CHI2007 三日目

Jim Foley の"Lifetime achievement award" 講演

Jim Foleyはジョージア工科大学(GA Tech)のGVU (graphics, visualization & usability center)を長年率いてきた方で、Computer Graphics やHuman Computer Interactionの黎明期に多大な貢献をされている。今回の講演はSIGCHI, SIGGRAPHの歴史やGVUでの教育が中心だった。GVUでの教育プログラムは非常に充実していて、Webによる講義マテリアルの配布やipodでの再生などもサポートしている。GVUはHCI関係では全米ナンバーワンといっていい教授陣を擁しているが、これもFoley氏の人徳か。


ちなみに鉄道マニアで、自宅の庭に鉄道模型の路線を構築されているとか。

alt.chi

alt.chiは採択に至らなかったものの、査読者の評価が分かれている論文を発表する場である。競争率が高い学会なので正式採択される論文は逆に整いすぎて面白くなくなる傾向があるのを何とかしようという試みである。今回も非常にエキサイティングだった。


"Challenges in Human-Computer Interaction for Manned Mars Exploration"は元同僚のKim Binsted (ハワイ大)の発表で、有人火星基地を構築するNASAのプロジェクトの一環として宇宙環境でのHCIの課題を検討する。本人は会場にはおらず、南極に設置されている実験基地から国際電話でプレゼンしていた。宇宙空間での生活環境はすべて人工環境なので、HCIの良し悪しが何事にも影響する。HCIのミスは直接、人命やミッションの成否に関わるので重要であると。カコイイ。


"Power of the Few vs. Wisdom of the Crowd: Wikipedia and the Rise of the Bourgeoisie" は、一般的に集合知の典型例とされるWikipediaで、実際にどういう構造でコントリビューションがなされているのかという分析。オープンソースコミュニティでも指摘されているが、膨大な人間が関与しているプロジェクトであっても、ごく少数のコアな人の貢献が実質的に大半を占める場合がある。Wikipediaではどうなのだろうか。

グラフ(左)では、10k語以上編集を行っている人(ヘビーなWikipedia貢献者)の、Wikipedia全体に占める割合を示しているが、年代を経るに従ってその比率が下がっている。これは「一部のエリートによる編集ではなく、膨大な普通の人による貢献が広がっている」という仮説を指示しているように見えて、やはりWikipediaは"wisdom of crowds"なのか、と思う。

ところが、これはWikipedia全体のスケールアップを考慮していないからであって、「上位1%のユーザが貢献している割合」として調べると、年代に関わらずだいたいいつも50%になるとのこと。log-logプロットすると綺麗にpower law に従っているのがわかる(グラフ右)。つまり、Wikipediaは貢献者数を増やし続けて急激に拡大しているコミュニティだが、その規模に関わらず常に1%の上位ユーザが50%の編集を行っているという構造は変化していないという発見である。wisdom of crowdsがきちんとpower lawに乗っているのが、現実のWikipediaによって示されたというのは驚くべきことではないだろうか。個人的には今回のCHIのベスト発表。

Google パーティ


CHIの正式レセプションは縮退してしまったと書いたが、それを補ってあまりあったのがGoogleによるパーティで、サイエンスミュージアムを全館借り切って行った。展示物も動いているのでいろいろと遊ぶ。


これはロボットアームが自分の入れた単語をならべてくれるデモ。


日立のミューチップが使われている。