アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2017-02-26 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書第8回

[]ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第8回契約書チェックのポイントその3 23:44 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第8回契約書チェックのポイントその3 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 を含むブックマーク ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第8回契約書チェックのポイントその3 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 のブックマークコメント

ITビジネスの契約実務

ITビジネスの契約実務

1.はじめに

 契約書チェックのポイント第三回で最終回のつもりです。契約書チェックは多くの法務パーソンの皆様が日常的にされていると思いますので、重要性が高く、その結果、大分量が多くなりました。もちろん、実質面に入れば無限に続きそうな位ありますが、この連載の目的とは外れるので、この辺で一区切りとさせて頂きたく存じます。



2.ストーリーパート

「世間ではプレミアムフライデーとかいうものが始まったらしいですが、弊社はどうなんでしょう?」


ある月末の金曜日の昼休み、僕は井上先輩と昼ご飯を一緒に食べていた。


「うちは有給休暇の半日単位取得が可能。今日の午後半日有給を申請すればいい。」


即答する井上先輩。


実質は同じなのだろうが、有給休暇の半日単位取得」と呼んだ瞬間に、プレミアム感が激減するのはなぜだろうか。


「あ、今日は契約書のレビューをしないといけないので、午後は休めないです。うちの雛形をいじるのは慣れてきましたが、相手のドラフトにコメントを入れながら直すのは大変ですね。」


「今回は二人でレビューするだけだが、大きなプロジェクトでは、法務3人が弁護士先生と営業のコメント・修正を踏まえながら一条一条検討していくという、カオスな状態が出現する。」


「ひえーっ、ワードの修正履歴*1が超複雑になりそうです。」


「ワードの個人情報削除機能で保存時に自動的に同じ色にする方法を取る人もいるが、これだと消されたものが元々どちらが書いたものだったのかが分からなくなる等混乱が発生するので、基本的には、最後に修正履歴をまとめるしかない。ワードの文書の『比較』機能*2を利用して、元のバージョンと最終版と比較するのがよいだろう。その時は、比較元のバージョンをクリーンにすることが前提となるので、『貴社の修正をクリーンにさせて頂きました。』等と説明をするのがよいだろう。」


「確かに、その方法は分かり易いですね。」


「ただ、いくら綺麗なものができても、それで安心はできない。」


「ど、どうしてですか?」


「例えば、コメントには、営業だけに読んで欲しい『内部注』と、先方に見せる『相手方用コメント』の二種類がある。これを1つのファイルに書き込んで営業に送った場合、どういうリスクがある?」


「う〜ん、どういうリスクでしょう?」


営業が内部注を削除せず、そのまま先方に送ってしまう。」


「え!? そんな恐ろしいことが起こるんですか!?


「営業は忙しいから、法務のチェックを単なる『儀式』としか思っていないこともある。その場合、中を見てその中に内部注と相手方用コメントの二種類があることを認識して、内部注を削除するといった手間をかけると思うか?」


「思いません。。。」



「だからこそ、営業がミスをするリスクを十分理解しなければいけない。時間と手間が掛かるので概ね人を見て決めるべきだが、『営業用ドラフト』と『相手方用ドラフト』の2つのバージョンを作成するのが1つの手だな。」


「それはまた面倒ですね。」


「事案によっては、内部注としても読めるし、そのまま相手方に送られても問題がない表現を使うこともできる。


【本契約の趣旨からは、本条は相互的にすることが合理的と思われます。】

【本件のような取引で通例的な表現に修正させて頂きました。】

【事前に包括的に同意するのではなく、個別に承認を申請して頂き、合理的理由がある場合には同意するという対応が原則かと存じます。】



こんな感じの表現であれば、きちんと読む営業は「なるほど、フムフム」と読んで場合によってはフィードバックをもらえる。これに対し、読まない営業はそのまま相手方に投げるが、それでも害はない。」


「そんなテクニックもあったのですね。」


「コメントの内容によってはやはりそういう表現による対応ではうまくいかないこともある。その場合にはメール本文に『なお、添付のコメントは〜を前提としております。』等と書いたりすることもできるが、営業がメール本文を含めて丸ごと相手方に転送することもあるので、安心はできない。」



「恐ろしいですね。。。」



「営業の意見を聞かなくとも一義的に修正できる場合にはこういう中立的コメントで対応できるが、やはり営業の意見によって修正内容が変わる場合には、内線とか会議等によって知りたい情報を入手して、その上で修正するというのが本筋だろう。結局、自分と相手がミスをすることを前提に対応する必要がある、ということだな。」

ミスを前提に対応する、一見簡単そうに見えて実は難しそうな話に、一流法務パーソンへの道の険しさの一端を垣間見た気がした。



3.解説のようなもの

 修正履歴については、特に自社の複数人で修正を入れる場合、自社の修正か先方の修正かがごちゃごちゃにならないように整理する必要がありますが、手作業は面倒です。ここで、最初の修正はとりあえず内部では普通に修正履歴で対応した後、送信時に一度クリーンにして、ワードの比較機能を利用するのがよいでしょう*3。なお、二回目以降では、相手の修正をクリーンにしなければこの手はつかえません*4


 加えて、直接法務同士でやり取りする場合ではなく、営業等事業部門を通じてやり取りをする場合には、「営業がどう対応するか」が問題となることがあります。典型的には、「ここは最後はしょうがないと思いますが、今回は押し戻しましょう」といった内部注が入ったバージョンを何の躊躇もなく相手方に送るというミスがあります。


 これに対する対応としては、営業用と先方送付用の2バージョンを作成するといった方法もありますが、手間がかかります。1つの方法としては、

【本契約の趣旨からは、本条は相互的にすることが合理的と思われます。】

【本件のような取引で通例的な表現に修正させて頂きました。】

【事前に包括的に同意するのではなく、個別に承認を申請して頂き、合理的理由がある場合には同意するという対応が原則かと存じます。】

というように、「営業へのコメントにもなるが、これをそのまま転送しても問題がない、当たり障りのない表現を使う」というものがあり、これで対応できる範囲であれば、2つのバージョンを作る労力を削減できるのですが、修正内容によってはなかなかそういう当たり障りのない表現が使えない場合もない訳ではないので、どう対応するか悩ましいところです*5


 なお、このようなことをする営業の場合、法務の送ったメールそのものを先方に転送していることがありますので、メール本文に書いたコメントが転送される可能性にも留意が必要でしょう。


まとめ

これ以外にも、「重要!」とコメントすることの是非*6や、コメントを書く場合にワードのコメント機能(吹き出し)を使うか、本文に打ち込むか*7等様々な論点がありますし、合意後の製本等*8の問題もありますが、問題提起としてお読み頂ければ幸いです。

なお、この続きとして次回は、「同僚への配慮」をテーマにしようか、と少し考えております。

*1:なお、「最終版」で作業をしていると、クリーンなのか履歴付きなのか分からなくなる。「もらったドラフトが何か重いなと思って良く見たら別の案件の契約書に履歴付きで修正したものだった」とか、実際あります。

*2:バージョンによるが校閲→比較で出て来るはず。

*3プライバシー機能で全部の修正を同じ色にするという方法がありますが、色が同じになるだけなので、複数人が削除等をしあうと混乱するのと、送られた相手は結局プライバシー機能を解除しなければならないということで、あまりお勧めしません。

*4:その場合「貴社の修正をクリーンにさせて頂きました。」とコメントすしましょう。なお、クリーンにすることで、どこが先方の提案で、どこが既に合意した部分かが分かりにくくなるというデメリットもあるので、万能ではありません。

*5:営業と事前に内線で協議する等が考えられます。

*6:相手がまともなら「重要!」と書いた部分は尊重してもらえるが、それ以外は全部戻して来てもおかしくない、だからといって全部「重要」と書いていたら書く意味はなくなる等。

*7:個人的には本文派だが、コメント機能派も根強い

*8:多分少し端に寄せてホチキスで止めてマスキングテープという「簡易製本」がポピュラーと思われますが、これは人毎にノウハウがあり、「同人作家」の「コピー本作成術」が生かせるところでもあります。

2014-05-10 民訴ガール第10話 「閑古鳥の鳴く法律相談会」

[]民訴ガール第10話 「閑古鳥の鳴く法律相談会」平成22年その2 20:44 民訴ガール第10話 「閑古鳥の鳴く法律相談会」平成22年その2 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 を含むブックマーク 民訴ガール第10話 「閑古鳥の鳴く法律相談会」平成22年その2 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 のブックマークコメント

「ちょっとそこのお兄さん、いかがですか? 制服を着た可愛い女子高生がいますよ? 寄って行きませんか?」


若い男が黒い背広を着て、パステルカラーのチラシを配りながら、こんな台詞で客を誘う姿は、どう見ても悪質風俗のキャッチセールスである。


「先生、朝から誰も来ないんですけどぉ…。」


「だめよ沙奈、先生は頑張って下さっているのだから。」


沙奈ちゃんの不満に、五月ちゃんがフォローを入れてくれる。


みんそ部は、伝統の法律相談会を開催していた。


ところが、毎年3000人の規模で増加した弁護士が、テレビやインターネットで無料法律相談等を盛んに宣伝する。高校の部活の無料相談会なんかに興味を持ってくれる人はほとんどいなくなってしまっていた。みんそ部は、昔は地方に出張相談会等にも行っていたそうであるが、地方に行っても弁護士が顧客獲得にしのぎを削っており、高校の部活が入り込む余地はない。そこで、経費節減の意味も含め、事件を抱えた人が多そうな裁判所の近くに拠点を置き、僕が道行く人にチラシを渡して相談に来るよう説得することになったのだが…。朝から一人の相談者も獲得できていない。



