2001年12月26日 手塚和彰「雇用確保、欧州は時短で 賃金下げ仕事共

手塚和彰「雇用確保、欧州は時短で 賃金下げ仕事共有 同一労働なら同じ処遇に」2001年12月26日


不良債権の最終処理にともなう雇用不安への対処として、ワークシェアリングが注目されていた時期でした。翌2002年3月には、厚生労働大臣坂口力氏、日本経営者団体連盟会長奥田碩氏、日本労働組合総連合会会長笹森清氏の3者による「ワークシェアリングに関する政労使合意」が発表されています。

(1)業種や全国で一律の賃金など労働市場の柔軟性が乏しかったドイツが大きく変化しつつある。規制緩和ワークシェアリング(職の分かち合い)導入が進んできた。社会保障負担の軽減など政府の後押しも重要だ。
 (2)日本も欧州を参考にすべきだ。特にパートタイムや期限付きの労働の条件をフルタイムと同じにする点に注目する必要がある。日本の雇用調整は人減らしにとどまらずに雇用を維持・創出する方向に進まなければならない。

 現在の日本の雇用調整が人減らしや人件費の削減にとどまり、規制緩和の結果としての雇用確保につながらないのではないかと危惧(きぐ)している。
 雇用保険法を中心とした雇用保障の枠組みが一方では職場の雇用確保を意図していながら、他方では雇用の流動化の方向を出すなど、相互の関係が有機的にかみ合っていないように思える。しかも制度がたびたび変更になり、内容が複雑なだけに中小企業やそこで働く労働者の利用が難しいことも想像できる。
 パートや短期契約労働者のセーフティーネット(安全網)は依然として十分ではない。同一の仕事、職種の場合はフルタイム労働者と同等に取り扱うべきだが、そうなっていない。今後、大胆にワークシェアリングを推進したとしても、雇用拡大効果を生むのかどうか明らかではない。
 ここで取り上げたドイツの取り組みは、州レベル以下の地域での労使の合意により、全国レベルから個別の企業に至るまで浸透し始めている。その結果、雇用情勢の悪化に歯止めがかかりつつある。とりわけ中小企業や手工業には手厚く補助をしているため、そうした分野では雇用が増加してきた。日本は欧州の事例を踏まえて具体策を考える必要がある。
(平成13年12月26日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

論考の大半はドイツを中心とした欧州諸国のワークシェアリング的政策の取り組みを紹介していて、日本への含意は最後に少しだけ述べられています。その中で、「同一の仕事、職種の場合はフルタイム労働者と同等に取り扱うべきだが、そうなっていない。」と均等処遇を訴えています。これに関しては、翌年の「政労使合意」の中で「緊急対応型ワークシェアリングの実施に当たっては、個々の企業の労使間で、次の点について十分に協議し、合意を得ることが必要である。」とされた4項目の1つとして「所定労働時間の短縮に伴う収入(月給、賞与、退職金等)の取り扱い」があり、そこにわざわざ(注)として「時間当たり賃金は、減少させないものとする。」という文言が織り込まれることで、少なくとも政策方針としては現実化しました。
ただ、「同一の仕事、職種の場合はフルタイム労働者と同等に取り扱うべきだが、そうなっていない。今後、大胆にワークシェアリングを推進したとしても、雇用拡大効果を生むのかどうか明らかではない。」という記述に関しては、「そうなっていない」から「明らかではない」という因果関係を主張しているのかどうか必ずしも明確ではありませんが、前段の文章を読む限りではその因果関係の根拠は明らかではありません。ここについては、手塚氏は労働法学者ですので、一部の労働法学者にありがちな「ワークシェアリングを行うのであれば(行うのでなくても)、均等処遇とするのが正義である」という信念が表明されているだけなのかもしれません。ちなみに、「政労使合意」では、多様就業型ワークシェアリングの推進に際しては「労使は、働き方に見合った公正な処遇、賃金・人事制度の検討・見直し等多様な働き方の環境整備に努める。」と述べており、均等処遇には踏み込まず、均衡待遇の考え方を確認するにとどまりました。