さよなら、フィリップ・シーモア・ホフマン。


グラース家の困った長男の名前をミドル・ネームに持ち、いい感じのデブ専(褒め言葉!)俳優として僕たちの前に現れたフィリップ・シーモア・ホフマン。フィリップでも、ホフマンでもなくて、長ったらしい“フィリップ・シーモア・ホフマン”って略することなく呼びたい名前。そんな彼が2月2日に、ニュー・ヨークの自宅で亡くなってしまいました。バスルームで発見されたときは、腕に注射器が刺さっていたとのこと。今どき、キース・リチャーズでも眉をしかめるロックンロールなエンディングだと思う。まだ46歳。大バカ者め!
もしも、神様が映画監督なら、そのバスルームの1シーンを切り取ってボツにしてもらいたい。2月2日を再編集して、フィリップ・シーモア・ホフマンが生き続ける人生の別ヴァージョンを観ていたかった。そこに、僕たち観客が計り知れない苦悩があったとしても。


僕が最初にフィリップ・シーモア・ホフマンを意識したのは、やっぱり『ブギー・ナイツ』のスコッティだった。マーク・ウォルバーグ演じる主人公のダーク・ディグラーに恋するロン毛&タンクトップの繊細な(…でも、見た目はキモい)ゲイ。「キミのためにクルマを買ったよ」とかキスを迫って拒絶されるとか…、脇役ながらも強烈なインパクトを残してくれた。それ以来、意識しなくても「観たい」と思った作品には彼の名前をクレジットに見つける機会が増えた。特にポール・トーマス・アンダーソン監督の作品では欠かせない存在に。05年には『カポーティ』で、第78回アカデミー賞で主演男優賞を受賞。僕はカポーティフィリップ・シーモア・ホフマンも好きすぎて、この作品をまだ観ていない。「いつかゆっくり観るのだ!」と楽しみに取っておいた1本。それなのに、まったく。本当に切ないじゃないか。

あえて順位はつけないけれど、僕が観たフィリップ・シーモア・ホフマンの作品をピックアップします。デブや変態やオタクを演じさせたら史上最高。でも、本当は良い顔&最高の演技力。彼がマイノリティを生き生きと演じたことが、90年代から現在までの映画を面白くさせていたことは言うまでもないこと。涙。


『ブギー・ナイツ』(97年/ポール・トーマス・アンダーソン


ビッグ・リボウスキ』(98年/コーエン兄弟


マグノリア』(99年/ポール・トーマス・アンダーソン


あの頃ペニー・レインと』(00年/キャメロン・クロウ


『パンチドランク・ラヴ』(02年/ポール・トーマス・アンダーソン


カポーティ』(05年/ベネット・ミラー


脳内ニューヨーク』(08年/チャーリー・カウフマン


パイレーツ・ロック』(09年/リチャード・カーティス


マネーボール』(11年/ベネット・ミラー


『ザ・マスター』(12年/ポール・トーマス・アンダーソン