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2007-07-03 「刑事事実認定入門」への提言

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刑事事実認定入門

刑事事実認定入門

1.はじめに

 「刑事事実認定入門」は、定評有る刑事証拠法の実務書である「刑事実務証拠法」の著者である、石井元判事の手による本である。「はしがき」によると、法科大学院における事実認定に関する基礎的な事柄を実務に即しながら、全般的に記述したもので、2年次あるいは3年次の利用を予定しているそうである。

 本書は、確かに判例の具体例を用いながら、刑事事実認定の代表的な要素の持つ意味を解説している点は、評価できる。しかし、3点ほど指摘したい点がある。

2.半分は証拠法

 1つ目は、半分近くが事実認定ではない「証拠法概論」の内容で占められているということである。実質的にはたった130ページの薄い本であるにもかかわらず、前半50ページは「第一部」という形で伝聞法則、証明を要する事実等、刑事訴訟法の「証拠法」のことろで勉強する内容が書かれている。事実認定の資料が何かという意味で、事実認定に関連する内容であることは間違いないが、2年次あるいは3年次の、既に証拠法を知っている学生に対する利用を予定しているのであれば、この点は、他の本での学習にゆだねるべきであり、薄い本の内容をより薄くする必要はなかったのではないかと考える。

3.証拠構造への言及が薄い

 2つ目は、証拠構造についての言及が非常に薄く、一読しただけでは、どこでどのルールを使うのかがよく分からない。証拠構造というのは、大まかに言えば、間接事実型か直接証拠型かということである。

 例えば「殺人事件において、被告人の犯人性*1が争点となっており、犯行自体の目撃者がいないが、現場に遺留されていたナイフの指紋と被告人の指紋が一致し、被告人が犯行直後返り血を浴びた状態で目撃されている」という場合には、直接犯人性を示す証拠はないので、「指紋一致」「直後の返り血」といった被告人の犯人性を推認させる間接事実から推論をすることになる。その前提として、それぞれの間接事実が証拠から認定できるかが問題となり、ナイフの指紋と被告人の指紋が同一だという鑑定の信用性(同書p95以下)や、「返り血を見た被告人を目撃した」という目撃供述の信用性(同書p86以下)が問題となる。そして、間接事実が認められるとすれば、そこから犯人性を認定できるかという判断が問題となる(同書109以下)。

 これに対し、例えば、「被告人と共犯者が現場で協力しあって殺人をしているという事件で、被告人は犯人性を争っているが、共犯者が全面的に認めていて、被告人と共に犯行をしたという供述をしている。被告人は捜査段階では認めていたが、公判段階で否認した」という場合においては、共犯者の自白(の被告人の関与をいう部分)及び被告人の自白が信用できるかが最大のポイントであり、仮に「ナイフの指紋と被告人の指紋の一致」や「犯行直後返り血を浴びた被告人の目撃」という間接事実があっても、これらは共犯者の自白や被告人の自白の信用性を検討する際の要素*2にすぎない。そこで、共犯者の供述の信用性(同書p71以下)及び自白の信用性(同書p63以下)が問題となる。

 このように重要な証拠構造の問題については同書p18に2段落分の雑駁な記載があるだけであり、この点は事実認定「入門」としては不親切な感じを覚えた。

4.1つの事件全体を通じた認定過程がわからない

 3つ目は、個々の判断要素については判例の具体例が出ているが、1つの事件全体を通じた認定過程がよくわからないということである。この点は、上記の点とも関連してくるが、「この事実認定の技法・要素」はどこで使うの? というのがよくわからないのである。

 例えば、「窃盗の犯人性を否認しており、間接証拠しかない事例」と「殺人で犯人性を認めるが殺意を否認している事例」と「共犯者のいる殺人で被告人は犯人性を否定しているが、共犯者供述と目撃供述がある事例」の3つの事例を使えば、自白、共犯者供述、第三者供述、鑑定(足跡鑑定等)、近接所持、間接証拠による殺意の認定といった同書に記載されている事実認定の技法の大部分をカバーできる。

5.改訂版への提案

 以上のような点からは、現在の時点では同書よりも「自由と正義」2000年6月号に掲載されている「刑事事実認定入門」(藤井敏明著)の方が優れているというべきであろう。同論文は、具体例は少ないものの、たった10頁程で各類型の証拠の証明力の判断する際の要素、及び間接証拠によりどう認定するかについて、証拠構造を意識しながらその要点をまとめている。特に証拠構造の意識という点で、同論文は非常に優れている。

 だからこそ、同書に対しては、次のように提案したい。まずは、第一部を削除すべきである。その上で、最初に証拠構造とその違いの重要性を詳述した上で、各証拠の証明力についての判断要素*3を説明する。そして、第一部削除によって空いたスペースを利用して、典型的な事件を2,3個掲載し、これについて、重要な証拠を挙げ*4て、この事例を通じて、具体的にどのような点に着目して、事実認定の技法を用いて、結局どのような「すわりのよい」結論に至るのかを解説する。このような改訂がなされれば、同書の「具体例を使った事実認定上の要素の説明」という部分のよさがより引き出され、ロースクール生が刑事の事実認定に入門する上で、より役に立つ本になるものと思われる。

まとめ

 同書はよい本ではあるが、(1)証拠法について無駄に厚い言及がなされている、(2)証拠構造の重要性を説ききれていない、(3)事例が細切れになっており、1つのまとまった事案にどう各技法が適用されるかわかりにくいという点がある。これらの点を改善すれば、同書は「入門」書としてよりよいものとなるであろう。

*1被告人とその事件を起した「犯人」の同一性

*2:例えば、被告人が自白の中で「ナイフを素手で触って被害者を刺すのに使い、そのまま現場に捨てた」と言えば、指紋一致により被告人の自白が裏付けられ、自白の信用性が高まるという関係になる

*3:この点はほぼそのままでよいのではないだろうか

*4:証拠の概要と、重要な証人の証言及び被告人の調書・公判供述だけでよいだろう。それであれば、1事例2,30ページで足りるのではないか。