バラナシ20・最後の朝焼け〜バラナシ出立


バラナシでの最後の朝焼けも見たくて時計をセットしていた。起きて窓の外を見やると、もう空は明るくなっていた。けれど、その朝焼けはかつてないほどにドラスティックで美しかった。
俺はいてもたってもいられなくなってカメラ片手にホテルを飛び出した。するとYuiもホテルを出たところにいた。


「あ…VESあなたも朝焼けを撮りに?一緒にガートに行きましょう!」

『うん、けれどFennyは』

「まだ寝ているから」

『そっか』

というわけで二人でガートに向かう。



『うわっ…すげえ…』

薄暗い路地を抜けてガートまで出るともうまばらに沐浴に出ている人がいる。オレンジ色に彩られたガートの風景を写真に収めようと俺達はひたすらシャッターを切りまくった。

河岸のギリギリから撮ってみたり、沐浴のインド人を撮ったりしているとふとYuiの姿が見えなくなった。ヤバいはぐれたかな?と思っていると、ああ色んな写真を撮ってきちゃった。とYuiが現れた。彼女も俺と同じように最後の朝焼けに興奮してはしゃいでいたのだ。

階段状のガートに少し出っ張ったように祭壇のような台がある。目の前は穏やかな流れにさざめくガンジス川Yuiはその祭壇の端の方に足を投げだして座り込み、静かに河をながめていた。
その様が絵になるなあと思って俺は後ろから彼女を撮影する。なんていうかシチュエーションがドラマチックすぎて、Yuiが俺の好みのタイプだったらここで迷わず告ってしまいそうな程美しい朝焼けだった。
あいのりだったら確実に前の晩帰りのチケットもらいにいって、CMののち朝告白の流れになる展開だ。まー結局俺はそんな展開にはならなかったわけだけど。


ゲストハウスに戻るとFennyがもう起きていた。彼女はちょっと残念そうな、ムッとした顔をしていた。なんでかというと、Yuiが彼女を起こさないように朝焼けを見に行く時に外側のドアノブに南京錠をかけて施錠したから、出たくても出れなかったらしいのだ。このゲストハウスでは外出する時そのように鍵をかけることになっている。

「ま〜〜〜いいけど〜〜」
と、ちょっと拗ねた振りをするFennyと平謝りのYuiが可笑しかった。


いよいよ三人ともバラナシを出立する時がやってきた。この後の三人の予定はバラバラで、俺はいったんデリーに戻りジョードプル行きの鉄道に乗る。Fennyはブッダガヤへ。仕事の休暇が終わるYuiは香港へ帰らなくてはならないのだ。

俺の宿泊する部屋であるゲストハウスの塔屋で荷物をまとめていると、その窓から見えるガンジス川や、広いベッド、青と白でまとめられた部屋が急に名残惜しくなる。バラナシに来てまだ三日だというのに色々な思い出がありすぎて、離れ難かった。こんな気持ちはデリーにはなかったことで、どんなにか自分がバラナシを楽しんで見て回っていたのかと思う。
また香港の二人との別れのこと。基本的に一人旅が好きな俺にとっては、行き通りの旅行者とこんなに数日も行動を共に過ごすことはあまりなかった。バラナシを楽しめたのは間違いなく彼女たちがいたからというのもあったと思う。

しかしともあれゲストハウスを出る時間になった。俺とYuiは飛行機に乗るため空港まで来たときと同じようにトゥクトゥクに乗って行く。鉄道の駅に向かうFennyはそれを見送る形になった。

『ありがとう。一緒にバラナシを回れて楽しかったよ!この後もいい旅をね』

「こちらこそ!VESも気をつけてね。またそのうち会いましょう!」

と言ってFennyはYuiに中国語で二言三言話すとトゥクトゥクは走り出した。手を振って彼女は反対方向に歩き出す。人によって違うと思うが、俺はこんな時何回か振り返る派の人だった。二回ほどFennyの方を振り返る。彼女は全く振り返ることなくスタスタと歩き去っていくところだったのだが笑。
でもそんなサッパリした別れが彼女らしいと思った。一緒にいても常にニュートラルな感じでいて、我を通すことはあまりない、サッパリとした笑顔で人に気を使わせない人。彼女が飛行機で声をかけてくれたからバラナシが楽しかったのかもしれない。


バイバイFenny、バイバイバラナシ!!




ジョードプル編に続く。