ああ、法の光が、世の中の隅々まで照らしていることだなぁ。



「えっと、相談に乗って下さるのですか。」


5時になっても誰も捕まらず、今日はもう解散かなと思ったところで、後ろから、似合わない背広を着た学生風の若い男が声をかけてくる。



「はい、法律相談を無料でしております。」



振り向いて良く見ると、襟元には、赤、白、青3色のバッヂが輝いている。


「司法修習生なんですけど、大丈夫ですか?」


「大丈夫です。依頼者の秘密はお守りします。」


やっと、今日一人目のお客様を捕まえることができた。


「何でも、遠慮なくお話し下さい。」


五月ちゃんがうながすと、その修習生は、重い口を開いた。

1.印刷や製版の工場を個人で営むAとその妻であるBとの間には,昭和58年8月20日にC 男が生まれた。やがて平成5年にBが病没すると,Aは,平成6年2月にDと婚姻した。この時, Dには子としてE女があり,Eは,昭和60年2月6日生まれである*1

Aには,主な資産として,工場とその敷地のほかに,当面は使用する予定がない甲土地があ り,また,甲土地の近くにある乙土地とその上に所在する丙建物も所有しており,丙建物は,事 務所を兼ねた商品の一時保管の場所として用いられてきた。これら甲,乙及び丙の各不動産は, いずれもAを所有権登記名義人とする登記がされている。

2.Cは,大学卒業後,いったんは大手の食品メーカーに就職したが,やがて,小さくてもよい から年来の希望であった出版の仕事を自ら手がけたいと考え,就職先を辞め,雑誌出版の事業を 始めた。そして,事業が軌道に乗るまで,出版する雑誌の印刷はAの工場で安価に引き受けても らうことになった。

3.そのころ,Aは,事業を拡張することを考えていた。そこで,Aは,金融の事業を営むFに 資金の融資を要請し,両者間で折衝が持たれた結果,平成19年3月1日に,AとFが面談の上, FがAに1500万円を融資することとし,その担保として甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を 設定するという交渉がほぼまとまり,同月15日に正式な書類を調えることになった。なお, このころになって,Cの出版の事業も本格的に動き出し,そのための資金が不足になりがちで あった。

4.ところが,平成19年3月15日にAに所用ができたことから,前日である14日にAはF に電話をし,「自分が行けないことはお詫びするが,息子のCを赴かせる。先日の交渉の経過を 話してあり,息子も理解しているから,後は息子との間でよろしく進めてほしい。」と述べ,こ れをFも了解した。

5.平成19年3月15日午前にFと会ったCは,Fに対し,「父の方で資金の需要が急にできた ことから,融資額を2000万円に増やしてほしい。」と述べた。そこで,Fは,一応Aの携帯 電話に電話をして確認をしようとしたが,Aの携帯電話がつながらなかったことから,Aの自宅 に電話をしたところ,Aは不在であり,電話に出たDは,Fの照会に対し「融資のことはCに任 せてあると聞いている。」と答えた。これを受けFは,同日に,融資額を2000万円とし,最 終の弁済期を平成22年3月15日として融資をする旨の金銭消費貸借の証書を作成し,また, 2000万円を被担保債権の額とし,甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を設定する旨の抵当権設 定契約の証書が作成され,Cが,これらにAの名を記してAの印鑑を押捺した。

6.この2000万円の貸付けの融資条件は,返済を3度に分けてすることとされ,第1回は平 成20年3月15日に500万円を,次いで第2回は平成21年3月15日に1000万円を, そして第3回は平成22年3月15日に500万円を支払うべきものとされた。また,利息は, 年365日の日割計算で年1割2分とし,借入日にその翌日から1年分の前払をし,以後も平成 20年3月15日及び平成21年3月15日にそれぞれの翌日から1年分の前払をすることと した。なお,遅延損害金については,同じく年365日の日割計算で年2割と定められた。

7.同じ3月15日の午後にAの銀行口座にFから2000万円が振り込まれた。これを受けCは,同日中に,日ごろから銀行口座の管理を任されているAの従業員を促し500万円を引き出 させた上で,それを同従業員から受け取った。

また,甲,乙及び丙の各不動産に係る抵当権の設定の登記も,同日中に申請された。これら の抵当権の設定の登記は,甲土地については,数日後に申請のとおりFを抵当権登記名義人とす る登記がされた。しかし,乙及び丙の各不動産については,添付書面に不備があるため登記官か ら補正を求められたが,その補正はされなかった。その後,【事実】9に記すとおり,AF間に 被担保債権をめぐり争いが生じたことから,乙及び丙の各不動産について抵当権の設定の登記 の再度の申請がされるには至らなかった。

8.翌4月になって,甲,乙及び丙の各不動産の登記事項証明書を調べて不審を感じたAは,C を問いただした。Cは,乙及び丙の各不動産について手続の手違いがあって登記の手続が遅れて いると説明し,また,自分の判断で2000万円の借入れを決めたことを認めた。

9.借入れの経過に納得しないAは,弁護士Pに相談した。そして,Aは弁護士Pを訴訟代理人 に選任した上で,平成19年6月1日,Fに対し,平成19年3月15日付けの消費貸借契約(以 下「本件消費貸借契約」という。)に基づきAがFに対して負う元本返還債務が1500万円を 超えては存在しないことの確認を求める訴え(以下「第1訴訟」という。)をJ地方裁判所に提 起した。

18.第1訴訟の第1回口頭弁論期日は,平成19年7月27日に開かれ,訴状の陳述などが行わ れた。その後数回の期日を経て,平成20年4月11日に口頭弁論が終結し,同年6月2日にA の請求を全部認容する旨の終局判決が言い渡され,この判決が確定した。

19.平成21年4月23日に,Aは,弁護士Pを訴訟代理人に選任した上で,Fに対し,被担保 債権(被担保債権は,【事実】9に記した本件消費貸借契約上の貸金返還請求権のみであるとす る。)の全額が弁済により消滅したことを理由として,J地方裁判所に,甲土地の所有権に基づ き甲土地に係る抵当権の設定の登記の抹消登記手続を求める訴え(以下「第3訴訟」という。) を提起した。

20.第3訴訟の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,被担保債権に関し,「本件消費貸借契 約に基づきAがFに対して負う元本返還債務の金額は1500万円であるところ,AはFに対 し,平成20年3月15日に500万円,平成21年3月15日に1000万円をそれぞれ弁済 した。」と主張した。

この期日において,弁護士Pは,裁判長の釈明に対し,「平成20年3月15日にされた弁済 が第1訴訟において主張されなかったのは,Aが,同弁済が第1訴訟において意味がある事実だ とは思わなかったので,私に連絡を怠ったためである。」と陳述した。

これに対し,Fの訴訟代理人である弁護士Qは,弁護士Pの被担保債権に関する主張のうち, 平成20年3月15日の弁済については次回の口頭弁論期日まで認否を留保し,その余は認め る旨の陳述をした。

〔設問4〕 【事実】1から9まで及び18から20までを前提として,第3訴訟に関する次の(1)及び (2)に答えなさい。

(1) 第3訴訟の第1回口頭弁論期日後数日してされた次の弁護士Qと司法修習生Sの会話を読んだ上で,あなたが司法修習生Sであるとして,弁護士Qが示した課題(会話中の下線を引いた部 分)を検討した結果を理由を付して述べなさい。

ただし,信義則違反については論ずる必要がない。 なお,貸金返還請求権については,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。

Q: 第1訴訟の確定判決の既判力が第3訴訟で作用することは理解できますか。

S: 第3訴訟の訴訟物は,所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消 登記請求権ですから,抵当権が消滅したかどうかが争点になります。そして,抵当権 が消滅したかどうかを判断するためには,抵当権の付従性から,被担保債権が消滅し たかどうかを判断しなければなりません。つまり,被担保債権である本件消費貸借契 約上の貸金返還請求権の存否が,訴訟物である抵当権設定登記抹消登記請求権の存否にとって,いわゆる先決関係にあるということになります。

Q: そのとおりです。ですから,第1訴訟の確定判決の既判力の作用によって,私たち は,第3訴訟で,第1訴訟の口頭弁論が終結した平成20年4月11日の時点で,本 件消費貸借契約上の元本返還請求権の金額が1500万円を超えていたことを主張で きなくなります。この点は分かりますか。

S: はい。

Q: ところが,Aは,第3訴訟で,第1訴訟の口頭弁論終結前の平成20年3月15日

にされた弁済を主張してきましたね。このような主張は許されてよいものでしょうか。

S: 確かにそうですね。信義則に反すると思います。

Q: いきなり信義則違反に飛び付くのは,いかがなものでしょうか。最終的には,信義則違反の主張をすることになるかもしれませんが,その前に,Aの弁済の主張が第1訴訟で生じた既判力によって遮断されるかどうかを検討すべきではないでしょうか。

