西村健:任侠スタッフサービス

仁侠スタッフサービス (集英社文庫)

仁侠スタッフサービス (集英社文庫)

個人で旅行代理店や旅館、コンパニオン派遣会社、料亭など、さまざまな商売を営む男女たちが知らずとヤクザのフロント会社「倶利伽羅紋々派遣会社」に取り込まれて行く。いったいヤクザの狙いはなんなのか、分からぬままに素人の彼ら彼女らはコンゲームに巻き込まれてゆくことになる。


本書は二つの部分からなり、第一部では7人の男女が、思いもかけぬ出来事によってまんまとヤクザのフロント企業の顧問や社員にさせられてゆくエピソードが、第二部ではうって変わって、ヤクザの取締になみなみならぬ思いを抱くキャリア警察官僚の下で働く刑事を主人公とした、ヤクザの悪巧みを追いかけるミステリー的なエピソードが語られます。雑誌掲載時は第一部のみ発表されたとのことですが、第二部があるなしでほとんど違う小説になっているように思います。


第一部だけでも、確かに楽しめます。ヤクザとはまったく関わりのない生活をしていた人々が、まんまとヤクザの策略にはめられ巻き込まれてゆく、しかもその道筋は、派遣会社から助っ人として送り込まれて来た若者がヤクザであったり、旅館に長逗留しているヤクザと思しき客の相手をしているうちに賭博にはまりこんでしまったり、先輩の手伝いをしているうちにヤクザの事務所でコンピュータ処理をするはめになったりと、様々で飽きさせません。


これが、しかし第二部においてがらっと構図を変えて展開するところに、本書の大きな勢いの良さというか、手ごたえの気持ち良さがあります。しかも、なぜ様々な業種の人々が集められたのか、警察はもちろん当人たちもわかりません。そんな中、当人たちがアンソニー・バークリーを気取って推理合戦を始めるところなど、著者のミステリに対する偏愛が感じられ、楽しいことこの上もないのです。


でも、僕が一番面白いとおもったのは、作中の登場人物たちのことばづかい、すなわち博多弁の美しさにあります。大阪弁はよくみますが、ここまでリアルで美しい博多弁を、作中で惜しげもなく披露する作品に、久しぶり、もしくは初めて出会ったように思います。大学生のころ博多と長崎出身の友人がいましたが、彼らの言葉遣いに深い感銘と、ある種の羨ましさを感じたことを、懐かしく思い出しました。