尖閣、沖縄そして日本 (1) 

 この夏、深夜の再放送でみたのは、佐藤首相の密使として沖縄返還交渉にあたった若泉敬さんの物語だった。佐藤政権は「核抜き本土並み」での沖縄返還を公約として掲げ、米国ニクソン政権と交渉した。万一の際の沖縄への核兵器の再持ち込みを了解するとの密約を結び返還を成し遂げた。変換後、若泉さんは福井県鯖江に隠棲した。時がたつにつれ、祖国が自国の安全保障を真摯に考えることをやめた「愚者の楽園」に見えてきた。そして94年、密約の内容を開示した『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』を出版する。題は三国干渉に遭って譲歩を余儀なくされた陸奥宗光の『騫々碌』の言葉だという。そして2年後、その本の英語版の序文を書きあげ自裁した。
 今日においても国際環境は苛烈であることに変わりない。尖閣諸島事件の処理にあたって民主党の国会議員と外交担当職員が訪中し、フジタの社員は1名を残して解放された。米国によるイラン制裁のため、アザデガン油田から国際石油開発が撤退せざるを得なくなった。間の抜けた国会の答弁を聞いていると「愚者の楽園」は、今、首相官邸にある。
 中国は謝罪を要求しているが、ほとんどの日本人はあきれている。人質をすぐ取る理不尽な国では商売はできない。普通のビジネス番組で、ビジネスコストも含めて、ごく当然に脱中国シフトが語られ始めた。法と証拠によらず、国益を判断した検事総長はその理由を国会で聞かれてしかるべきだろう。変な政治家に当たったと思って我慢するしかない。外交上、大人の対応を主張する人たちは、中国の出方をどのように予想しどのように尖閣諸島を防衛するかを述べなければならない。個人的には、中国が過去に南シナ海で彼らが何をしたかをみれば、日本のやるべきことは明確だ。
 中国は74年、駐留していたベトナム軍を武力で排除し西沙諸島を占領した。現在は、2600mの滑走路と衛星通信施設のある軍事基地となっている。南沙諸島は、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾が領有権を主張しているが、今回のように中国漁民が先頭に立って侵攻し87年、88年に幾つかの環礁を占拠した。今では対空砲、対艦砲、ヘリポート、大型艦船が停泊が可能な突堤をもつ軍事施設となった。中国は本来であれば96万平方キロの排他的経済水域しかないはずだが、渤海黄海東シナ海南シナ海の合計473万平方キロのEEZのうち300万平方キロを自国の支配海域と一方的に宣言している。
 仮に、尖閣諸島を中国に押さえられると、漁業資源や海底ガス田が取られるだけでなく、そこに航空基地が建設できる広さがあるため、台北や沖縄そして東シナ海全体がそこから脅かされる可能性がある。また中国は中東までのシーレーン警戒に注力していることを考えれば、中国がシーレーン封鎖を作戦パターンとしていることがわかる。2015年には5-6万トン級の空母が2隻準備されている。小型の漁船であっても空母がついてくれば海上保安庁の巡視船で追い払うことはできない。その空母には最新型戦闘機が搭載されることは確実だ。それがこの海域に入ってくれば与那国、石垣はもちろん沖縄、九州、台湾、韓国へのシーレーンが押さえられてしまう。中国は一党独裁国家であることから方針が変わることは考えにくく警備を固める以外の道はない。現在わが国の2-3倍と推測されている防衛費が毎年2桁の伸びるとすると10%としても5年後には1.6倍、現在の日本の防衛費の5倍となる。今まで以上に嵩にかかってくるのは明らかだ。
 沖縄では、現在、中国の理不尽な主張に基地反対運動を続ける左派の主張に一般市民が少し疑問を感じ始めたようだ。正確な事実認識をするという意味で1日も早い事件のビデオの公開が必要だと考える。11月末に沖縄知事選があるが、排他的経済水域からの中国漁船の排除、国防上の必要な措置はそれとは別個に直ちに取り組むべきと考える。