S: すみません。先走り過ぎました。

Q: 第1回口頭弁論期日が終わってから,私なりに既判力について考えてみました。その結果,二つの法律構成が残ったのですが,そこから先の検討がまだ済んでいないの です。第2回口頭弁論期日のための準備書面をそろそろ書き始めなければなりません ので,あなたにも協力してほしいのです。

S: 分かりました。

Q: では,二つの法律構成を説明します。

第1の法律構成(法律構成1)は,第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であっ て,Aの「1500万円を超えては存在しない」ことの確認を求めるという請求の趣 旨は,例えば「1200万円を超えては存在しない」というような,より原告に有利 な判決を求めないという意味において,原告が自ら,請求の認容の範囲を限定したものにすぎない,というものです。このように考えると,既判力の対象はあくまでも, 元本返還債務の全体ですから,第1訴訟の確定判決の既判力によって,「平成20年 4月11日の時点で元本債務は1500万円であった」ということが確定されること になります。

第2の法律構成(法律構成2)も,やはり第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体 であるとするのですが,同債務のうち1500万円についてはAが請求を放棄したた めに,実際に審判対象となったのは1500万円を超える部分だというものです。こ のように考える場合には,第1訴訟の確定判決の既判力の客観的範囲は元本返還債務 のうち1500万円を超える部分だけになりますが,請求の放棄,正確には請求の一 部放棄の既判力により,元本債務の金額が1500万円であったことが確定されることになります。理解できましたか。

S: はい。

Q: それでは,これから,あなたにお願いする課題を説明します。法律構成1と法律構 成2のそれぞれについて,長所と短所を検討してください。ただし,最高裁判所の判 例に適合的であるから良い,あるいは,最高裁判所の判例に反するから駄目だ,とい うような紋切り型の答えでは困ります。

S: 分かりました。頑張ってみます。

(2) 審理の結果,被担保債権の元本が500万円残っているとの結論に至った場合,裁判所は, Fに対し,AがFに500万円を支払うことを条件として,抵当権の設定の登記の抹消登記手続 をすることを命ずる判決をすることができるか,Aの請求を全部棄却することと比較しながら, 論じなさい。なお,貸金返還請求権については,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。


「要するに、指導担当の弁護士から課題をもらったけど難し過ぎて私たちの手を借りたいってことかしら。」


五月ちゃんが一言でまとめる。


「せっかくですから、私たちで一緒に一部請求、既判力、そして債務不存在確認について復習いたしましょう。」


志保ちゃんは優しい。


「ありがとうございます。」


思わず感謝する修習生。

「まずは、一部請求からだわ。」


「い、一部請求って、あ、あれですか。」


露骨に嫌な顔をする律子ちゃん。


「そう、金銭その他の不特定物の給付を目的とする債権にもとづく給付訴訟において、原告が債権のうちの一部の数額についてのみ給付を申し立てる行為だね*2。苦手意識があるのは分かるけど、基本的にはシンプルだよ。こういう事例を考えてみようか。」



事例1 XはYに対し、1億円の債権のうち100万円を請求した。


「これ、いつも分からないのは、どうして一部だけ請求するのかなんですよ。本当に1億円債権があると確信していれば、全額請求すればいいのに。」


不満顔の律子ちゃん。


「1000万円の債権を1円ずつに分割するみたいな濫訴が不適法なことには争いはございません*3。実際に争いとなっているのは、Xにお金がない場合には、印紙代を節約するために、まずは低い金額で訴訟を起こす(試験訴訟)必要があるのではないかといった側面になります。」


志保ちゃんが説明する。


「でも、訴訟救助がありますよね*4。」



沙奈ちゃんが加勢する。


「沙奈、訴訟救助では解決できない事案もあるわ。例えば、福島原子力損害とか、全損害の算定が困難な場合があるわよね*5。その場合に、1回で訴訟をしなければならないとすると、絶対にこれ以上は上回らないだろうという高額を請求することになるけど、その場合に『勝訴の見込みがないとはいえないとき』(民事訴訟法82条1項)という訴訟救助の要件を満たせるのかしら。まずは一部のみを訴えて勝訴した後に改めて残部を訴えるという必要性は高いわよね*6。」


五月ちゃんが沙奈ちゃんをたしなめる。


「確か、一部請求は肯定説、否定説、判例の3つに分かれているんですよね*7。」


律子ちゃんが話を進める。


「一部請求の議論の対立の中心は、原告訴訟物を分断する権限を認めるかという点になるわね *8。」


「処分権主義って確か、原告が請求を自由に立てられるということで、そうであれば、存在する債権の一部を訴訟の対象にする事も許される気がします*9。実体法的に言えば、債務者にお金がなさそうなので、一部だけの弁済を求めるというのも債権者の権利ですよね*10。」



沙奈ちゃんが素朴な疑問を投げかける。


「これは有力説である、全面肯定説の論拠だね。でも、処分権主義というだけで1つの結論は出ないよ。一部請求否定説の立場からは、処分権主義は、『訴訟を提起するかどうか』の問題で、いざ訴訟を提起するならば全額を請求すべきであり、後で再度訴訟を提起して残部を請求することは許されないと考えられているよ。つまり、処分権主義という言葉をマジックワード的に使おうとしたところで、そこから一義的に答えが出て来る訳ではなく、処分権主義の実質的な内容を考える必要があるというのが大事だね。」



修習生への教育も含め、ちょっと補足する。


「一部請求否定説は、先ほどの、損害賠償請求における試験訴訟の必要性といった点に鑑みると、やや説得力を欠きますね。」


律子ちゃんがつぶやく。


「結局、この問題は、全額について訴える前に、少額についての裁判所の判断を知りたいという原告の利益と、紛争解決の効率性・応訴の煩という裁判所・被告の利益をどう衡量するかの問題と考えることができるでしょう*11。一部請求否定説も、判決が確定してから再度訴訟を提起してはいけないというだけであって、訴訟の途中で勝ち目がありそうだと思ったら途中で請求を拡張すればいいという限りで、原告の利益も考えているのです。」



志保ちゃんが応じる。



「この衡量の結果の1つとして、判例*12。」



「お姉様、どうして、明示をすると、被告の利益が保護されるのでしょうか。」


沙奈ちゃんがついていけない。


明示があれば、被告として、残債務不存在確認の反訴等の対応ができるじゃない。じゃあ、次は既判力ね。」



五月ちゃんが即答する。



「既判力は訴訟物に及ぶ(民事訴訟法114条1項)んですよね。なら、既判力は、前訴で請求した一部についてのみ既判力が生じるというのが自然です。」


律子ちゃんが答える。


「そうすると、例えば、事例1で負けた原告が、9900万円を再度請求してもいいのかな。」


沙奈ちゃんが疑問を口にする。


「具体的に考えてみたらどうかな。例えば、事例1で被告が、100万円の弁済と9900万円の債務の不存在の双方を主張した場合、前訴の裁判所はどういう判断をするのかな。」


民訴を楽しく学ぶには具体例で考えるのが一番だ。無味乾燥な理論ばかり考えても、嫌いになるだけだ。


「100万円が弁済されていれば、100万円の請求はできなくなりますよね。もしも、弁済の有無さえ争いがなければ、9900万円の債務の不存在については判断するまでもなくそこで請求を棄却するってことかなぁ。」


うんうんうなる沙奈ちゃん。


「沙奈、外れよ。もし、1億円のうち100万円が弁済されていても、それだけなら、9900万円が残るのではないかしら。一部請求の『100万円』というのは、少なくとも100万円はあるという趣旨ね、この9900万円が残っている限り、100万円についての認容判決を下すことになるわね。」


五月ちゃんが説明する。


「五月先輩のおっしゃるとおりで、一部請求の当否を判断するためには、おのずから債権全部を判断する必要があります。つまり、一部請求をして敗訴したということは、債権全部が存在しなかったという判断がなされているということになります。そこで、一部訴訟をして敗訴した原告が再訴できるというのは、実質的には一度判断された訴訟の蒸し返しという評価ができるのではないでしょうか*13。ですから、最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁は、一部請求をして敗訴した原告の再訴を原則として許されないとしています。」


志保ちゃんがまとめる。



「でも、判例のように、一部請求を認める考えからは、既判力は100万円の部分についてしか生じていないんですよね*14。どうして、既判力の生じない9900万円について再訴が認められないんですか?」


律子ちゃんが疑問を述べる。


「だからこそ、最高裁は、信義則を使ったわ。信義則により、特段の事情がない限り一部請求をして敗訴した原告の再訴を封じるってことね。」


五月ちゃんが答える。


「あのぉ…、この議論が私の質問とどう関係するのでしょうか。」



修習生が、遠慮がちに質問する。



関係、おおありよ。第1訴訟は、債務が1500万円を超えて存在しないことの確認を求めるという、自認部分がある債務不存在確認請求ね。判例によれば、この事案は、債務不存在確認の訴えの局面における一部請求*15と考えているわ。その意味は、債権者は2000万円の債務のうち1500万円の支払いを請求するという『一部請求訴訟』を提起することができ、また、債務者は、その裏返しとして、問題となっている計2000万円の債務のうち1500万円を超えては存在しないという債務不存在確認の訴えを提起することができるということね*16。」


