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2017-01-08 ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書第2回

[]ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応 20:16 ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応を含むブックマーク ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応のブックマークコメント


1.はじめに

「ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書」と題した、法務パーソン向け記事の第1回につきまして、ご好評を頂きまして、どうもありがとうございます。また、dtk様及び経文緯武様には貴重なコメントを頂きました。どうも、ありがとうございます。



ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


実際の仕事を始める前のロースクール生の方にも、いわばNEW GAME!』の法務*1のような感じで楽しんで頂ければと思っております。



さて、今回のテーマは、依頼・相談を受けた際の対応です。




2.ストーリー


「キミね、まさか、こんなんで給料もらえるとでも思ってるの?」


井上先輩の美貌が怒りにひきつっている。


僕は、司法修習を終えてすぐにIT企業の法務部門に入社した。とはいえ、「法務部」という組織はなく、「総務部法務課」。課長と5年目の井上先輩、そして僕という3人だけの小所帯だ。


法務用の研修プログラムはないということで、1週間、井上先輩に命じられて雛形の読み込みを行った。そしてその次の月曜日に事件は起こった。



井上さん


秘密保持契約の作成をお願いします。


相手方はABC産業(本店所在地東京都●●区××△△代表取締役社長□□□□)で、目的は共同開発です。


できれば本日中でよろしくお願いします。


営業第一部 佐藤



こんな営業からの「よくある」メールを井上先輩に転送してもらい、僕は実質的な「初仕事」を始めたのだった。



秘密保持契約。NDAやCAとも呼ばれるが、どの会社でも使われる比較的オーソドックスな契約形態だ。「研修」用にと、比較的簡単なものを井上先輩が割り当ててくれたのだろう。そう思って、先週読んだ雛形の中から秘密保持契約の雛形を探して、佐藤さんのメールにある情報を埋め込んでいった。そして、「成果物」を井上先輩に送った瞬間、井上先輩に罵倒されたのである。



「は、はあ。何がいけなかったのでしょうか。。。」


「何がって。。。雛形の空欄に固有名詞を入れるだけで仕事をした気になるなんて、それでも法務パーソン!?


鬼の形相を見せる先輩*2


「す、すみません!」


ここはひたすら謝るしかない。


「そもそも、佐藤さんからはこの事案の背景事情とかを聞き取ったの?」


「えっと、まだ。。。です。」


「やっぱりね。」


井上先輩は大きなため息をついた。



法務に相談や依頼する際に必要な情報を全部出してくれる事業部門の人なんていないわ。もしいるとしたらベテラン法務パーソンが事業部門に配転された場合くらいね。必要な情報を聞き出す前に作業をしたって、そんなの単なる時間の無駄。だから、相談や依頼を受けたらすぐに『どんな情報が必要か』を考えて、これを聞き出す。これは法務パーソンが身につけるべき習慣のイロハのイよ。」


具体的には、どういう情報を聞き出せばよいのでしょうか。雛形の空欄のうち、目的も相手の会社の情報も分かってますから、後は契約締結日とかを聞けばいいのかな?」


僕が大真面目にこう言うのを聞いて、井上先輩は頭を抱えた。



「困ったわね。。。抽象的に言えば、法務リスクは何か』を聞き出して、それを成果物、今回の場合は秘密保持契約書に反映する、これが基本。」


「なるほど、佐藤さんに『この事案の法務リスクは何ですか?』と聞けばいいんですか?」


「う〜ん、確かに、最初の質問として『どういう背景でこの案件が発生したのか』とか『何か気になることはあるか』といった5W1Hのオープンクエスチョンから始めて、更なる質問のヒントをもらうことはあり得る。ただ、最終的には、リスクになりそうなところをこちらで想定して、答えをダイレクトに聞くのクローズドクエスチョンで情報を入手することになる。」


「例えば、この事案ではどういうことを聞けばいいのでしょうか。」



「まず、『共同開発』という目的は抽象的過ぎ。大体は何かのきっかけがあって、具体的にこういうものをこういう役割分担で開発しましょうといった『大まかな想定』がされているはず。これを踏まえて、目的を具体的に聞くことは最低限必要。」


「なるほど。」



「その上で、秘密保持契約の法務リスクの高低を決める決定的に重要な要素は『どちらがどのような情報をどちらに渡すのか』。一方的にうちが先方に渡すだけなのか、一方的に先方からうちがもらうだけなのか、それとも相互的なのか、相互的であるとしてどちらの方がもらう量が多いのか。これによって契約条項の書き方が大きく変わる。」


