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2014-07-26 一番分かり易い「立憲主義」の入門書〜南野森・内山奈月『憲法主義』

[]一番分かり易い「立憲主義」の入門書〜南野森・内山奈月『憲法主義』 01:45 一番分かり易い「立憲主義」の入門書〜南野森・内山奈月『憲法主義』を含むブックマーク 一番分かり易い「立憲主義」の入門書〜南野森・内山奈月『憲法主義』のブックマークコメント

憲法主義:条文には書かれていない本質

憲法主義:条文には書かれていない本質



 何が一番分かり易い憲法の入門書か。これは、非常に難しい問題であり、憲法が98条1項で、「俺が最高法規だ!」と宣言しているのと同様に、「自分が一番分かり易い憲法本だ」と主張する本は少なくない。ただ、私の探し方が悪いのか、これまで、「これだ!」というのはなかなか見つかってこなかった*1


 しかし、この度発売された、南野森・内山奈月『憲法主義』、これがいいのである。人によっては、「タレント本」「アイドル本」とラベリングしてしまって、そんなのは読まないという人もいるようだが、そういう偏見を持たずに読んでみたところ*2本当に分かりやすく、面白かった


1.立憲主義の本質

 タイトルの「憲法主義」という言葉は、法学クラスタにとっては、やや奇異に感じられる。「憲法」も分かるし「主義」も分かる。でも、「憲法主義」って??という感じであろう。


 どうも、日本の若者にとって、*3「立憲主義」という言葉を理解するのが難しいので、「憲法の主義」、要するに、憲法を政治の根本に据える主義、憲法によって国家を運営して行く主義のことだよ*4と説明したことによるようである。つまり、本書のタイトルを、法クラにとって、親しみ易い言葉に引き直せば、立憲主義になる。


 この立憲主義について、南野先生と、内山さんの間で、興味深いやり取りがある。

 

さて、何度も言うように、憲法は人権を保障するために権力を分立します。ここで、憲法の「名宛人」ということを考えてみましょう。

◆内山 名宛人?

 名宛人って、何だろう?

◆内山 対象者のことですか?

 対象者ね。なるほど。では、憲法は誰を対象にしてるの?

◆内山 その国の国民。

 ではないのです。

◆内山 えっ?

 ここが大事なところです。

 答えから言うと、憲法は国家権力を対象としています。


南野森・内山奈月『憲法主義』82頁〜83頁


 この引用部こそが、本書のキモではないかと個人的には考えているところである。本書から伺えるのは、内山さんに対し、学校の社会科や公民の先生は、かなり丁寧に憲法について教えてくれて来たし、内山さんご自身も憲法が好きで、憲法の条文を暗唱する他、色々と憲法について調べている。しかし、その彼女さえも勘違いしているのが、「憲法は誰を縛るためにあるか」という点である。


 内山さんのように、普通の人は、憲法を「法律の親玉」で、国民を縛るのではないかと思っているようだが、そうではなく、国家権力を縛るところに憲法の意義があるというところである。そして、これを理解することこそが、「立憲主義」いや、「憲法主義」を理解することになるのだ。



2.気になった点

 このように、本書はタイトルどおり、「憲法主義」もとい「立憲主義」を分かり易く理解させてくれる本だが、入門書では必然的に発生する「簡略化のし過ぎ」という面があることは否めないだろう。


 まず、明治期に外国の概念に対応する新語が創造されていく経緯が好き*5な一人としては、南野森『憲法主義』66頁が「権利という言葉を作ったのは、西周だと言われています」とすることには疑問がある。西周がregtを「権」と訳したのは1868年と言われるが、その2年前には、津田真道は『泰西国法論』を訳了し、その中で「権利」という語を用いていた。もう少し遡ると1864年の丁韙良『万国公法』に見られる他、1857年の日米条約6条中でrightに「権」という語があてられていたという*6。このような経緯を踏まえると、もう少し正確な表現を期待したかった。


 次に、AKBの恋愛禁止について、それが私人間の行為だから「憲法違反にならない」*7というのは、ある程度割り切ったというかむしろ、上記のような誤解を正すための教育効果をあえて狙った言い方であろう。そもそも、憲法上に15条4項という私人間適用を明文で認めた規定があることはもちろんであるが、それ以外の規定についても、無適用説を採用しない限り(つまり、いわゆる直接適用説、間接適用説、そして憲法適用説のいずれかを採用した場合)、AKBの恋愛禁止問題についても、少なくとも間接的には憲法が適用され得るのである。この点は、憲法は国民を縛らず、国家権力を縛るという部分を強調するためのレトリックに近いのかなとも理解できるが、やや気になった。



