労務屋ブログ(旧「吐息の日々」) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-01-31 類は友を呼ぶ

…と申し上げたらたいへん失礼でしょうが、私が6回連載で書いてきた「賃金事情」誌の「パースペクティブ」欄の連載を、hamachan先生が引き継がれるとのことです。私の記事はどちらかというと労働政策の実務家向けの解説という感じでしたが、hamachan先生の記事は本格的な政策論で、さすがという感じです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/chinjihaken.html

労働政策・考(5)均衡待遇

というわけで(どういうわけだ?)「賃金事情」2007年12月5日号(No.2532)に掲載された「労働政策・考」の第五回を転載します。

 この5月、第166通常国会でパートタイム労働法改正法案が可決され、これまで指針に示されていた「均衡待遇」が法律に「格上げ」されました。その国会で継続審議になった労働契約法案でも、第168臨時国会で「労働契約は、労働者および使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」との一文を加える修正が行われました。これらの背景には、いわゆる「正規・非正規」の賃金格差の大きさが社会的な問題だと考えられはじめたことがあるのでしょう。とはいえ、仕事の内容が違えば賃金も違うのがまた当然なので、大切なのは「正規・非正規」それぞれの平均を比較することではなく、個別の賃金水準が適切かどうか、ということだろうと思います。

 しかし、なにをもって「適切」と判断するかは、これはこれで非常に難しい問題です。もちろん、「同一価値労働・同一賃金」という考え方は非常に大切で、これはおそらく労使双方が共有する価値観だろうと思います。

 とはいえ、「同一価値労働」と一口に言っても、なにをもって「同一」とするのか、どのように「同一」を測定し判断するのかは、職種によっても、企業によっても異なるでしょう。たとえば外勤の営業職であれば、販売数や販売高が同じなら「同一」だ、という割り切りも可能かもしれませんが、多くの場合は、仕事や役割、能力、成果、あるいはこれらを総合的にみた企業への貢献度など、さまざまな要素が「同一」の判断にかかわってきます。短期的な業績を重視するのか、中長期的に期待される貢献を重視するのかでも違ってくるでしょう。まことに困難な問題ではありますが、一方で従業員の働きに適切に報いることは、その活性化のためには決定的に重要な問題です。だからこそ、各企業は労働組合との団体交渉、あるいは従業員との話し合いを通じて、成果主義を導入したり、コンピテンシーを活用したりして、人事・賃金制度の改革を競ってきたのでしょう(その成果のほどは別問題ですが…)。非正規雇用を重要な戦力としている企業においては、こうした人事・賃金制度に非正規雇用を一体的に取り込んでいく動きも目立っています。こうした先進的な取り組みの拡大が期待されるところです。

 さて、企業内では各企業労使が「同一価値労働・同一賃金」に努力しているわけですが、社会全体ではどうでしょうか。諸外国には、職種によって社会横断的な賃金水準が形成され、所属する企業の業績、あるいは企業の内外にかかわらず、社会全体で「同一価値労働・同一賃金」を実現している例もあります。これは、横断的な職種別労働組合が存在し、国レベルの労働協約で賃金水準を一律に決定することで成立するわけで、「同一」の定義と測定方法を労働協約で決めてしまっているわけです。

 これに対しわが国では、同じような仕事をしていても企業の業績によって賃金は異なるのが当然の慣行として受け入れられてきました。これはおそらく、欧米諸国では企業業績はもっぱら経営者・経営幹部の責任であると考える傾向があると思われるのに対し、わが国では企業業績を現場第一線も含むすべての人の努力の結果だと考える傾向があることの反映ではないでしょうか。わが国では欧米諸国と異なり、現場第一線で働く人にも多額の賞与を支給するという点に、それが端的に表れているように思います。どちらがよいのかは一概にはいえないでしょうが、社下位レベルでの同一価値労働・同一賃金は、わが国では現実的ではないとはいえるでしょう。

 さて、内部労働市場に取り込まれていく前の非典型雇用については、その賃金水準は仕事の難易度や必要とされるスキルの水準などをもとに、基本的には外部労働市場の需給関係で決まっています。不況期などに賃金が低きに失することを防ぐための最低賃金などの規制は必要ですが、それ以上の人為的操作、たとえば内部労働市場との均等待遇や雇用形態の(正社員への)変更などの直接的規制は市場の効率性を損ねる危険が大きく、避けるべきでしょう。表面的な数字だけをみて「低すぎるから問題だ」という「なんとなく」の議論ではなく、なぜ低いのか、どうすれば高くなるのかという議論が必要です。

 非典型雇用の賃金水準を上げていくために必要なのは、こうした直接的規制ではなく、非正規雇用の中でも能力を向上し、キャリアを伸ばし、より付加価値の高い仕事に従事していくことを通じて賃金水準を高めていく取り組みだろうと思います(もちろん、その過程で正社員になることもあるでしょう)。残念ながら、非正規雇用のキャリア展開の道筋は、現時点では必ずしも明らかであるとはいえません。具体的なキャリアパターンを明確化し、その実現のための環境整備や支援を行っていくことが喫緊の課題ではないかと思われます。

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