アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

有価証券報告書を利用したブラック企業かの見分け方

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない


1.はじめに
就職活動が解禁され、法学部の3年生の皆様は、説明会等のイベントで忙しい時期ではないかと推察される。さて、多くの方は「ブラック企業には勤めたくない」と思ってらっしゃるだろう。問題は、「どう見分けるか」である。


様々な文献・サイトが様々な切り口からこの点を検討しているところ、
http://www.toyokeizai.net/spc/shushoku/2012/12/black/
が、四季報で分かるブラック企業の見分け方」という切り口を紹介されていた。
私は四季報といえばいわゆる『会社四季報』のことだと思っていたので、会社四季報掲載の投資家用のデータからどうブラックかを読み解くのかなぁと興味を持ってサイトを訪れた。


しかし、ここでいう「四季報」は「就職四季報」であって、(説明会等で質問せよという部分もあるが)基本的には「就職四季報」に掲載されているアンケート調査の結果(NA/無回答あり)に基づく分析のようである。


2.有価証券報告書からのブラック企業かの見分け方
そこで、私が「きっとこういうことが書いているのではないか」と想像した、「有価証券報告書からのブラック企業かの見分け方」を簡単にご説明したい。


有価証券報告書は、金融商品取引法によって上場会社プラスαの会社に提出が法律上義務付けられている書類である*1。その目的は、情報開示であり、正しい情報を一定のフォーマットに従って提出することが義務付けられており、およそ上場企業であれば、全社が(無回答はなく)情報を提供している*2


まず、有価証券報告書はどこにあるか。
EDINET
EDINETにアップされている。


有価証券報告書等」をクリックし、「提出者名称」に会社の名前を入れると出てくる。
ただし、有価証券報告書だけではなく、その他の法定の開示書類も出てくるので、有価証券報告書(有報)」に焦点を絞ろう。なお、同じ有報でも「訂正」報告書は*3使えない。


さて、目当ての会社の有報を見つけたら「従業員の状況」を見る。平均年齢、平均勤続年数、年間平均給与が記載されている。


例えば、トヨタ自動車株式会社の108期(今年3月まで)の有報では

従業員数 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
69,148*4 38.3 15.0 7,400,369

となっている。


簡単に分かるのは、平均年齢、平均勤続年数と平均年間給与である。
すぐに辞める人が多い会社は、一般には勤続年数が短い傾向にある。「普通は3年で辞める」会社なら、平均勤続年数も短いという形で有報に現れる。平均年間給与については、「給与は高いけど、そのほとんどが残業代」等のトラップもあるものの、トヨタの従業員を平均してみると、38歳で、今まで15年働いてきて、年間740万円もらっている」というイメージを持つことができるだろう*5


 なお、有報にある情報だけではなく、ニュース等を検索して、情報を付加してみよう。平成24年の年間一時金が「178万円」で、平成23年より5万円少ないというニュースがある。そうすると、約200万円がボーナス、約500万円が給与という「大雑把な」概算を得ることができる。


更に、少しだけ計算をしてみると、平均年齢から、平均勤続年数を引くと、平均入社年齢が出る。トヨタ自動車の場合38−15の約23歳の時に入社するのが平均的と言える*6
この数字から、当該会社が新卒一括採用がメインか、中途採用を多く採っているかも分かる。小さな会社等では、必然的に中途を採らざるを得ないことも多く、中途が多いからブラックとは限らないが、どんどん辞めていくので「止血」のために中途採用を大量に採るブラック企業も多い。平均入社年齢から「怪しい」と疑うきっかけを得ることができるかもしれない。


実は、この他に退職引当金等の数値も有報に掲載されているが、本エントリでは、そういう会計的な所に深入りするのではなく、比較の視点を紹介したい。


 まずは、「業界内の比較」である。もちろん、業界全体がグレーという業界がないとは言わないが、同じ規模の会社なのに、平均勤続年齢が突出して低いといった場合には、注意が必要である。なお、同業界で比較する場合、単純に給与を比較するのではなく、平均年齢を加味すべきである。平均年齢が55歳のお年寄りばかりで平均給与が高いA会社というのは、給料が良さそうだが、最初の数十年はすごく薄給かもしれない。逆に平均給与が比較的安いが、平均年齢が30歳ちょっとのB社の方が、最初の給料がA社よりも多いかもしれないし、(平均年齢が若いから給料が安いだけで)その後もA社よりは良いかもしれない。


 次は、「過去の推移」である。要するに、昔と比べてどうなっているかである。平均年齢が高齢化していく会社、従業員が増えない割には勤続年数が短くなっている会社*7等はクエスチョンマークが付き易い傾向にあるだろう。


 このような数値分析に加え、当該会社のニュースを分析すると、「この年に一気に従業員が減ったのは、リストラがあったんだ」といった、数値の「裏」が分かり、重層的な深い理解につながる。こうやって、労働環境についての客観的データを把握した上で、疑問点をリサーチするという方法は、まさに「地に足の着いた」ブラック企業の判別方法になるだろう。

まとめ
有価証券報告書には、毎年従業員に関する数値が一定のフォーマットで掲載されています。
フォーマットが一定なので、過去にさかのぼって推移を見たり、他社と比較することも簡単です。
数値だけでブラックかを即断はできませんが、ニュース等の他のソースによるリサーチと併せて重層的に調査することで、ブラック企業を見分けることができます。

*1:そのプラスアルファの範囲を語りだすとそれだけで1つのエントリになってしまう。

*2:つまり、比較がやりやすい

*3:これから説明する部分が訂正されている場合には有用だが、普通は

*4:平均臨時従業員は9,139

*5:あくまでもこれは「イメージ」であり、具体的なそういう38歳の人がいるという意味ではないことは留意が必要である。

*6:高校等の卒業者もいるだろうが、かなり新卒一括採用が多いと言えよう。

*7:なお、従業員を増やしてそれによって勤続年数が減ること自体は当然だが、急に増やしすぎることのデメリットも考える必要があるだろう