前提問題についての議論が終わり、五月ちゃんが生き生きとしてくる。


「判例は、明示した場合の訴訟物の分断を認める訳ですから、債務者が起こした債務不存在確認請求の訴訟物はあくまでも、1500万円を超える部分(残存債権は1500万円か2000万円か)であって、自認部分は訴訟物ではないと考えられます*17。すると、判例の枠組みを前提として素直に考えれば、第1訴訟の既判力は1500万円自認部分については生じていない(民事訴訟法114条1項)ので、第1訴訟の口頭弁論終結時点における残債務額が1500万円以下のいくらであったかについて、Aは第3訴訟において既判力に縛られず自由に主張することができるということになります。指導担当の先生が検討を求めた2つの法律構成は、判例をどのように克服するかについての試みといえるでしょう。


志保ちゃんが問題の所在を整理する。


「これで、相談との関連が明らかになってきたかな。せっかくだから、みんそ部のみんなと一緒に考えてみない?」


修習生へ、議論への参加を呼びかける。



「えっと、法律構成1は、訴訟物を問題となっている元本債権(2000万円)全体とみる考えです。この考えを取れば、第1訴訟の既判力は、元本債権全体について生じていることになります。具体的には、単に1500万円を超えて存在しないだけではなく、1500万円までは存在することについて既判力が生じているということになります*18。こう考えれば、第3訴訟において、平成20年3月15日の弁済という第1訴訟の口頭弁論終結時(民事執行法35条2項参照)以前に生じた理由をもって、元本債権が1500万円ではなく(弁済により)1000万円になったとの既判力と矛盾する主張をすることは制限されることになります。」


迷いながらも自分の意見を言う修習生。



「あら、問題意識をきちんと理解されているのね。本件のような自認部分がある債務不存在確認請求は明示のある一部請求の裏返しであるところ、この見解は、要するに明示のある一部請求について訴訟物の分断を認める判例と立場を異にする訳だから、この長所も短所もこの点に集約されるってことね。」


五月ちゃんが褒めるので、修習生の顔がほころぶ。


「短所としては、そもそも、判例に反するということでしょうか。」


修習生が饒舌になる。



「指導担当の先生は、『最高裁判所の判例に反するから駄目だ,とい うような紋切り型の答えでは困ります。』と言っていなかったっけ?」


五月ちゃんと親しげな修習生に対して、沙奈ちゃんは手厳しい。



「指導担当の先生の問題意識に答えるという意味では、判例を前提とする実務における審理の実情に目配りする事が必要になるでしょう。つまり、判例を前提とすると、自認された部分については訴訟物ではない、つまり審理の対象外になりますから、第1訴訟では『1500万円以下』の部分について一切審理がされていなかったといえます*19。つまり、少なくとも第1訴訟は現在の実務に従って審理の範囲を決めていたはずであり、審理されていない部分に既判力をなぜ認められるかという点は、訴訟物を全体と考えるべきだという法律構成1に対して投げかけられる疑問といえましょう。」



志保ちゃんが説明する。


「まあ、この点は、法律構成1を採る論者からは、第1訴訟においても、訴訟物を全体として考えて全体を審理すべきだったのであり、『第1訴訟の裁判官が審理の方法を間違えた』だけだと反論されるところね。この見解の長所は、訴訟物に既判力が生じるという理論から、比較的シンプルに第3訴訟における弁済の主張を封じられるというところにあるわ。あとは、一部請求否定説の論拠を参照すれば、明示さえすれば何度でも訴求できるということが理論的に釈然としない*20判例の見解を克服し、被告の利益を守ることができる議論だということも指摘できるかしら。」


五月ちゃんが華麗にまとめる。


「じゃあ、法律構成2はどうかな。」


修習生に回答を促す。


「法律構成2は、審判対象が1500万円を超える部分であると認める点では、判例と軌を一にします。しかし、1500万円以下の部分については、原告が自認したことにより、請求が放棄されたという構成を取ることで、1500万円以下の部分について審理がされていないという法律構成1への批判に応えながら、第3訴訟における弁済の主張を封じることができる利点があります。もちろん、欠点としては、請求の放棄だというにもかかわらず、調書に記載されていないこと(民事訴訟法267条)をどのように説明するかという点でしょうか。」


まあ、修習生なら答えられるべき最低限のラインは押さえているな。


「そもそも、『1500万円を超える債務がないこと』の判断を求める原告は、1500万円以下の部分について自認しているのかな。むしろ、とりあえず1500万円以下の部分については判断を求めないというだけはないのかな*21。」


沙奈ちゃんが噛み付く。


「この構成2の場合、本当に、第3訴訟での弁済の主張は封じられるかを考える必要がありそうな気がします。請求の放棄に既判力は認められるのでしょうか?」



志保ちゃんが修習生に尋ねる。


「判例は、制限既判力説、つまり、既判力を肯定しながら、それは必ずしも確定判決と同様に解する必要はなく、意思表示たる訴訟行為について詐欺、脅迫、錯誤などの取消無効事由がある場合には、既判力の排除を求めることができるという考えに立っています*22。本件の意思表示に瑕疵があることを示す事実はないのですから、既判力を肯定していいのではないでしょうか…。」


修習生がとまどう。


「既判力って、請求の放棄が調書に記載された時点で生じるのではないでしょうか。そもそも、調書に記載されない点を置くとしても、構成2が仮に、訴訟提起か第1回口頭弁論における訴状の陳述をもって請求の放棄とみなすのであれば、その基準時は平成19年6月1日ないしは7月27日。つまり、平成20年3月15日の弁済は基準時後の行為であって、主張は制限されないですよね。」



沙奈ちゃんが追求する。「五月ちゃんに色目を使う人は許さない!」という気概が感じられる。



「結局、調書への記載がない請求の放棄について、どの段階で、調書へ記載したと『みなす』のかという問題かな。もちろん、本件における調書に準じるものは、主文に『原告被告に対して負う元本返還債務が1500万円を超えては存在しない』と確認した判決書だと考えれば、基準時の問題はないけれど、判決の記載を調書とみなすというのが相当か、そして、そもそも、本件のように何を調書への記載とみなすかで、基準時の前後がずれる事案が生じてしまい、ある意味、『基準時逃れのための恣意的な議論』が可能になる構成2そのものが相当かという問題があるね。」



最後は僕が引き取る。



「ふ、深いですね…。」



修習生が簡単のため息をつく。


「もう大分遅くなっちゃったから、(2)はさくっと行きましょうか? 無条件の給付(登記抹消請求認容判決)を求めている原告に対し、条件付給付判決を下すことができるかだけど。」


五月ちゃんが最後の問題へと進む。


「この問題は、訴えの利益と処分権主義の問題です。訴えの利益の問題というのは、条件がつくことで、一種の将来給付になることから、『あらかじめその請求をする必要がある場合』(民事訴訟法135条)かということですが、訴えの段階で、債務額の確定とその弁済を条件とする抵当権設定登記抹消登記請求をする場合には、この意味の訴えの利益が認められており*23判決段階でも同様に考えられるということでいいのではないでしょうか((この要件は、弁論終結時に訴訟物たる給付請求権の履行期が到来していないにもかかわらず、本案判決を求める地位を認めるためには、それを正当化するに足る利益が原告に存在しなければならないことを意味するところ、(伊藤172〜173頁)。債務者の言動や態度から見て履行期に履行する意思がないと推論できる場合にはこの要件が満たされる(松本・上野148頁)

。))。より重要な、処分権主義の問題というのは、裁判所が、厳密に言うと原告の求めた物と違う判決を下していいのかということですね。」


志保ちゃんの的確な立論。


「民事訴訟法246条は、処分権主義から『裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。』としています。そうすると、条件付き給付判決は同条違反であって、裁判所は、原告の求める、無条件給付判決ができない以上、請求を棄却すべき、こういうことでしょうか?」


律子ちゃんが発言する。



「そもそも、民事訴訟法246条って何かを考えてみてはいかが? 申立て事項は処分権主義から原告の意思によって決められるべきであり、また、何が申立て事項かが明確にされることで被告に対する攻撃防御対象を示し不意打ちを防止するという機能があることからは*24原告の合理的意思に反せず、被告の不意打ちにならない場合には、原告の申立てと異なる判決をすることが許容されるのではないかしら。」


五月ちゃんが条文の趣旨から議論する。


「全面敗訴よりも、条件付給付の方が原告に有利であるから、原告の意思に反せず、また、被告も自ら500万円の未払いを主張して争っている以上、被告の不意打ちにならない以上、条件付給付判決は認められるということですね*25。」




修習生が嬉しそうに話す。



「きちんと、原告は、条件付給付判決を望んでいるのか、条件付給付判決の場合と、請求棄却判決の場合で、その後どうなるかについて検討しておいた方がよろしいのではないでしょうか。主文に記載された事項について既判力に準じた効力が生じるとする最高裁判例を前提とすると*26、条件付給付判決の場合には、後訴で500万円の債務の存在について争うことができなくなるでしょう。これに対し、全部棄却判決であれば、この点に既判力はもちろんそれに準じた効力は生じない訳です*27。ただし、判例は、前訴で敗訴した原告の蒸し返し的再訴は認められないとしています*28。例えば、全部棄却判決を得た後、500万円につき債務不存在確認の訴えを起こすことは信義則に反し許されないでしょう。」


