素朴な疑問

与党はいよいよ暫定税率のつなぎ法案提出に踏み切るのだそうで、道路特定財源、特にガソリン税暫定税率がこのところにわかに政界のホット・イシューになっています。大雑把にいえば、与党は財政上の理由で暫定税率を維持したいのに対し、野党はガソリン価格の高騰が国民生活に大きく影響しているとみて、暫定税率を廃止してガソリン価格の値下げを実現したいということのようです。私はこの問題にはあまり詳しくはないのですが、この議論にはどうにも違和感があります。
道路特定財源に関する議論は3年くらい前から増えはじめ、その発信源というか主戦場はたしか経済財政諮問会議ではなかったかと思いますが、もともとの議論は「必要性の低い道路をつくるのは無駄遣いではないか」というのが出発点ではなかったかと思います。「道路整備はその必要性を検証した上で行われるべきだ」という正論が一応コンセンサスとなり、そこから「道路整備にしか使えない道路特定財源が存在するため、それをすべて使いきろうとして必要性の低い道路がつくられている」という問題意識が示されたという経緯ではなかったかと思います。

  • その過程では「必要性の低い道路」とはなにか、クルマよりクマの方が多く通る道はさすがに無駄だろうといった議論や、それが政官業の癒着につながっていてけしからんとかいう枝葉がいろいろつきましたが。

で、仮に道路特定財源の一部が不要であるならば、その貴重な財源を膨張する社会保障給付とか、道路以外の予算の財源に転用できるようにしようというのが「道路特定財源一般財源化」の主張であり、それに対して、もともと道路整備のための財源として課税しているのだから、必要がなくなった分は別用途への転用ではなく減税するのが筋ではないか、ということで、とりあえず道路整備の必要が多いということで臨時的に重課税している「暫定税率」は廃止すればいいではないか、社会保障などの財源が必要であれば、それは別途考えるべきではないか、というのが「暫定税率廃止」の主張であったと思います。

  • で、そこに、大事な問題ですが議論としては枝葉の「環境税」が入り込んできたこともありました。ガソリンへの課税を自動車の環境負荷軽減に利用するなら自動車ユーザーの理解も得られるだろうという考え方だったようですが、すでに環境のための予算はたくさんあり、ただそれが経産省国交省の予算で、環境省の予算がないから環境税がほしい、という本音もみえみえなのが、なかなか反対を突き崩せない原因のように思われます。

一般財源化は財源確保としては効率的ですが筋は必ずしも通っているとはいえず負担者の理解が得られにくい、暫定税率廃止は筋は通っているようですが「暫定税率=必要性の低い道路整備」と言える理由があるかという疑問が残る、というところでしょうか。
つまり、この問題を議論するには、まずはこれからの道路整備をどうするのか、についての考え方がスタートになるべきではないでしょうか。ところが、それに対する本格的な議論は今現在はないような感じがします。
一般財源化するにあたって今後の道路整備のビジョンと必要な財源を示すことは当然必要でしょうが、暫定税率廃止にしても同じことのように思います。ガソリン価格が上がってみんな困っているから価格を下げるために減税する、というのもそもそも若干妙な理屈だと思うのですが、少なくともそれをするなら代替財源や支出削減をどうするのかがセットでなければならないはずで、民主党は一応それを説明しているということのようではありますが、今後の道路整備については「なんとなく今と同じくらいは維持できる」という曖昧かつ今ひとつ根拠不明な議論にとどまっているように見えます(私の理解不足かもしれませんが)。

  • 暫定税率を廃止して、その分は道路整備をやめるのだ、それが必要性の低い道路はつくらないということなのだ、と割り切るのであればまだしもわかりやすいのですが、どうやらそこまでの決意もないようで。

道路特定財源維持の主張にしても、開かずの踏切とか環境対策とかあれこれ持ち出しては来るものの、道路整備のビジョンはあまり見えてきません。まあ、こちらは踏切も環境も飾り物で、本音は特定財源を目一杯使って道路をつくってもすべて「必要性の高い道路」だから問題ないのだ、ということなのかもしれませんが。
今後どうなるのかは予断を許しませんが、いずれにしてもこの問題は随所で指摘されているように、本来なら本格的な政策論であるべきところを、単なる政争の具としているような気がしてなりません。野党サイドもさることながら、政策論はさておきとにかく現状どおり道路をつくりつづけたいという与党サイドの一部にも問題はあるでしょう。ただ、租特法改正法案が年度内に成立せずに暫定税率が切れ、遅れて成立してまた元に戻る、ということになると、かなりの混乱が起こることは避けられません。不可逆的に暫定税率を廃止するのであれば、移行期に買い渋りが発生することは致し方ないこととして受け入れるしかないでしょうが、また元に戻るということになると、買い渋り→価格が下がって一気に買いだめ→上がってしばらくは反動、ということで相当の混乱を招きそうです。これはいったん撤収してその後再開した給油活動と同じことで、あれも相当の余計なコストをかけてしまったのではないかと思いますが、同じ愚を繰り返すことは避けるべきでしょう。給油にせよ暫定税率にせよ、国益や国民生活の秩序を大きく損ねかねない問題で、だからこそ与党を追い詰めるのに効果的だという発想もわからないではないですが…。