アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

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2017-02-19 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書第7回

[]ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第7回契約書チェックのポイントその2 23:59 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第7回契約書チェックのポイントその2を含むブックマーク ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第7回契約書チェックのポイントその2のブックマークコメント

1.はじめに

 この連載、先週は残念ながら考えがまとまらないまま時間切れとなってしまったのですが、なんとかツイッターで考えをまとめ、今回公表に至りました。2月14日にツイッターでご反応頂いた皆様、ありがとうございました。


2/23追記:dtk様に

dtk’s blog (ver.3):契約書の内容確認について(リアクション芸人風)

で補足していただきました。ありがとうございます!


2.ストーリー

「お疲れ!」

定時に帰ろうとすると、井上先輩もちょうど帰り支度をしていた。見ると30分前に井上先輩にレビューをお願いした契約書は、先ほど僕をCCにして営業に送付されている。


「井上先輩ってレビュー速いですよね。」


独り言のように呟くと、井上先輩が食いついてきた。


「君は4時30分にドラフトを送った。営業は今日まで欲しいという。逆算すると、レビューに使えるのは30分。」


まあ、ロジカルに考えるとそうなる。


「ドラフトが遅くなったのは悪かったと思ってます。でも、レビューのときにどういう風に契約書を見るんですか? 僕は最初から最後までベターっと見て行くので、一読するだけで1時間とか掛かってしまい、その後修正を入れていくとかなりの時間が掛かってしまいます。」


「契約の実質面のレビューのポイントは、各契約類型毎に変わってくる。要するに、各契約類型毎に適用される任意規定の内容を前提に、当該契約書によって明確にしたい事項、特にその具体的な取引における事情を元に、事前に処理しておきたいリスクの処理が明確にされており、行為規範、つまり事業部門が取引をする際に疑義がないようになっているか、そして裁判規範、つまりトラブルが裁判所に持ち込まれたときに裁判官がきちんと我々の意図どおりに解釈してもらえるのかを重視する必要がある。」


「なるほど。これは一朝一夕には身に付かないなぁ。」


「より汎用性が高いのは、形式面のレビューのポイント。例えば表題、頭書・前文、本文、後文、日付、署名欄(記名押印欄)が揃っているか、条文が1から順番に抜け・ダブりなく並んでいるか、「前条」とかも含めた引用条文が矛盾なく引用できているか、といったことはかなり基本的な部分だが、できていないとそれこそ『ダメ契約の推定』が働く。」


確かに、形式面がしっかりしていないことが、実質面も含めてしっかりしていないことを推定させるという面はあるだろう。


「この辺りは、僕でも注意すればできそうですね。」


「この程度は、契約書を扱う以上は必須だ。後は定義。『本件』なのか『本』なのか、一度定義したら契約書の末尾まで全て同じ表現を続けて表記揺れをなくす。雛形をいじっていると、定義している条文を削除してしまって、定義なく『本件●●』を多用している例とか、定義を活用している条文を削除してしまって、上で『本○○』と定義した後、一度もその『本○○』が使われないこともある。さっきの契約書でも、いくつかあったから、今後注意するように*1。」


帰宅時の軽い雑談のはずなのに、カジュアルにディスられてしまった。

「すみません。定義はあまり注意していませんでした。」


「英文契約では、『大文字のA(で始まる単語)と小文字のa(で始まる単語)の意味は天と地ほど違う』というくらい重要*2だが、和文契約だとそこまでトリッキーなことをすることも多くないから、楽な方に流れがちな傾向にある。ただ、例えば、NDA(秘密保持契約)で、『秘密情報』を『甲が乙に開示した甲の経営情報、技術情報その他の秘密情報』と定義してしまうと、その後『当事者は秘密情報を厳重に保管し、第三者に漏洩、開示してはならない。』という一見平等な規定が入っていても、その意味は直感的な意味と大きく異なるだろう。」