志保ちゃんがより深い議論を展開する。


「どちらの判決であっても、原告にとって500万円を争えないという結論には違いがない一方、全部棄却判決を得た後に500万円を弁済して改めて抵当権設定登記抹消登記手続を求めて訴えるのはむしろ迂遠であって。本件の原告の合理的な意思としては、全部勝訴できないならば、条件付給付でも良いものと解釈すべきであり、被告も500万円の未弁済を主張して争っており、条件付給付判決であればこの判断に既判力に準じた効力が生じるのですから、被告にとっての不意打ちもない、だから、条件付給付判決が認められるということですね。」



修習生が納得した様子を見せる。


「まあ、大体こんな答えをしておけばいいんじゃないかな。でも、そもそも、被告側の立場をよく考えてみると、抵当権設定登記抹消登記手続訴訟の認容を防ぐためには債務が1円以上残存することを主張すればいい訳で、例えば、被告が『平成21年3月15日の1000万円の弁済についても争うが、より確実な500万円の弁済に力点を置こう』と考えて訴訟遂行をした場合には、500万円を払うだけで抵当権設定登記の抹消を認める条件付き給付判決は、被告側にとっての不意打ちになる可能性も否定できないよね。だから、被告がこの点を自認する等争わない意思を明確にする場合以外は、裁判所は、被告に対し釈明をすることが望まれる、この辺りまで考えられれば、修習生から実務家へと1つレベルアップしたということになるのかな。」



感嘆する修習生。沙奈ちゃんも、修習生と張り合う中で、1つレベルアップできたようだ。

*1:ここは額面通りに受け取ると、この物語が2000年頃の物語になるが、司法改革の進展が速過ぎるので、却下。

*2:伊藤212頁

*3:重点講義上97頁、東京地判平成7年7月14日判タ891号260頁

*4:民事訴訟法82条

*5:この問題についての文献は多いが、取り急ぎ判例時報誌における野山宏「原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解の実務」(連載中)を参照の事。

*6:河野613頁。なお、リーガルクエスト435頁は、シニカルに、試験訴訟や被告の資力を考慮した一部請求訴訟は一部であり、「多くの場合には、むしろ立証の困難や、不合理な請求であるとの外観を回避したいといった動機の方が重要な要因となっている」としている。

*7:なお、リーガルクエスト435頁以下は、「一部請求訴訟が、それ自体適法であることにつては、現在では異論がない」とした上で、一部請求訴訟の訴訟物の問題と、一部請求訴訟確定後の再訴の問題であると、問題を整理していることに留意が必要である。

*8:河野614頁

*9:藤田364頁参照

*10:重点講義上98頁

*11:重点講義上98頁、102頁参照

*12:藤田364頁等。但し、重点講義上100頁は、以下の平成10年最判を念頭に(同106頁)、この立場を「かつての判例」としていることに留意が必要である。なお、明示要件については、最判平成20年7月10日判時2020号71頁等が文字通りの「明示」でなくてもよいとしている。リーガルクエスト439頁参照)。)は、前訴で請求金額が全体の一部であることを明示した場合にのみ、後訴で残額請求をすることが許容されるという立場だわ。一部請求を認める一方、被告の利益の保護のため、一部と明示を要求したという、現実に即した柔軟な立場ね ((河野616頁

*13:藤田365頁

*14:藤田367頁

*15:重点講義下261頁

*16:重点講義下264頁、遠藤賢治「事例演習民事訴訟法」第3版279頁参照

*17:最判昭和40年9月17日民集19巻6号1533頁

*18:なお、これは必然ではない。訴訟物を請求全体として考える立場からも、既判力についてどの範囲で認められるかについて様々な考えが分かれていることについては、リーガルクエスト437頁参照

*19:異なる文脈だが、「留保額(注:自認額)300万円のうちで残債務が200万円であるのか100万円であるのかの審理をすることは無用である。」とする重点講義下265頁参照。

*20:重点講義上106頁

*21:重点講義下264頁、特に「自認しているわけではない」を参考にした

*22:伊藤454〜455頁

*23:大判昭和7年11月28日民集11巻2204頁

*24:リーガルクエスト405頁

*25:藤田318頁、リーガルクエスト408頁を参考にした。なお、このような単純な議論をすると問題がある例として事例演習141頁参照

*26:最判昭和49年4月26日民集28巻3号503頁。重点講義下243頁参照

*27:実は、「一次的棄却判決」論、「差し当たり棄却判決」論といって、期限未到来等を理由とする棄却判決について特別な既判力を認める見解があり、これを条件未成就の場合に拡張すれば、本文と違う結論になる可能性がある。リーガルクエスト421頁。

*28:最判昭和51年9月30日民集30巻8号799頁

2013-06-03 刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2

[]刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2 20:13 刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 を含むブックマーク 刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 のブックマークコメント

和光だより 刑事弁護教官奮闘記

和光だより 刑事弁護教官奮闘記

ありがたいことに、刑訴ガール第1話を多くの方にとりあげて頂いた。ここで、尊敬するバベル先生が

と、憲法ガールは1話をわずか3、4時間で書き、しかも、1ヶ月で完結させたという驚愕のツイートをされていた。既に、平成18年から平成24年まで新司刑訴過去問の検討自体は済ませており、あとは「書くだけ」の段階である。本当に3、4時間で書けるのかなぁ、と思って書き始めたところ、実際には2倍以上かかってしまい、自分の実力不足を痛感させられたところである。


追記:野田先生をはじめとする皆様にアドバイスを頂き、改訂をさせていただいた。なお、斎藤司先生のレジュメが優れており、私のつたない説明よりも、これを読んだ方がずっと分かり易いかもしれないことにご留意下さい*1


注:以下は、司法試験刑事訴訟法を題材に、架空の法科大学院を舞台としたフィクションです。法科大学院に行っても、刑訴ガールはいません。



2.刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2

法科大学院の授業は、予習→出席→復習の繰り返しだ。しかも、「授業と受験の距離」が遠い科目も少なくないから、迫り来る司法試験に向けてきちんと受験対策もしなければいけない。だから、朝から晩まで自習室に籠って勉強することになる。


窓辺の席に座り、明日の刑訴の授業に向けて、指定された判例を読む。その合間に、一瞬外の景色を見ると...あれ? 何かおかしい。今度は、窓を直視する。そこには...。


さあ、助手一号、弁護団会議よ、下りて来なさい!


と怒鳴りつけるひまわりちゃんの姿が。って、ここ4階なんですけど、スカート姿でどうやって登ったんだろう...*2



僕の通うロースクールの近くには、個人経営の喫茶店がいくつかあって、美味しいコーヒーやケーキを出してくれる。法科大学院棟を出ると、ひまわりちゃんは、僕の手を引っ張って、喫茶店に向けてズンズン歩き出す。僕たちを凝視する他の人の目線が痛い...。制服姿の女子高生が、10近くも年が離れたさえない大学院生を引っ張ってるのだから、そりゃあ変な意味で注目されるわな*3


「はいそこ、文句言わない!」思わず心の声が外に漏れたらしく、ひまわりちゃんの叱咤の声が響く。


喫茶店で、僕は、コーヒーにティラミスを頼む。ここのティラミスは、あまり甘くないのがいい。ひまわりちゃんは、苺のショートケーキに、格好つけてコーヒーを頼んだけど、苦いものが苦手らしく、ドボドボとミルクと砂糖を入れてる。だったら、最初からカフェオレを頼めばいいのに


覚せい剤密売の件、覚えているわよね。」唐突に切り出す、ひまわりちゃん。


それはもちろん。


「ついさっき、判決が出たんだけど、懲役6年、罰金150万円になったわ。」と、できたてほやほやの判決書を広げる。

平成23年12月8日宣告

平成23年(特わ)第◯◯◯◯号

判決


主文

被告人を懲役6年及び罰金150万円に処する。

未決勾留日数中10日*4をその懲役刑に算入する。

その罰金を完納することができないときは,金5,000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

H地方検察庁で保管中の覚せい剤2袋(平成23年領第○号符号1及び平成23年領第×号符号1)を没収する。


理由

(犯罪事実)

被告人は

第1 丙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し

第2 丙及び乙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同日,同所において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末200グラムを所持し

たものである。

(以下略)*5


それは長いのか、短いのか...。


「6年という数字だけを見ると長そうだけど、比較的軽い刑よ*6。そもそも、自己使用目的ではなく営利目的で、所持していた300グラムという量も多かったから、ある程度の刑になるのはやむを得ないわね。そして、違法捜査の主張が難しいってことになったので、公訴事実を認めて情状を徹底的に争ったわ。」


自白事件は、争いがない事件だと思っていたけど...。


「ある弁護人の先生は『自白事件は情状に関する否認事件』とおっしゃっていたわ。情状についてまで検察側と意見が一致することはほとんどないし、示談や再就職先の存在といった良情状は、弁護活動によって作り上げるもの。今回の情状弁護のポイントは、どこにあると思う?」


