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2011-01-08

音楽活動を投げ銭で成り立たせるには

| 14:50 | 音楽活動を投げ銭で成り立たせるにはを含むブックマーク 音楽活動を投げ銭で成り立たせるにはのブックマークコメント

参考URL

『音楽を愛する全ての方へ。オープンド・アーティスト・システム(OAS)』

はじめに

メリディアンローグというバンドが音楽業界に対して新しいビジネスモデルを提案しているようだ。仕組みはファンクラブのメンバーにメルマガで定期的に新曲を無料配信して、「プレミアム・サポーター」と呼ばれる有料メンバーにはCDやDVD、限定ライブなどの特典を用意する形になる。目標はアーティストがそれだけで生活できるようにするということらしい。今回はこのようなビジネスモデルが必要な背景と普及させる上での問題点を考える。

何故音楽が売れないか

ニコニコ動画で好きな音楽を見つけたら、ニコサウンドへ行ってMP3をダウンロード、手持ちの携帯プレーヤーに入れれば無料で好きな音楽が好きなだけ楽しめる。例え合法ルートで音源を手に入れるとしても、単価が安いiTunesやCDレンタルを選ぶ人は多いだろう。顧客の立場としては最低の代価で最高の商品やサービスを得ようとするのは当たり前だ。今の音楽の相場は1曲100円とか200円らしいが、そのぐらいの価値を5~6分の音楽に詰め込むことは恐らくプロでも難しい。聞き手の価値観がすでにここ数年で麻痺、或いは崩壊しているからだ。音楽に限らずあらゆるデジタルコンテンツは無料で手に入るべきと考えている人は少なくない。そこにはクリエイターが創作をするために保障されるべき活動費用はあまり考慮されないのが現実だろう。創作活動に専念できずに明日の飯代を心配するくらいなら、音楽活動なんて趣味に留めてしまったほうが良いと思うのは当然である。

海外のユーザー援助型ビジネスモデル

ArtistShareというサイトが2003年から始まっている。

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このサイトではユーザーが直接アーティストの活動費用を援助することで、創作サイクルを成り立たせている。レコーディングやCDのプレス費用などをユーザーがスポンサーするわけだが、相当大きな規模で行われている。参加者には楽曲の創作プロセスを閲覧できる仕組みが用意されていて、より高額な援助を行うと、エクセクティブプロデューサーとしてレコーディングスタジオに立ち会いする権利を得ることもできるという。寄付のページを見てみると数十万円単位での援助のオプションが用意されていて、それができない人には普通にCDを買ったりダウンロード購入するという手段も残されている。

f:id:ronri:20110108154505j:image

http://www.artistshare.com/projects/project_experience.aspx?projectID=141&artistID=1

ようするにコンセプトはパトロンなのだろう。プロジェクトをまるごとスポンサーするなど、一部のお金持ちにしかできない芸当だが、そういうレベルのことが淡々と行われている。投げ銭文化が根付いていない日本で同等のことを行うのは恐らく難しいだろう。これでは数百〜数千人の娯楽を1人のお金持ちがスポンサーする、いわゆる「パーティーの食べ物は全部無料だよね」という構図になってしまう。日本で似たようなことをやるなら、もう少し薄く広く負担できるモデルにしないと成り立たない。

何にお金を払うのか

上で紹介したようなモデルで、数十万〜数百万円を投じてアーティストをサポートしている人達は何にお金を払っているのか。創作プロセスを見る権利やレコーディングの立ち会いは、おそらく単なるおまけで、本当の意味で対価が支払われているのはそのプロセスから出来上がった作品だろう。この人達が「新曲を聞きたい」と純粋に思っているからこそ成り立つビジネスモデルである。寄付しなければ新曲は生まれないし、アーティストは活動を中止してしまうかもしれない。例えれば鶏に餌を与えなければ卵を産まないし、いずれ死んでしまう。あなたが卵だけ食べて「頑張れ〜」という応援をしても鶏は卵を産まない。鶏は餌をくれる人に付いていく。今のネット界では音楽クリエイターは「楽曲を聞いてもらえるだけで嬉しいはずだ」という思考で染まっている。でもクリエイターのほとんどは楽曲を聞いてもらうよりも「音楽活動を続けていける環境を持つ」ことを望んでいるはずだ。もっと作品を作って発表したいと思っているだろう。作り手はロボットではないから、創作に集中するには水も食糧も必要だし、寝泊りする場所も必要だ。趣味でやってるとしてもそれは本業で稼いでるお金を創作活動に回している「セルフパトロン状態」であって、それが当たり前になると中間マージンを削ることばかりを考えるようになり、全体的なクオリティが「節約」という名の元に犠牲になる。「新曲を生みたい」という思いは、クリエイターもそのファンも一致しているはずである。だったらまずクリエイターをセルフパトロンをやめさせることだ。新しいビジネスモデルを提案するとしても、聞き手が意識改革を行わなければ成り立つわけがない。

オープンド・アーティスト・システム(OAS)の問題点

メリディアンローグの提案は有料会員のみで音楽の創作プロセス(ボーカル収録、アレンジ、ミックス、マスタリング、CDジャケットデザイン、CDプレス、etc)を支えるという趣旨だが、本当に実現可能なのだろうか。先に述べたように楽曲のクオリティが落ちる可能性もあるし、それでファンが離れていったら本末転倒なのではないか。ライブのグッズ販売を収益源にしているので、ボカロPのようなDTMメインのクリエイターには導入できない部分も多い。メルマガというやり方も正直疑問だ。有料メルマガならまだ解るが、無料で配るだけならメールマガジンに拘る必要はない。これなら無料配信をする代わりにライブのチケット代をいくらか上げるだけでもいいのではないか。とりあえずこのOASを導入しようとしているクリエイターは既存のファンを失うリスクも考えなければならない。導入するのは当の本人達が試行錯誤してからでも遅くはないということだ。この提案には実績データが不足し過ぎている。

オーダーメイドモデルとの連動

活動の費用を賄うというのなら素直に楽曲制作の依頼を引き受けるほうがよっぽど現実的かもしれない。同人音楽の歌い手や作曲家のほとんどが何かしらの形で依頼を引き受けている。エロゲーの主題歌だったり、東方アレンジの仕事も多いかもしれないが、自分の作業に対する対価が保障されているならば、自分の作品を出す時のようなリスクを心配をする必要が無い。サポーターモデルを本気で成り立たせようと思うのなら、サポーターになってくれた人限定のオリジナル曲をプレゼントしたり、オーダーメイドの依頼を請け負ったりするくらいのことをしないと、まともな額は集まらないだろう。

最後に

日本の場合欧米と違ってお客様意識というものが強いため、お金を払うとしたら必ず何か対価を得なければ気が済まない人が多い。有料会員制を試みるのは良いが、それ単独で活動全体を支えられるほど世の中は甘くない。金を払った人に正当な対価を用意することをまず考えなければならない。

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