数は最大手でも2〜300万人がいいところで、全国のネットユーザーの1/10にもならない規模でしかないのです。更にこういったリサーチ会社の運営するサイトは「小遣い稼ぎ」なんていう謳い文句の報酬システムを採っている為、集まる会員の性格に偏りが生じたり、登録情報*5の正確性や、そもそも会員数の正しさにも不安*6があります。このリサーチ会社という段階で大きな「ふるい」が存在しているのは明らかです。
ただ、どんなに多くの「ふるい」をかけたところで、かける前と結果が変わらないという可能性は勿論あります。しかしある程度の「考慮」を用いてみることは必要なのではないかと考えますよ。そして何よりRIAJの様に大きな団体が行う実態調査なのであれば、ネット調査だけに依存するのではなく旧来の調査も取り入れて母集団に一般性をより持たせる努力を行ってもらいたいですねー。

ちなみにRIAJの「音楽メディアユーザー実態調査」は細かな調査をしており、図や表も多くて分かりやすいので、読み物として大変面白いものだと個人的に思っています。コンテンツビジネスに興味のある人でもそうでなくても是非一読して、色々な考察をしてみるといいものですよ。pdfがうざい?それはガマンしましょうや。

*1:それまでは都内での街頭調査面接調査

*2:機会音声式、政治の支持率調査とかでよくあるやつ

*3:日本のインターネットユーザーは8000万人以上いるとのこと

*4:今回の調査がケータイを対象にしたとするならば

*5:年齢や性別など

*6:報酬を多く得るための重複登録など