甲が、丙の指示に従うだけの従属的な存在だった、ということ。

「そうそう、そこに帰着するわね。覚せい剤密売を含む営利目的の犯罪は、ヒト・モノ・カネ、つまり、共犯関係、覚せい剤等の対象物の流通経路、そして収益の行方がポイントになるわ。甲らが、自ら客を探して誰に売るかを決めているから、流石に営利性自体を争うのは難しい。でも、営利行為への関与度合いが低いということはいえるわよね。丙が適切と思う量の覚せい剤を甲らに10日だけ「貸し」、10日が経過すると有無を言わせず丙に戻させているわ。だから、甲は、仕入れについての決定権がなく、覚せい剤の管理について実質的な役割を果たしていない。また、価格は丙の指示する価格でしか売ってはいけず、甲らには価格決定権がなかった。そして、アジトや電話回線の維持や、受け渡しや電話番をする仲間への報酬*7等、多くの費用がかかるところ、その費用を含む販売手数料として得られたのは売上のたった10%に過ぎず、これでは費用を賄うのがやっとで、残り90%を丙に送金しないといけないことから、結局利益のほとんどは丙が持って行ってしまっていたということが大事ね*8。こういう事実を、宅配伝票や銀行口座のお金の動き等の客観証拠から立証したわ。」


なるほど、こうやって弁護をするのか。


「裁判所は、概ね弁護側のケースセオリーどおりの認定をしてくれたんだけど、ポイントはこれから、控訴をするかどうかね。もう少し詳しく経緯を説明するから、ちょっと考えてみなさい!」


4 その後,司法警察員Kら及び事件の送致を受けたH地方検察庁検察官Pが所要の捜査を行った。 甲及び乙は,事実関係を認め,密売をするために覚せい剤をT株式会社社長室で所持していたこと,甲宛ての覚せい剤は甲1人で密売するためのもの,乙宛ての覚せい剤は甲と乙が2人で密売するためのものであることなどを述べた。一方で,甲及び乙は,各覚せい剤について,密売組織の元締である丙から送られたもので,10日間の期限内に売り切れなかった分は丙に送り返さなければならなかったこと,覚せい剤の売上金は,その9割を丙に送金しなければならず,自分たちの取り分は合わせて1割だけであったことなどを述べた。また,甲宛ての宅配便荷物内に入っていた覚せい剤は100グラム,乙宛ての宅配便荷物内に入っていた覚せい剤は200グラムであった。 同月26日,検察官Pは,甲について,営利の目的で,単独で,覚せい剤100グラムを所持した事実(公訴事実の第1事実),及び,営利の目的で,乙と共謀して,覚せい剤200グラムを所持した事実(公訴事実の第2事実)で,H地方裁判所に起訴した(甲に対する公訴事実は【資料1】のとおり)。また,検察官Pは,乙についても,営利の目的で,甲と共謀して,覚せい剤200グラムを所持した事実で,H地方裁判所に起訴し,甲及び乙は,別々に審理されることとなった。なお,検察官Pは,甲及び乙を起訴するに当たり,両名について,丙との間の共謀の成否を念 頭に置いて捜査し,丙が実在する人物であることは確認できたものの,最終的には,丙及びその周辺者が所在不明であり,これらの者に対する取調べを実施できなかったことなどから,甲及び 乙と,丙との間の共謀については立証できないと判断した。


5 同年11月24日に開かれた甲に対する第1回公判期日で,甲及びその弁護人Bは,被告事件についての陳述において,公訴事実記載の客観的事実自体はこれを認めたが,弁護人Bは,覚せい剤は,密売組織の元締である丙の手足として,その支配下で甲らが販売を行うことになってい たもので,公訴事実の第1事実及び第2事実いずれについても,丙との共謀が成立することを主張し,その旨の事実を認定すべきであるとの意見を述べた。引き続き,検察官Pは冒頭陳述を行い,甲らが丙から覚せい剤を宅配便荷物により交付されたことについて言及したものの,それ以上,甲らと丙との関係には言及しなかった。


証拠調べの結果,裁判所は,公訴事実について,

1甲らが,営利の目的で,同日同所において,各分量の覚せい剤を所持した事実自体は認められる,

2各覚せい剤の所持が,丙との共謀に基づくものである可能性はあるものの,共謀の存否はいずれとも確定できない,

3仮に甲らと丙との間に共謀があるとした場合,甲らは従属的立場にあることになるから,甲らと丙との間に共謀がない場合よりは犯情が軽くなる,と考えた。


論告・弁論を経て,裁判所は,同年12月8日に開かれた公判期日において,【資料1】の公訴事実に対し,格別の手続的な手当てを講じないまま,弁護人Bの主張どおり,【資料2】の罪 となるべき事実を認定し,甲に有罪判決を宣告した。


【資料1】

被告人は

第1 営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町 ○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤である塩酸フェ ニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し

第2 (以下,省略)

たものである。


【資料2】

被告人は

第1 丙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し

第2 (以下,省略)

たものである。


司法試験平成24年刑事系*9


う〜ん、刑が量刑相場から見て、特に重くないということなら、被告人の強い希望でもない限り、控訴する必要はないのかなぁ。


「あらあら、まさか、この判決が適法だと思っていて?」隣の席に、いつのまにか白いフリフリのドレスを着たリサさんが座っていた。ロイヤルミルクティーを優雅に飲み干すと、ふふっと、微笑む。食べているのはフルーツタルトだろうか。



「何見とれてるのよ! 控訴をするのかしないのか、理由を付けて述べなさい!」ひまわりちゃん、リサさんがいるとなると急に焦り出す。なぜなのだろう。


う〜ん、控訴理由があって、原判決を破棄(397条1項)してくれるなら控訴する意味があるってことだから、控訴理由を探すってことかな。


「考え方の枠組みは分かったけど、具体的に原判決のどの点が問題なのよ?」


う〜んと...。問題点がパッと思いつかない。


「あらあら、こういう時は、公訴事実と認定事実を比較してみれば、そこにヒントがあるわ。公訴事実は何かしら。」



被告人は

第1 営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し

第2 乙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同日,同所において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末200グラムを所持し

たものである。


「それでは、認定事実はどうなっていて?」



被告人は

第1 丙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し

第2 丙及び乙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同日,同所において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末200グラムを所持し

たものである。



そうか!*10



「そのとおりよ。公訴事実になかった丙との共謀が付け加わっているという問題ね。」うふふ、と笑うリサさんに、思わず見とれてしまう。



「リサさん、ヒントあげ過ぎよ。もう少し自分で考えさせなさい! ひまわりはリサさんと違ってスパルタで行くわよ!丙との共謀を付け加えたというのは、何の問題? 」


う〜んと、罪となるべき事実の認定の問題かなぁ。


「そういう捉え方もできるわね。裁判所は、どういう場合に有罪判決を下せるの?」


被告事件について犯罪の証明があったとき(333条1項)


「今回、裁判所は『各覚せい剤の所持が,丙との共謀に基づくものである可能性はあるものの,共謀の存否はいずれとも確定できない』という心証に至ったんだけど、その意味は?」


甲の犯行が丙との共謀に基づくのか否かについて、合理的疑いを容れない証明がなされていないということ。



「そう、「罪となるべき事実」の記載は、その事実が特定の構成要件に該当することを判定するに足りる程度に具体的に記載しなければならない*11ところ、共謀共同正犯の『共謀』は、厳格な証明の対象*12なのだけど、共謀の存否につき、合理的疑いを容れない証明がなされていない場合に、裁判所は、どういう判決を下すの? あんたが裁判官だったらどうするのよ?」



そんなことを言われても...。甲の単独犯かもしれないし、甲と丙の共謀共同正犯かもしれないんだよなぁ...。



「あらあら、単独か共犯か分からないからといっても、少なくとも『甲らが,営利の目的で,同日同所において,各分量の覚せい剤を所持した事実自体は認められる』のだから、無罪という結論はありえないわよね*13。そうすると、裁判官にとって取れる選択肢は、(1)『単独で又は丙と共謀の上』という形で択一的認定をする(例えば東京高判平成4年10月14日高刑集45巻3号66頁)、(2)『疑わしきは被告人の利益に』の原則(利益原則)に従い、被告人に有利な方(単独犯or共謀共同正犯)について(一義的に)認定する(例えば札幌高判平成5年10月26日判タ865号291頁)、そして、(3)共謀の事実が証明されていない以上、これを認定できないしその必要もないとして単独犯(実行正犯)として(一義的に)認定する(例えば東京高判平成10年6月8日判タ987号301頁)という3つの選択肢がありそうね。この3つのうち、どれが良さそうに見えて?」


う〜ん、どれも良さそうに見えて迷ってしまうなぁ...。



「迷ってばかりいるからダメなのよ。ガツンと選んじゃいなさいよ!」


「あらあら、焦らせても、選ばれるのがひまわりさんの意図する方とは限らなくてよ。」うふふと笑うリサさんの視線が、ひまわりちゃんの目を鋭く射抜く。


それ、ど、どういう意味よ?」落ち着かないひまわりちゃん。


「あらあら、言葉通りの意味よ。」うふふ、と笑うリサさん。


「ま、まあいいわ。原判決はどういう判断をしている訳?」なんか、ひまわりちゃんの機嫌が悪そうなのは、どうしてなのだろうか


裁判所は、共謀共同正犯と認定しているから、2番目の見解に立ち、『仮に甲らと丙との間に共謀があるとした場合,甲らは従属的立場にあることになるから,甲らと丙との間に共謀がない場合よりは犯情が軽くなる』という観点から、利益原則により被告人に有利な共謀共同正犯について一義的に認定したってことか。


