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2011-01-14

西村健:残火

| 03:17

残火 (100周年書き下ろし)

残火 (100周年書き下ろし)

議員会館で衛視として働く青年富士見は、ある日あからさまに異様な気配を漂わせた男が議員会館を出て行くのも目撃する。その直後、「民自党」のドンである戸川代議士の部屋で強盗事件が起こったようなのだが、代議士の関係者はのらりくらりと対応し、秘書の一人は姿をくらませてしまう。疑問に思った富士見は、警察を退職し衛視と警察の連絡会に天下った元ベテラン刑事久能に相談する。その強引な追求から、どうやら戸川事務所では表に出せない何かが強奪されたらしく、その強奪犯は伝説の元ヤクザであることが判明する。一方で戸川事務所では、この危機を打開すべく会合がもたれ、元ヤクザでほとんどヤクザのフロント企業とでも言うべき調査会社を営む矢村が必死の火消しに飛び回る。そんななか、強奪犯である初老の花田は、その行動の理由を明らかにしないままひたすら北を目指しのんびりとした旅をつづけてゆく。


いわゆる「ジャンル分け」にはまったく意味を感じないのですが、それでも西村健氏の描く世界ってどのような「ジャンル」に分類されるのか、不思議に思ってしまう魅力にあふれているように思います。初めて出会った氏の著作である「任侠スタッフサービス」は、なぜそこまで賭博に詳しいのですかと思ってしまうくらいのいわゆる「ヤクザ」小説かと思ったのですが、どうやらそうでは無い。「ヤクザ」小説や「警察」小説に感じられる、組織論へのオブセッションがまるで感じられません。むしろコンゲーム的要素と伝統的人情話的雰囲気が強く、あれっと思わされました。


その後「ビンゴ」「劫火」「突破」「脱出」などを次々読んで見たのですが、大雑把ではありますが僕が一番感じた印象が、日本全国名所巡りの小説という、なんとも内容とは一致しない不思議なものでした。本書も、ぱっと見元ヤクザとブラックな政界関係者、そして元警察官の熾烈なつばぜり合いなのだけれど、おそらく物語の根幹をなすのは元ヤクザの北陸から青森、北海道へと至る人生の総括の旅であり、そこで描かれる食べ物や人々との交歓の姿なのです。


そこにこそ、僕が西村氏の小説に感じる安心感があって、本書もとても楽しめました。そして、この良く訳のわからないところが、氏の小説をある意味分類不可能なものとしているような気もして痛快です。でもねえ、基本的には群像劇な本書、一番のトリックスターとも言うべき初老の元ヤクザは、バブルに嫌気がしてしまいヤクザを廃業して豆腐屋を始めてしまったり、しかも突然ジムでクライミングを習い始めたりしてしまう。元刑事で広島弁の男は、ヤクザに取り込まれた警部補の部下に息子のような愛情を感じてしまい、まっとうな刑事とすべく教育に目覚めてしまう。ヤクザのフロント企業として(正確には違うのだけれど)政治家の汚れ仕事を引き受けてきた男は、ヤクザ時代にあこがれていた姐さんと天丼を食べながら至福の時間を過ごす。よくわからないのだけれど、本書は結構いままでに読んだことのない、団塊世代の時代遅れの運動会兼再生の物語とでも言うべき、タイトルと表紙、そして帯の刺激的な文言とはまったく異なった世界を描き出しているように思えました。それがつまらなかったのかというとそんなことなくて、あまりにも未体験な世界にぐんぐん引き込まれてしまう。なんだかよくわからないのですが、とても楽しめたことは間違いありませんでした。

aprilapril 2011/06/30 11:46 お元気でしょうか。
読書記録の更新をいつも楽しみにしているファンです。
松田様のお陰で読書等の幅が広がり感謝申し上げます。
ありがとうございます。謝謝!

2010-08-21

西村健:任侠スタッフサービス

| 20:59

仁侠スタッフサービス (集英社文庫)

仁侠スタッフサービス (集英社文庫)

個人で旅行代理店や旅館、コンパニオン派遣会社、料亭など、さまざまな商売を営む男女たちが知らずとヤクザのフロント会社「倶利伽羅紋々派遣会社」に取り込まれて行く。いったいヤクザの狙いはなんなのか、分からぬままに素人の彼ら彼女らはコンゲームに巻き込まれてゆくことになる。


本書は二つの部分からなり、第一部では7人の男女が、思いもかけぬ出来事によってまんまとヤクザのフロント企業の顧問や社員にさせられてゆくエピソードが、第二部ではうって変わって、ヤクザの取締になみなみならぬ思いを抱くキャリア警察官僚の下で働く刑事を主人公とした、ヤクザの悪巧みを追いかけるミステリー的なエピソードが語られます。雑誌掲載時は第一部のみ発表されたとのことですが、第二部があるなしでほとんど違う小説になっているように思います。


第一部だけでも、確かに楽しめます。ヤクザとはまったく関わりのない生活をしていた人々が、まんまとヤクザの策略にはめられ巻き込まれてゆく、しかもその道筋は、派遣会社から助っ人として送り込まれて来た若者がヤクザであったり、旅館に長逗留しているヤクザと思しき客の相手をしているうちに賭博にはまりこんでしまったり、先輩の手伝いをしているうちにヤクザの事務所でコンピュータ処理をするはめになったりと、様々で飽きさせません。


これが、しかし第二部においてがらっと構図を変えて展開するところに、本書の大きな勢いの良さというか、手ごたえの気持ち良さがあります。しかも、なぜ様々な業種の人々が集められたのか、警察はもちろん当人たちもわかりません。そんな中、当人たちがアンソニー・バークリーを気取って推理合戦を始めるところなど、著者のミステリに対する偏愛が感じられ、楽しいことこの上もないのです。


でも、僕が一番面白いとおもったのは、作中の登場人物たちのことばづかい、すなわち博多弁の美しさにあります。大阪弁はよくみますが、ここまでリアルで美しい博多弁を、作中で惜しげもなく披露する作品に、久しぶり、もしくは初めて出会ったように思います。大学生のころ博多と長崎出身の友人がいましたが、彼らの言葉遣いに深い感銘と、ある種の羨ましさを感じたことを、懐かしく思い出しました。