規制改革会議に対する厚生労働省の言い分(3)

きのうの続きです。いよいよ、核心部分(笑)に入ります。

【規制改革会議の主張(抄)】
○ 解雇権や雇い止めは著しく制限されており、しかも、これらはいずれも、どういう理由と手続きの下で解雇あるいは雇止めが有効となるのか、予測可能性が低い。
 そこでまず、労働者保護に十分配慮しつつも、当事者の自由な意思を尊重した合意に基づき予測可能性が向上するように、法律によってこれを改めるべきである。
○ 労使それぞれが有する相手方に関する情報の質と量の格差を是正する対策、例えば、業務内容・給与・労働時間・昇進など処遇、人的資本投資に対する労使の負担基準に関する客観的細目を雇用契約の内容とすることを奨励することにより、判例頼みから脱却し、当事者の合致した意思を最大限尊重し、解雇権濫用法理を緩和する方向で検討を進めるべきである。
厚生労働省の考え方】
○ 労働者と使用者との間には交渉力においても格差があることや、労働者は経済的に弱い立場にあり、使用者から支払われる賃金に生計をゆだねていることなどから、契約の内容を使用者と労働者との「自由な意思」のみにゆだねることは適切ではなく、最低限かつ合理的な範囲において規制を行うことは必要であり、専ら情報の非対称性を解消することで必要な労働者保護が図られるとの見解は不適切である。
○ また、こうした実態を踏まえて、判例によりルールが整備され、労働契約法に規定された解雇権濫用法理について、その緩和を主張するのは不適切である。

規制改革会議は自由な意志「のみ」とは言っていない、というのは前述のとおりですが、それはそれとして、ここが規制改革会議、というか福井秀夫先生の本丸なわけで、福井先生にしてみれば厚労省のいう「最低限かつ合理的な範囲」は全然「最低限」でもなければ「合理的」でもない、ということでしょう。これはまさに「当省の基本的な考え方と見解を異にする」点だろうと思います。
まあ、「専ら情報の非対称性を解消することで必要な労働者保護が図られる」とはいっても、規制改革会議がいうような詳細な部分まですべて情報の非対称性を解消すること自体が非常に困難なわけです。そこまで欲張らなくても、客観的で合理的な退職の事由(たとえば勤務地限定採用でその勤務地がなくなった場合とか、職種限定採用でその職種がなくなった場合とか)について事前に合意しておけば、その事由が出現すれば当然に退職となる、といった契約を認めるだけでも、実務的にはかなり「予測可能性の高い」しくみとなるのですが。
ということで、厚労省の言い分は、解雇権濫用法理の規制緩和は一切認められないというところは硬直的で不適切な感はありますが、それ以外は規制改革会議よりは妥当なように思われます。

【規制改革会議の主張(抄)】
○ 労働者派遣法は、派遣労働を例外視することから、真に派遣労働者を保護し、派遣が有効活用されるための法律へ転換すべく、派遣期間の制限、派遣業種の限定を完全に撤廃するとともに、紹介予定派遣の派遣可能期間を延長し需給調整機能を強化すべきである。また、モノづくりの実態において法解釈が過度に事業活動を制約している点、また、法解釈に予測可能性が乏しい点、実態と整合していない点等の指摘があることを踏まえ、法の適正な解釈に適合するよう37号告示および業務取扱要領を改めるべきである。少なくとも、さしあたり37号告示の解釈が明確となるよう措置すべきである。
厚生労働省の考え方】
○ 労働者派遣制度については、労働者からの一定のニーズがある一方、直接雇用を望んでいるもののやむを得ず派遣労働者になる者がいたり、派遣労働者の労働条件が必ずしも職務にふさわしいものではないという指摘もある中で、派遣期間の制限や派遣業務の限定の完全撤廃などの規制緩和を行うことがすべて労働者のためにもなるという主張に同意することはできない。
○ 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示(昭和61年労働省告示第37号)」は、偽装請負を判断するための基準であり、この基準が事業活動を制約している等の事業主側のみの主張を根拠に、当該告示が法の適正な解釈に適合していないとの主張は不適切である。

規制改革会議はなにも「規制緩和を行うことが「すべて」労働者のためにもなる」と言っているわけではないでしょう。それはそれとして、ここでも派遣労働の例外視をやめるべきという規制改革会議と派遣労働は例外であり正社員が原則だという厚労省との立場の違いは明らかで、これまたまさに「当省の基本的な考え方と見解を異にする」点というところでしょう。私はこれに関しては規制改革会議の見解がより妥当(すべて妥当というわけではない)だとは思いますが…。
ということで、規制改革会議(というか、福井氏)の議論には実態を遊離した極論が多々見られ、ついていけないところが多いのですが、かといって厚労省の硬直的な姿勢にも問題がないとはおよそ言えないわけで、今後より建設的な規制改革の議論が進められることを期待したいものです。