桜庭一樹:少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)

突然男に身を浸してみたいと思い、七人の男と交わり父親不詳の娘を身ごもった母は、娘が大きくなると家を頻繁に空けるようになり、七竈と名付けられた娘は祖父とひっそりと暮らしていた。ところが、七竈は大変に美しく、いろいろな人々の注目を集めてしまう。それから逃げるように、これまた美しい幼なじみの少年雪風と、ひがな自宅で鉄道模型で遊んでいたのだが、小さな町で、さまざまな出来事が二人に襲いかかり、悩ましくもどかしいはなし。


物語の出だしは、普通の小学校の教師である女性がとつぜん「いんらんに」なって「辻斬りのように」男遊びをしてみたいとのたまうモノローグからはじまり、あらまあ素敵と思いながら読み進むと、すぐに彼女は舞台袖に降りてしまい、彼女の娘である七竈の一人称で物語が語られます。と思ったのもつかの間、物語の語り手は章ごとに犬であったり、雪風であったり、雪風の母であったり、そしてまた七竈であったりと、揺れ動く視点の中で物語のエントロピーは増大し、拡散しながらもある一つの収束点へ向かって静かに落ち着いてゆく、あまり言語化しきれてはいませんが、なにかそのような美しさと力強さを感じさせる作品でした。

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