井上先輩はパッと図を書いて情報の流れを示す。


「例えば、うちが一方的に、ないしは大半の情報を渡す側としよう。そうすると、秘密情報の定義はできるだけ広く定義したい、秘密情報の例外はできるだけ狭くしたい、秘密情報の取扱いは厳しく縛って、契約終了後の秘密保持期間もできるだけ長期にしたい。逆にもらう側なら、話は逆になる。」


「そうすると、やりとりする情報の量に応じて雛形の文言を修正すればいいのですね。」


「量だけではなく情報の内容も重要だ。概ね情報をもらう側だとしても、うちが提供する(相対的に)少量の情報が、うちにとって非常に価値が高いという場合には、それをどう守りながら、同時に自社の義務の内容を合理的なものとするかが問題となる。その意味で、量と質の双方から、自社の利益を守り、自社の負担を最小限にする方法を考えて行く。」


「これは頭を使う仕事ですね。」


「それをやってはじめて『給料分働いた』ことになるんだよ、キミ。それに、自分の頭でゼロから考える必要はない。」


「どうすればいいんですか?」


コミュニケーション。要するに、佐藤さんに聞けばいいんだよ。例えば、こっちが提供する情報のうち、保護したいものについてマル秘マークとかを付けることが実務的かどうかを確認してみる。それが可能なら、秘密情報の定義として『秘密であることを明記したもの』という限定を付すことで、こちらの保護したい情報が秘密情報に入ることを確保しながら、相手方から提供を受けた情報のうちこちらとして秘密保持契約に基づき保護すべき情報も明確になる。」


「なるほど、法務コミュニケーションが重要なんですね。」


「こんな感じでイメージがつかめたか。じゃあ、もう一度やり直し!最初からやってみよう!


今度こそ失敗しないぞ、と思いながら、僕は内線番号表から第一営業部の佐藤さんの番号を探し始めた。


3.解説のようなもの


今回は、「事業部門の人から質問・相談を受ける際に当該事案に関する事情を聞きましょう」という基本的な内容を扱っています。


 契約書ドラフト・修正業務といっても、法務パーソンが対応する場合、多くの場合は自社の雛形を修正したり、他社から送られてきた他社雛形を修正する業務であって、スクラッチから(ゼロから)ドラフトすることはあまり多くありません*3


今回は、秘密保持契約ということで会社に雛形がありそうです。しかし、雛形があるからといって、雛形に形式的に固有名詞格等を盛り込んでいけばいいということではありません。受付の際の「前さばき」ないしは「事前確認」をきちんと行うべきです。


会社によっては、

・情報をもらう側

・情報を渡す側

・中立的

の3パターンの秘密保持契約の雛形を備えているところもあるようですが、どうも「僕」の会社は中立的なドラフトが1つあるだけで、これを適宜事案に応じて修正することが求められているようです。


そこで、ストーリーにあるとおり、この事案において法務リスクに関係する事情である、「やり取りされる情報の量と質」等についてヒアリングをした上で、そのリスクに対応した修正をどのようにすべきか、ビジネス部門の方とコミュニケーションを図って行く必要があります*4


これはあくまでも1例ですが、相談や依頼を受けた時に、必要な情報をすぐに聞き出す、というのが法務では重要な「基本動作」と言えるでしょう。

まとめ

 依頼・相談を受けた際の最初の「前さばき」「事前確認」において気をつけていることを簡単にまとめましたが、

 法務の諸先輩方からのご助言を頂戴できれば幸いです。どうぞよろしくお願い致します。



ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:なお、タイトルとして一瞬「NEW HOME!」が浮かんだのですが、最終的には消えました。

*2:ちなみに、作者の脳内では、怒っている時はエルザ=グランヒルテ(ダークサイド)の感じをイメージしております。

*3:なお、自社に雛形がない場合には、顧問先の弁護士の先生にドラフトしてもらう、相手からドラフトを出してもらうという方法以外に「顧問の先生に(顧問料の範囲内で)雛形を提供してもらう」という方法があります。「企業法務やっている事務所なら当然雛形はあるでしょう」というような類型の契約であれば、雛形を提供してもらってこちらで直した方が(法務パーソンの経験等にもよりますが)リーズナブルな場合が多いでしょう。これに対し、そもそも「事務所にも雛形あるのかな?」というくらい複雑で非典型的な案件であれば、最初から顧問先の弁護士の先生にドラフトしてもらうのがよいでしょう。

*4:上記の会話では、やり取りされる情報の質として一定の秘密保持契約上の保護が必要という前提でやっていますが、そもそも、今の段階では秘密保持契約は要らないのではないか、という場合もありますし、逆に営業担当者が「この位の情報なので、NDA要らないですよね?」と言っていても、きちんと話を聞いてみるとNDAが必要な場合もあります。ご参考

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