民間じゃないんでその2

6月13日のエントリのコメント欄が思いがけず盛り上がっていますが、お互いに立場が違えば言い分も異なるわけで、官民の対話というのもなかなか難しいもののようです。
その中でも大活躍の「公務員」さんから私に対して以下のような問いかけがありましたので、ここでご回答申し上げます。

管理人さんへ
 「方針に従わない・従いたくないのなら辞めろ」という言説に対して無批判なのは容認できません。
 三菱自動車雪印乳業ライブドア赤福・吉兆などの一連の「民間」企業の不祥事も、「方針に従わない」従業員を排除した結果なのではありませんか?
 今回の報道にある橋下知事の発言の基となった職員の発言は賃金低下「だけ」についてモノを申したわけではありません。
(以下、単なる言いがかりの部分は割愛)

橋下知事は、なにも法定のリコールを実施するなとか、返品された牛乳をもう一度出荷しろ(でしたっけ?)とか、インサイダー取引やグリーンメイラーをやれとか求めたわけではないでしょう。府の財政を再建するために正規の手続きを経て職員の給与を切り下げるという「私のやり方が合わないなら職をかえて」という言説に対して特段の批判を行う必要性を私は感じません。
また、「職をかえて」と発言することと、現実に解雇するということはまったく別のものです。この程度のことで解雇するのは明らかに労働者保護に欠けますし、労使間のコミュニケーションを阻害するという意味でも感心しませんが、現実には「職をかえて」と言われたところで、不満タラタラ述べながら働き続けることはできるのでしょうから。
橋下知事の発言の基となった職員の発言は賃金低下「だけ」についてモノを申したわけではありません」というご指摘については、私もその場にいたわけではないのでなんとも申し上げられませんが、産経新聞の次の記事が比較的詳しく報じています。

 朝礼は46歳以上の課長補佐級職員が対象で、この日は約140人が出席。男性職員は非公開で行われた意見交換の場で「職場の士気が下がっている。知事を人として尊敬できない。公務員は兼業を禁止されているが、知事はテレビに出演している」と発言した。
 職員はさらに、士気低下の要因として人件費の削減や庁舎の全面禁煙など5点を挙げ、「大阪ミュージアム構想や水都は思いつき」「『選挙で負託を受けた』と言って自らを正当化している」などと橋下知事を批判した。
 これに対し、橋下知事は「一般職員と特別職員は責任の重さが違う」とした上で、公務以外の番組出演は断っていることや、今月中にも受け取った出演料の額を公表する予定があることを説明。職員の発言については「民間では考えられない物言い。ここは団体交渉の場ではない。上司として、その言い方に注意をする。私のやり方が気に入らないなら、職を変えてくれ」と厳しい言葉を投げつけた。
 朝礼は改革の姿勢を職員と共有するため、橋下知事の意向で3月からスタート。1回目の朝礼でも、女性職員が「どれだけサービス残業をしているか知っているのか」と発言し、物議をかもした。
(平成20年6月13日付産経新聞朝刊から)

なるほど賃金低下「だけ」についてモノを申したわけではなさそうですが、尊敬するしないはともかく、とりあえず違法行為を求めたりしているわけでもなさそうです。
給与の引き下げが士気の低下を招くのは当然のことなので、それを回避すべく、この「朝礼」のような場を設けて職員に直接事情や趣旨を説明し、理解と協力を求めるというのは、人事管理の手法としては基本的で理にかなったものといえると思います。そこでは、意見交換、しかも非公開の場なのですから、この職員のように不満を率直に発言するのもそれなりに趣旨にかなったことと申せましょう。ただ、多くの職員が給与引き下げの必要性を理解し、財政再建に協力する姿勢を示している(のかどうか知りませんが、仮にそうだとして)中で、ひとり声高に不平を述べる人がいるとすれば、それに対してはある程度厳しい注意をするのも人事管理的にはもっともなわけで、やはり私として橋下氏の「私のやり方が気に入らないなら、職を変えてくれ」という発言に対して批判の必要は感じません。
なお、記事の最後にあるサービス残業については、橋下氏が求めているわけではないにせよ、その存在を放置することはできないはずで、ここは新知事の指導力が求められるところではないでしょうか。もちろん、府の財政事情から、許容される人件費の総額はおのずと上限があるでしょうから、きちんと労働時間を管理し、割増賃金を正しく計算し支払ったうえで、許される総額の範囲に収まるようにする必要があるでしょう。労働時間管理の適正化を契機に業務の効率化を進めることが大いに期待されるわけですが、それでもなお残業代として支払われる金額が増える分は、基本給を引き下げる必要が出てくることも十分予想されます。今回の給与の改定がそこまで織り込んで考えられているのかどうか、これは報道からはわかりませんが、なかなか興味深いところで、橋下知事の手腕に注目です。