「乙だけが一方的に秘密保持義務を負い、甲は秘密保持義務を負わないということですね。」


「そのとおり。その意味では、やはり定義の部分は力を入れてレビューする必要があるな。後は、甲乙を逆にしてしまう例。賃貸人が甲のはずなのに『甲は乙に対し毎月末日まで翌月分の賃料を支払わなければならない。』と書いているとか、そういうミスは結構見るので、気をつけるように*3。」


「当たり前のことだけれども、それを『当たり前じゃないか』で済ませず、頻出のミスを知った上で『そういうミスがあり得るから気をつけてレビューしよう』、ということを心がけると、契約書のレビューが意識的なものになり、効率も上がりそうですね。」


「少しずつ、コツが分かってきたみたいだな。じゃあ、また明日。」


話に夢中になっているうちに、駅まで着いてしまった。流石に明日突然30分でレビューできるようにはならないけれど、少しずつ効率を上げて行くコツのようなものを何か掴めた気がした。



3.解説のようなもの

 ということで、契約書チェックのポイントのうち、純粋に形式面でもないけど、内容面でもない中間的なものをまとめてみました。

 やはり、形式がしっかりしていることが、内容・実質の充実を推定させるという面があります。法務パーソンは自社の雛形を修正したり、相手方雛形をレビューするということが多いと思われますが、その過程で、雛形ないしは相手送付バージョンにはなかったミス(例えば条文を削除した場合に適切な処理を怠る等)を生じさせてしまうことがあります。そう言う意味で、常に契約書の全体を見ながら「この条文を削除したらどういう影響が出るのか」を、形式面と実質面の両面で考える必要があります。最低でも形式面をきちんと対応するように心がけると、その過程で実質面に気付くという面もあります。

 そこで、実質面は類型毎に契約の実質面を詳説する他の本を参照していただきたいものの、どのような契約書をレビューする場合でも、このような形式面をきちんとチェックし、一貫性のある、整った契約書となるよう心がけ、その過程で実質面にも気付くという付随的効果を狙うというのが良いと思われます。

 なお、このようなチェックのためには(会社によっては資源の節約等の観点から印刷が制限されているところもありますが)パソコンのモニタ上で見てチェックした後、印刷して紙でもチェックすると言う二重チェックが効果的です。モニタ上で見つからないミスが、印刷た紙を見るとゾロゾロ出て来るという効果があります。また、今回の事例のような、当日中に営業に送付しなければならないという事案では使えない訳ですが、「1晩寝かせる」、つまり、一度修正した後、夜ぐっすり眠って、翌朝再度チェックするという方法も有効です*4


まとめ

 簡単に契約書チェックのポイントのうち、純粋に形式面でもないけど、内容面でもない中間的なものをまとめてみましたが、足りない部分も多々あろうかと存じます。法務の諸先輩からの忌憚なきご意見をお待ちしております。

*1:ただ、定義条項がどのような意味を持っているかは、定義条項が具体的に本文でどのように使われるかとも関係するので、定義条項に触れられているところとの連関で理解すべきだろう。

*2:特に、定義条項に当事者の義務を入れる等、定義をいじって当事者の権利関係を変えようという試みをすることがある。このようなやり方は、契約書が読みにくなるのでこちらからは積極的にやるべきでないというのが一般論ではあるが、相手がやって来ることがあるので気をつけるべきである。

*3:そもそも、可能であれば「甲」を「賃貸人」、「乙」を「賃借人」としてしまうのがよい。

*4:なお、dtk様の「押印名義(サイナー)となる方の異動がある場合に、締結日との関係で整合性が取れているか、何らかの事情でバックデートになるときに、締結時点の適切な押印(サイン)権限者になっているか、という点も気を付けた方がいいように思う。なお、バックデートのときは、会計・税務上問題となる可能性があることも要確認。」というのは今回は扱いませんでしたが重要です。