名刺交換の弊害

先日、インキュベーションキャンプと言うスタートアップ向けのイベントでのクローズドパーティで講演した時、ひとつ気付いたことがありました。それは「名刺交換の弊害」です。
名刺交換は言うまでもなく日本のビジネスシーンでは欠かせない儀式です。そこでの差し出し方、受け取り方、そこで交わされるやりとり内容はビジネスパーソン同士の出会いのプロセスとして非常に重要視されています。でも、その前提としては「会社 対 会社」の「肩書きと地位」を「形式的に交換」し、「その後の取引に活用」するという暗黙の合意があります。

ただ、そこには大きな見落としが有ります。なぜならスタートアップの場合は「会社対会社」ではなく、あくまで「個人対個人」の出会いで有り、「肩書きや地位」ではなく「その人のパッションやミッション」が大切で有り、「その後」ではなく「その瞬間」からディールが始まっているのですから。
ですから、"名刺交換と言う形式"に甘んじる事で、「人と人」が「信念や責務」をその場でシェアし、「その瞬間やれることを」闊達に即語り合うという大事なプロセスを疎外してしまっているのではないか?と思うのです。

例えばベイエリアのカンファレンスなどでよくある出会いのプロセスではその場で「アイコンタクト」し、「お互いの所信や方向性」を明かし、その場で「お互いが取り組めそうなアクション」を語り合います。その間はほんの数分なのですが、日本企業的な「名刺交換し、その後アポイントを入れ、そのアポイントの機会でもまだ具体的なアクションに関しては余り話題が及ばず、何回かの会合を経てようやく方向付けやアクション内容を固めるのだけど、契約を交わすまでにはまだまだ数段のプロセスが必要」、という流れを圧倒的に圧縮可能なプロセスでもあります。

例えば「頓智の井口です。拡張現実で世界の見え方を変えようとしています」→「なるほど、僕らはロケーション情報を起点にしたレコメンドで特にエンタメ情報のパーソナライズを懸命にやってるんだ」→「面白いですね。頓智ではソーシャルな出会いを可視化する為のサービスパートナーを捜しています」→「我々は、モバイルで新しいインターフェイスを用いたソーシャルネットワークに大きな可能性を感じている。僕らのレコメンデーションエンジンを用いれば、あなたのサービスに豊かな体験性を付加出来るに違いない」→「素晴らしい!じゃあ、技術的課題に付いて早速来週ミーティングを持ちましょう」、、みたいな流れが相当な頻度で発生します。

どうでしょうか?恐らく、多くのスタートアップ起業家は少なからずグローバルな製品をシリコンバレーのプレイヤーとの競争にも負けない速度感や規模感で普及させたいと言う意欲を持っているのではないでしょうか?ところが、名刺交換と言う旧い慣習に囚われる事で多くの好機を逸しているのかもしれません。

あるいは、名刺交換と言うプロセスにハマってしまう事で、行動規範的にも非常に旧態以前な価値観や鈍感さにまみれているのかも知れません。今やソーシャルネットワークの普及により、名刺交換を使ったネットワーク管理を僕らは必要としていません。いっそ、名刺交換の慣習を排除して「その場でアイコンタクトし、その場でコミュニケーションし、その場でディールする」ことを当たり前にしてしまいませんか?