白井京月の読書ノート

2009年から2014年の読書メモ

ザ・プロフィット

ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか

ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか

 本書がアメリカで刊行されたのが、2002年9月。原題は"The Art of Profitability"だ。筆者は、エイドリアン・スライウォツキー(Adrian Slywotzky)。副題は「利益はどのようにして生まれるのか」。出版社はダイヤモンド社。金と黒と白という三色の力強いデザイン。そして、目次を見ると、「マルチコンポーネント利益モデル」だとか、「ブランド利益モデル」、「ローカル・リーダーシップ利益モデル」、「販売後利益モデル」、「低コスト・ビジネスデザイン利益モデル」など、23の利益モデルが並んでいる。経営に関係する人が書店で手に取れば必ず購入するに違いない。そんな魅力と謎を秘めた不思議な本だ。私も、偶然に書店で見つけて直ぐに購入し、夢中になって読んだ。
 重要なことは、ここで示された23の利益を覚えることではない。自社にとって、どの利益モデルを選択することが、あるいは組み合わせることが望ましいかという事を、とことん考え抜いて明確にすることだ。また、筆者は何も利益モデルが23通りしか無いと言っているのではない。新しい利益モデルを構想することも重要だろう。本書の凄いところは、考え抜いたモデルを極めて簡単な図で示しているということだ。考え抜かれて出てくる図は、どれもシンプルだ。さらに驚かされるのは、各章に設けられた必読書である。アシモフの「天文学入門」から、フーコーの「言葉と物」までが登場する。いったい、日本の経営者の何人が「言葉と物」を読んでいるのか、あるいは知っているのか。私も手許にはあるものの未だ読み終えていない難解な哲学書だ。アメリカのエリート経営者は、それほどに教養が高いということなのだろうか?
 筆者は日本語版への序文で次のように書いている。

 1990年代の勝ち組企業は、品質を追求するための原則と実践を社員に説きました。けれど、今日の勝ち組企業は、社員一人ひとりに「利益」を説きはじめています。つまり、何が良い市場シャアで何が悪いシェアか、何が良い売上で何が悪い売上か、何が良いコストで何が悪いコストかを、全社を挙げて「利益」という観点から考えようとしているのです。

 つまり、利益モデルに照らして見るならば、シェアが拡大したとか、売上が増えたとか、コストが減ったからといって、それが良いとは限らないということだ。そして、利益モデルについて全社で考え、共通の認識とすることが重要だと言うのである。日本企業が高度成長期に経験したような、利益を犠牲にしてシェアや売上を求めて行くというやり方は、今では通用しない。もっとも、売上や利益がどうなったという事だけを大きく報じるマスコミの企業に対する認識、利益に対する認識にも問題がある。日本企業は何よりもイメージを重用視するからだ。利益よりも?
 ドッグイヤーではなく、マウスイヤーと言われる現在においては、この23の利益モデルも陳腐化しているかもしれない。しかし、今、企業にとって重要なのは「利益モデル」という分野におけるイノベーションであることに変わりはない。それには、考えて、考えて、考え抜くしかないだろう。本書がその一助となるであろうことは言うまでもあるまい。