「じゃあ、この判断は、正しい判断だったの? それとも間違った判断だったの?」


う〜ん...。



「あらあら、この点そのものではないけれど、参考になる最高裁の先例があるところよ。共謀共同正犯にはいろいろな類型がある*14けれど、本件のように、被告人が実行行為の全部を一人で行っていて、被告人の行為だけで犯罪構成要件のすべてを満たしている場合には、他に共謀者が存在するのかどうかは犯罪の成否を左右しないわよね*15。だから、たとえ証拠上、共謀共同正犯であることが(合理的な疑いを容れない程度に)証明できた場合であっても、共謀共同正犯の存否を認定する必要はなく、検察官の設定した訴因どおり単独犯として認定することが許されるとされたわ(最決平成21年7月21日刑集63巻6号762頁)*16。有力な学説は、この先例を前提に、3番目の見解をとっているわね。つまり、訴追裁量を有する検察官が単独犯として起訴しており、そのとおり認定できる以上、罪責の認定としては単独犯として認定すべきとするわ*17。」


でも、そうすると、せっかくひまわりちゃんが頑張って共謀を主張・立証したのにそれが無意味になるのでは。


「何いってんの! 共謀を認定しない限り丙の存在を甲に有利な情状として考慮することは許されないなんてことある訳ないじゃない。共謀は量刑事情として考慮すればいいのよ*18。」



そうすると、原判決は単独犯として「罪となるべき事実」を認定すべきところを、共謀共同正犯として丙との共謀を加えた事実認定をした点に、「事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らか(382条)」として、控訴理由があるということか。



「まあ、いいわね。でも、もう1つ控訴理由が考えられるわよ。判決に至る訴訟手続という観点ではどうなの?」


訴訟手続ってことは、何か手続上すべきことをしなかったり、してはならないことをしたってことかなぁ...。


「裁判所は、札幌高裁と同じ、2番目の見解を取って、利益原則の観点から、共謀を認めるという心証を固めた訳よね。その当否自体については既に検討したところだけど、もし共謀を認めたいなら、裁判所としてやるべきことがあったのではなくて?」



う〜んと、訴因変更かな。


「そう。訴因変更の問題には、大きく訴因変更の可否、訴因変更の要否、訴因変更命令等があるけど、そのうちどの問題になるの。」


えっと、確か、可否というのは、検察官が訴因を変更しよう*19と思った場合に、それが「できるか」「していいか」という問題で、確か公訴事実の同一性を害しない限度で許される(312条1項)のだった*20。そして、要否というのは、どういう場合に訴因を変更する必要があるか、つまり、訴因と(何らかの)違いがある事実を認定する場合に、訴因変更という正式な手続を経る必要があるのか、経ずにそのままの訴因で、違う事実を認定しちゃっていいのかという問題だった*21。そうすると、今回は、訴因変更手続を経なかった事案だから、手続上訴因変更をしないでもよかったのかという「要否」の問題か。


「まあいいでしょう。訴因変更をしないでいい場合は何?」


えっと、確か、抽象的防御説と、具体的防御説が対立していて、最高裁は審判対象画定説を取ったと言われていて...。



「あらあら、抽象的なキーワードだけで議論しても、具体的な事案を解決できるようにはならないわよ。きちんとそれぞれの概念がどういうものなのかを具体的に理解しないといけないわね。刑事裁判の審判の対象は訴因だと言われているところ、訴因は、裁判所が他の犯罪事実と区別できるよう審判対象を明確にし(識別機能)、被告人・弁護人の防御の対象を明確にする(防御機能)ことで、被告人・弁護人に防御のターゲットを把握させるという2つの機能を営んでいるわね*22。そうすると、確かに、当初の起訴状に記載された訴因と、証明された事実との間で齟齬が生じれば、審判対象の観点からも、防御機能の観点からも一般的には訴因変更が必要ということになりそうよね。だけど、どんな些細なズレがあっても訴因変更手続を経ないといけないのは煩瑣だと思わなくって。だから、当初の訴因と『実質的に異なる事実』が認定されるなら、訴因変更が必要と一般に解されているわ*23。」



ここまで、抽象的防御説という言葉も、具体的防御説という言葉も全く出てこないのだけど、それでいいのだろうか。



「あらあら、学説の貼ったラベルを暗記することよりも、学説がラベルを貼ろうとしている対象が何かを理解する方が重要ではなくて。どういう場合が『実質的に異なる事実』なのかについて、具体的な防御状況を考慮して判断しようという見解は、一般に具体的防御説と呼ばれていて、具体的な防御状況を考慮せずに一般的・類型的な防御への不利益を考えて判断しようという見解は、一般に抽象的防御説と呼ばれていているわ*24。」


なるほど、そうすると、最高裁の見解はどう考えるといいのだろう。


「最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁は、第三者と共同で犯罪を行ったが、実行したのは被告人だという訴因であったところ、裁判所が、実行犯は被告人かもしれないし、共犯者かもしれないし、その両名かもしれないという事実を認定した事案で、こういう判断を示したわ。」


訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。

最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁



「ちょっと、待ちなさいよ!二人だけで進めないの! こいつは、ひまわりの助手なんだから、質問していいのはひまわりちゃんだけなの! 平成13年最決は、訴因と認定事実が異なる場合を大きく2つに類型化してるけど、何と何?」


それが明示されていないと「訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠ける」ような、審判対象画定の見地から訴因変更を必要する事実と、そうでない事実。


「訴因には、識別機能、つまり審判対象を画定する機能があるから、識別機能の観点から、審判対象画定に必要な事項が変動する場合(第1類型)には、訴因変更が必要*25。そういう事実じゃない場合(第2類型)に、訴因変更が必要とされるのは、被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項の場合。そして、仮に被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項の場合であっても、被告人の防御の具体的な状況等審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、判決で認定される事実が訴因と比べて被告人にとって不利と言えなければ、訴因変更は不要になるわ*26。」



第1類型 審判対象画定に必要な事項が変動する場合常に訴因変更が必要
第2類型 審判対象画定に必要な事項が変動しない場合 原則:被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項が変動する場合に訴因変更が必要
例外:上記の場合でも、被告人の防御の具体的な状況等審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、判決で認定される事実が訴因と比べて被告人にとって不利と言えなければ、訴因変更は不要



「あらあら、抽象的規範を並べるだけではなく、その意味を具体的に説明しないと、わかりにくいのではなくて。例えば、平成13年最決は、この事案において誰が実行犯なのかという事実は、審判対象画定に必要な事項ではないから、第2類型だとした上で、検察官が訴因において実行行為者を明示したことから、実行行為者が誰かという問題は被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項が変動する場合に該当するとしたわ。そうすると、原則的には訴因変更が必要なんだけど、具体的な事案では、被告人の方が、自分が実行行為者ではないと主張していて、誰が実行行為者か明示しない判決はこの被告人の主張を一部受け容れたものなのだから、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、判決で認定される事実が訴因と比べて被告人にとって不利と言えないという例外に該当し、訴因変更は不要としたのね。」



なるほど。そういう事案なんだ。でも、本件とはかなり違っている気が。


「あらあら、いいことに気づいたわね*27共謀が厳格な証明の対象となる、『罪となるべき事実』だとすると、平成13年最決の枠組みから、本件の帰結はどうなって?」


本件は、単独犯と共同正犯とでは、そもそも構成要件が異なるところ、共謀はそれを画すものである*28し、平成13年最決も「共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく」と、共謀した共犯者の範囲が変われば第1類型になる可能性を示唆している。これらに鑑みれば、第1類型ということができるだろう。審判対象画定に必要な事項である共謀を(利益原則の観点からであっても)認定する以上は、(少なくとも)訴因変更の手続を経よ、こういうことか*29



「あんたの考えだと、訴因変更の手続を経なかったこと自体が違法だってことになっちゃわない? そもそも訴因変更は、検察官が申し出るものよ*30。」


そうか、訴因変更命令(312条2項)か! 訴因を心証に合わせろと命令をする訳か。確かに、検察官に訴因変更を命じて、心証どおりの訴因に変更させれば、この問題はなくなるなぁ。


「あらあら、実務的には、訴因変更命令は、あまり使われていないわね。まずは、求釈明(規則208条)によって事実上訴因変更を促すことになるわね。訴因変更命令に形成効はない*31のだから、検察が頑として訴因を変更しないのなら、裁判所としては、原則通り、罪となるべき事実において、甲の単独犯として認定することになりそうね。」



そうすると、求釈明(規則208条)等で訴因変更を促す措置を講じないことが、「訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである(379条)」ということか*32


「もっとも、利益原則は、合理的な疑いが残ったら、ある事実を『認定してはいけない』という規範であり、共謀につき合理的な疑いが残る本件で利益原則を理由に(本来合理的疑いを容れない証明がない限り認定してはいけないはずの)共謀を認めることはできないという見解もあるわね。この考えからは、仮に検察官が共謀共同正犯へと訴因を変更したとしても、共謀について合理的な疑いが残る以上、だからといって共謀を認める判決を下してはならないことに変わりはないということには注意が必要だわ*33。この点は、訴因変更の欠如及び訴因変更を促す措置の欠如という訴訟手続の違法が、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法なのかという、379条の要件と関係するから、もしかすると、379条の要件は満たされないとなるかもしれないわね*34。」うふふっ、と笑うリサさん*35


なるほど、一見簡単そうな事案でも、その裏で検討すべきことは「深い」なあ。


「さて、2つないし1つの控訴理由があるということは分かったけど、これって、どうしても共謀を認定したいなら正しい手続を踏みなさい、踏まないなら、量刑のところだけで考慮しなさいって、ことよね。」



まあ、そうなるわな。



そうすると、もし、原判決の量刑に問題はなかったとすれば、控訴審裁判所としては、原判決を破棄して、同じ刑を言い渡すだけで終わりにならない? 控訴する意味は、あるのかしら?」ニヤリと笑うひまわりちゃんに、小悪魔的な何かを感じる。


う〜ん、もしかして、こんなにいろいろ考えたけど、控訴する意味はやっぱりなかったというオチになるのか?



