ペニンシュラ型

~私とあなたの不可避な壁~

あなたを呼ぶのはどんな本?  釣巻和作 『くおんの森』感想


この間も書きましたが、ジャケ買い、帯買いをしましたら、大当たりを引きました。
漫画、小説を問わず、本というものが好きならば、きっと心のどこかにひっかかるハズ。


両親もあきれるほどの“書痴”である、魚住遊紙は同じく書痴であったという祖父が住んでいた家に引っ越してくることに。
祖父が遺した書庫の中で彼の日記を見つけた遊紙は、その日記に導かれるように引っ越してきた町を回っていく。
気付けば彼は不思議な図書館の前に立っていた。
その図書館は幾多の本が眠る場所、本の森
不思議な不思議なこの場所で、本の守り人という少女とともに遊紙は何をみるのやら。



まず、細かいところのセンスがいいんですよ。
何気なくこの本を手に取っちゃうと気付かない人も多いんじゃないかと思うんですが、タイトルにもついてる作中の図書館の名前「森」。この漢字は普通の木が三つのものじゃなくて、本という漢字三つが組み合わさって作られている字になってるんですよね。
すぐに思いつきそうなアイディアですが、これをそのまま漫画に使っちゃえるのは作者さんの力があってこそ。
アイディアといえば、遊紙の通う学校の図書室はあれま、なぜか古本屋然としていてご丁寧に奥にお座敷まで付いている。そんな学校あるのなら行ってみたいじゃありませんか。
もっというなら、ちょっと家から飛び出して、辺りを見回してみるならば町の人達みんなが本を手にしてる。なにその素敵地域。


本の森に通うようになった遊紙の周りに現れる人々は誰も彼もが一癖も二癖もある変わった人物ばかり。
そしてやっぱり彼らはみんな何らかの形で本が好きで、本によばれてやってくる。
各人物の正体なんかは読んでたら簡単にバレちゃいそうな感じ(というか意図的にバラしてある)ですが、そこが話の肝じゃないから全然問題じゃない。
もうネタバレしちゃうけど、たとえば壊れてしまった二宮金次郎的な銅像が本を求めてやってくるんですよ。
彼は当然、本がなくっちゃ彼は仕事にもならない。そりゃそうだ、銅像だもの。
じゃぁそれこそ三度の飯より本が好きな大勉強家の彼が“森”にて眼を輝かせて読む本は?なになに乙女ゴコロがどうしたと?
そして、そんな金次郎(作中では金三郎ですが)の様子をみている内に、同じように心くすぐられる遊紙達。そして心くすぐられる私たち。気持ちはよ〜くわかりんす。


人と本には出会いがある。よくその本に呼ばれて買っちゃったっていうような表現をする人がいますが、その「本が人を呼ぶ」というのをそのまま漫画にしちゃってる。ブックホリックストーリー。何と素敵。
あなたが読んだ本の中にはどんな物語がありましたか。そしてあなたとその本との出会いにはどんな物語がありましたか。



いや、本当に面白いんですよ。画もかわいいし、やわらかそ〜な髪の表現が素敵。
私が特に好きなのは不思議な女の子と遊紙が『舞姫』だとかの名文を暗唱し合う「開かずの書」というお話。あんなシチュエーション絶対ないけど、すっごい羨ましいよ。
そんなことあったら絶対その女の子好きになるよ!!いや、好きにならないよ。なんか大事に大事にするよ!!ああなんともはや。


そして、そして、個人的に大事なトコ。
お菓子の描写が細かいよ!!おいしそう。シベリア(カステラに羊羹はさんだやつ)食べたいよ!!
いや、ほんと私は料理マンガじゃないのに、食事シーンとかが細かいマンガ大好きなのでなにかあれば教えてください。その点でもこの『くおんの森』は素晴らしいです。
牛乳にシベリア〜シベリア〜たべたい〜



作者の釣巻先生はまだ若くってアフタヌーン四季賞をとった人らしいですが、次号からgood!アフタヌーンで違う連載も始められるようで。チェックしたいです。そして、先生手作りの豆本が欲しいです。*1
うーん、ググってみたけれどあんまり話題になっていないようなのでどこか大手さんがとりあげてもっとメジャーになればいいと思います。ここも宣伝がむばる。


くおんの森 (1) (リュウコミックス)

くおんの森 (1) (リュウコミックス)

すてきよすてき。
 

*1:帯の応募券で当るらしい。