 更に、人権の制約根拠について「他の人の人権との調整が必要で、そのためには人権を制約することも、ときには必要になる。」*8という説明がされているが、これを司法試験でそのまま書くと、もしかすると「それでいいの?」と言われるかもしれない。


 いわゆる公共の福祉を「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理」と理解する一元的内在制約説は通説ではあるが、以下の『憲法解釈論の応用と展開』の記述を引くまでもなく、現在その理論的基礎は大きく揺らいでいる


 実は、こうした通説的見解に対して、最近では学説の批判があり、その地位は大分揺らいでいます。


(中略)


いずれにせよ、<公共の福祉=内在的制約=「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理」>という定式は、そのままでは維持が困難であることがわかります。


宍戸常寿『憲法解釈論の応用と展開第2版』5〜6頁


 要するに、『憲法主義』において、「入門レベル」として、このような通説的見解を学ぶ事自体は十分あり得る事であろうが、その後勉強を重ね、「応用と展開」レベルに入った際には、違う世界が待っていることに注意が必要だろう。



 なお、細かいが、国民主権を権力と権威の2つに分ける場合の権威の意味では「正統性」という漢字を使うことの方が一般的ではなかろうか。『憲法主義』114〜115頁は「正当性」とするが、例えば、野中・中村・高橋・高見『憲法I』第5版91頁は、「正統性」という。



 そして、巻末の文献の紹介方法だが、本書の読者層にとってかなり難解と思われる*9樋口陽一『憲法入門』を紹介しているところや、長谷部恭男先生のご著書として『憲法と平和を問いなおす』ではなく、『憲法入門』を紹介しているところ*10は、やや疑問が残る。


まとめ

 九州大学の気鋭の憲法学の教授である南野森先生と、AKBの、憲法を暗唱するアイドル、内山奈月さんがコラボした奇跡の「立憲主義の入門書」が、『憲法主義』であり、入門レベルでは、破格の分かり易さを誇る。

 もちろん、一部気になるところはあるが、それは、入門書において必然的に発生する、分かり易く説明するための簡略化によるものと理解されよう。

 多くの憲法、立憲主義にこれまであまり興味が無かった若者が、本書を読んで『憲法』『立憲主義』の面白さに気づいてくれると嬉しい。そして、勉強を進めて大島義則『憲法ガール』等、一人でも多くの人が面白い憲法の世界へと飛び出してくれれば(アイドルという三次元から、憲法ガールという二次元へ)、「法学オタクで、これを布教することを生き甲斐とする」私としては最大の喜びである。



後注:


上記の通り、私は、『憲法主義』を読んだ際に、その中の、恋愛禁止が「憲法違反にならない」という表現が、「恋愛禁止は法律レベルの問題に帰着しており、憲法的価値の考慮の余地がない」というところまで言っているのか、そこまで言っていないのかが理解しずらく、このままでは表現が誤解を招く可能性があると思っていたところであるが、上記のようなエントリを書いたところ、なんと、著者の南野先生自ら、その趣旨について、補足の説明を頂いた。

まさに「用語法の問題」であり、一読者としては、脚注か何かで、このツイートの趣旨を補足してもらっていれば、一読して腑に落ちたのかなと思った次第であるが、一読者の書評に対し、真剣にコメントを返して下さる南野森先生に、心より感謝の意を表させて頂きたい。

*1:なお、一番分かり易い司法試験憲法の勉強のための本は、大島義則『憲法ガール』だが、読者層は明らかに違うだろう。

*2:ちなみに、私は、法学系と思料される本は、かなり広く読むことにしている。例えば、某宗教団体教祖の『法哲学入門』も、とりあえず法律書っぽいタイトルだからということで買って読んだ。

*3:英語圏の人にとってのconstitutionalism等とは異なり

*4:『憲法主義』79頁

*5:この経緯について何が面白いかというと、単線ではなく、それまでの漢籍の蓄積、蘭学の蓄積、中国における翻訳の試みの輸入等、様々な語が複線的経緯で創造されていき、その後の受容の過程でも、複数の候補語が一つに絞られたり、新しい語が出てきてそれに取って変わられる等、複線的に受容されていくところである。だからこそ、「●●という語は××が作った」という単純化については、警戒心を隠せない性格である。

*6http://doors.doshisha.ac.jp/webopac/bdyview.do?bodyid=BD00008159&elmid=Body&lfname=007000290002.pdf

*7:86頁

*8:98頁

*9:ただし、繰り返し読む毎に含蓄がある

*10:「なぜ立憲主義なのか」について、憲法入門の方では、概ね2頁しか説明がないが、『憲法と平和を問いなおす』では、事実上丸々一冊「なぜ立憲主義なのか」について語っており、「憲法主義(立憲主義)」に興味を持った読者に発展した議論を紹介するという意味では、『憲法と平和を問いなおす』の方が優れている気がする。

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