「あらあら、ひまわりちゃんも意地悪ね。量刑って、慣れないと本刑、例えば『懲役6年』という部分に注目しがちだけど、本刑以外にも重要なものがあるのよ。」


それ以外の重要なもの?


「こんなにヒントもらっても、分かんないの? ほら、ここ。」ひまわりちゃんが指差した先には、判決


未決勾留日数中10日をその懲役刑に算入する。


との記載があった。なるほど、そういうことか。


「やっと分かったのね。まったく、ニブいんだから。刑事訴訟法495条2項2号は、被告人控訴の場合、判決が破棄されれば、上訴申立後の未決勾留の日数が全部本刑に算入されるとしているわ。控訴審で争える期間はだんだん短くなっていて、多分数ヶ月くらいにしかならないけれど、その間、無罪を推定される未決収容者として、受刑者よりも多くの自由を享受できるわ。未決勾留期間全部が本刑に算入されるという意味は*36その期間を全て『お勤め』したとみなしてもらえるのだから、被告人にとって利益よね。判決を書く裁判官もヒトなのだから、原判決にミスがあることはままあるわ。そして、その場合、ミス是正の手続のため必要な期間の身柄拘束は、被告人に不利益には扱われない。判決をもらったり、控訴審の事件を受任したら刑裁修習でもらった白表紙をひっくり返して、原判決の1項目1項目をミスがないかチェックするのは常識*37。甲さんには、控訴審の期間に服役を伝える手紙を書いたり、身辺整理をしたりと、ゆっくりと服役の準備をしてもらえそうね。」


今回、僕たちの弁護団は、そういう意味での「勝利」を獲得したことになる。ひまわりちゃんが、珍しく、にこにこと笑ってる。


さあ、控訴趣意書を起案しなさい! 期限は明日朝まで*38。ほら、ちゃっちゃとやる!」ひまわりちゃんの上機嫌そうな声が響く。



いつもは嫌な起案も、今日だけは楽しくできそうな気がする。


まとめ

ということで、平成24年刑訴完結編です。なんとか、「法学ガールシリーズ」の名を汚さぬよう、全力で頑張って行く次第ですので、よろしくお願いします。

*1http://www.geocities.jp/tsukasaviola/13keisosemi.html

*2:競技上の外壁をよじ登って屋上に故なく侵入したとして建造物侵入罪の成立を認めた福岡高那覇支判平成7年10月26日判タ901号266頁参照

*3:「はい、そうです。ツンデレな女の子にぐいぐい引っ張られるところに萌えを感じるだけじゃダメで、引っ張られる主人公をちゃんと追体験できるような心持ちで 読んだりとか、女の子目線で考えてみるとか、その場におかれたら自分がどう振る舞うかとか、そういう幅があるんじゃないかな、って。」参照http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/entry/2013/06/03/232123

*4:研修所方式

*5:ご指摘を受け、修正しました。ありがとうございます。

*6:参考となる量刑資料として、小森「もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術」付録CDの東京地判平成20年3月24日は、454グラムの覚せい剤営利所持に、150グラムの大麻鋭利所持、覚せい剤自己使用がついて懲役6年罰金150万円とする。ただし、この事案はかなり軽い量刑であり、たとえば、わずか150グラムあまりの営利所持(+3.7グラムの自己使用分の所持)で懲役6年罰金100万円とした例(横浜地判平成20年3月27日)もあることに留意が必要である。

*7:「代表取締役社長の甲以外に数名の従業員が同事務所で働いている」

*8:営利行為への関与度合いに関するファクターと具体的事例については、小森「もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術」313頁〜316頁が詳しい。

*9http://www.moj.go.jp/content/000098337.pdf

*10:ご指摘を受け反映させていただきました。

*11:最決昭和24年2月10日刑集3巻2号155頁

*12:最判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁

*13:本文ではこうあっさりと書いてしまいましたが、ご指摘を受け補足しますと、単独犯と共謀共同正犯が別個の構成要件だとすると、単独犯という認定もできないし共同正犯という認定もできない以上、無罪としなければならないのではないかという問題は残っています。

*14:例えば、本件と異なり、被告人Aは実行行為に関与しておらず、Bと共謀して、Bが実行行為を担当したという場合、まさに「共謀」がAの責任を基礎付ける上で不可欠の要素である。そこで、このような類型では、本件と異なる考慮を行うべきことになるだろう。池田・前田316頁参照。

*15:岩崎邦生「単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても、訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるか」ジュリスト1447号98頁は、「共同正犯の不成立」「が単独犯の成立要件となるのかという実体法上の問題」と「訴因の認定」の問題では、前者が「論理的には先行」するとした上で、「被告人1人の行為により単独犯の犯罪構成要件の全てが満たされた場合には、仮に共同正犯の規定が存在しないとしても単独犯の規定により処罰されるのであるから、共同正犯の規定を適用する要件が満たされた場合であっても、なお単独犯の成立を認めることができると思われる。」とし「問題は」「検察官が単独犯、共同正犯のいずれで起訴するかという、訴追裁量の問題となる(そして、裁量の逸脱とされる事態はあまり想定し難い)としている。

*16:ご指摘を踏まえ若干加筆しました

*17:リークエ446頁。池田・前田316頁参照。

*18:岩崎邦生「単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても、訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるか」ジュリスト1447号99頁も「他の共謀共同正犯者の存在を認定する必要はなく、あとは量刑事情として、その重要性、必要性に応じて、他の関与者の存否やその程度を審理、判断すれば足りることにな」るとする。

*19:または、裁判官が訴因を変更させよう、312条2項参照。

*20:百家争鳴のわかりにくい訴因変更の可否の問題であるが、その中では比較的わかりやすい記述として、緑「刑事訴訟法入門」238頁〜247頁

*21:池田・前田303頁参照

*22:緑「刑事訴訟法入門」180頁。なお、そのどちらを重視するかで見解が分かれている。

*23:緑「刑事訴訟法入門」226頁〜229頁

*24:緑「刑事訴訟法入門」229〜230頁

*25:これが、いわゆる抽象的防御説と同一かについては、古江「事例演習刑事訴訟法」160頁と、緑「刑事訴訟法入門」233頁を参照。

*26:緑「刑事訴訟法入門」232〜233頁

*27:受験生はこの点を看過した方が多かったらしい。採点実感参照http://www.moj.go.jp/content/000105102.pdf

*28:とはいえ、この「構成要件が異なる」というのが、修正された構成要件なのか、まったく別物なのかについては議論があるところである。

*29:ご指摘を受け、加筆・修正いたしました。

*30:312条1項。「検察官の請求があるときは」

*31:最判昭和40年4月28日刑集19巻3号270頁

*32:なお、このように第1類型に該当すると考えると、緑「刑事訴訟法入門」232頁の考え方によれば、正しい手続きをしないまま行った判決は、不告不理原則違反(刑訴378条3号)の絶対的控訴理由に該当することになるだろう。

*33:なお、検察官が共謀を訴因として明示し、かつ、共謀を合理的疑いを容れずに認定できなかった場合に、『単独で又は丙と共謀の上』という択一的認定ができる/すべきという議論も理論上はあり得る(このように考えても、平成13年最決とは事案が異なるから、同最決とは矛盾しないだろう)。しかし、単独犯と共謀共同正犯の間の違いを重視すれば、異なった構成要件に該当する事実の択一的認定であり、両者に関する構成要件該当事実はいずれも証明されていない以上、合成された構成要件を作り出して処罰するに等しく罪刑法定主義違反の疑いがあるとの批判もあるところである。

*34:要するに、「もしXをしていれば、判決Yを適法にできたのだから、Xは判決に影響を及ぼす!」と言おうとしているところ、「Xをしていても、依然として判決Yは違法だ」ということなら、Xをしてもしなくても結果は同じで、Xは判決に影響を及ぼさないのではないかということ。

*35:ご指摘をうけ、若干加筆いたしました

*36:控訴審における

*37:某控訴審研修における講師の先生の言葉。

*38:なお、控訴趣意書提出期限は、控訴後に控訴裁判所が控訴趣意書差出期間を指定(通知が届いてから21日以上の定められた期間)するので(376条、規則236条)、実際には、控訴提起期間中に控訴趣意書を起案する必要はない。ただし、控訴理由の検討後、控訴趣意書提出期限までは時間があるので、途中で何を書くべきか忘れないよう、控訴理由検討メモ等を「数ヶ月後の当職」のために作っておくといいだろう。