労務屋ブログ(旧「吐息の日々」) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-07-24 保育所軸に抜本改革

きょうの日経新聞「経済教室」に、駒村康平慶大教授の「失敗続きの少子化対策 保育所軸に抜本改革急げ 市場機能、上手に活用 利用者以外の負担視野に」という論考が掲載されています。企業によるワーク・ライフ・バランスへの取り組みを支える社会基盤の再構築、特に保育所の整備が重要との主張が中心となっており、まことに納得できるものがあります。保育所などの社会基盤まで企業にやらせようとの発想にはいかにも無理があり、政策対応が不可欠でしょう。

…すでに、企業はワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を旗印に対応を進めているが、それを支える社会基盤の再構築、特に保育所の整備が重要だ。政府は十年後に三歳児未満の保育サービスの提供割合を現在の二〇%から三八%に増やし、〇―五歳までの認可保育所の利用児童数を百万人増やす野心的な「新待機児童ゼロ作戦」を掲げているが、肝心の財源確保のめどがついていない。

 認可保育所は依然、従来の児童福祉の枠組みの下、「保育に欠ける子ども」を対象に「措置制度」で運営されている。保育制度を、両立を支援し、すべての子どもに良好な育成環境を保障する考え方に切り替え、それに適した新たな仕組みに刷新すべきだ。

 そこで必要になる保育所の量的充実のための財源は、利用者(親)に加え、直接・間接的な受益者となる企業や利用者以外の国民も負担すべきだろう。企業は、両立支援が従業員の確保・離職防止につながるメリットを享受する。両立支援の一つの鍵は保育所にあり、企業も保育所サービスからの受益を受けている。現在、企業が負担している中途半端な児童手当拠出金と雇用保険から出している育児休業給付金を統合・改編し、保育所運営コストと育児休業時の所得保障に投入するワーク・ライフ・バランス拠出金制度に切り替えるべきだ。そこでは、育児休業や柔軟な就業に積極的に対応している企業には、保育所運営コスト負担を軽減するなどの企業間での負担調整も考えるべきだ。

 また、すべての子どもに良好な育成環境を保障すれば、保育所での質の高い養護や教育、親支援は、子どもの健全な発達に寄与する。この意味で、保育サービスは「人的投資」と、将来の健全な国民の育成という「再分配政策・社会政策」という二つの効果を持つ。…良質の保育サービスの保障は外部効果をもつ社会的投資であり、受益者であるすべての国民が、消費税(次世代支援目的税)として担うべきだろう。

(平成20年7月24日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

大筋ではそのとおりだと思うのですが、「従業員の確保・離職防止につながるメリットを享受する」のは企業だけではなく、行政官庁なども同様なのですから、「ワーク・ライフ・バランス拠出金」は民間企業の負担になる「児童手当拠出金と雇用保険」だけではなく、国・自治体などにも応分の負担があってしかるべきでしょう。

…普遍的に良質の保育を保障するには、単純な市場メカニズムに委ねることはできず、公的フレームワークの中で市場メカニズムを活用する「準市場メカニズム」に基づく仕組みが望ましい。この場合の準市場メカニズムとは、価格は公定価格だが、多様な保育サービス事業者が参入し、事業者を親が自由に選択できるものだ。このとき事業者に良質なサービスを安定的に提供させるための、具体的なインセンティブ(誘因)の設計が非常に重要になる。

 類似の「準市場メカニズム」は介護保険で導入されているが、必ずしもうまく機能していない部分もあり、介護保険の問題点を検証しつつ、保育と介護の違いを十分考慮した制度設計が必要になる。

 新しい保育サービスとともに、低所得世帯への対応も不可欠である。すなわち、非正規労働者のカップルでも家族形成・子育てができるよう、就労所得に応じて児童手当を上乗せする給付付き税額控除型の所得保障制度を導入すべきだ。これまで日本の社会政策は高齢者向け支出が多かったが、人口減に伴う国力の衰退を避ける上で次代を担う世代への目配りはより重要になる。基礎的財政収支の回復は堅持しつつ、緊急性が高い少子化・貧困対策の具体像を早急に描くべきだ。

 国民全体に出生率低下への危機感が弱く、子育て支援の財源確保が困難な原因は、少子化が自分たちの生活に具体的にどんな影響を与えるか見えないからである。政府は、出生率低下が個々の社会保障給付に与える影響を具体的かつ率直に国民に示すべきだ。

「就労所得に応じて児童手当を上乗せする給付付き税額控除型の所得保障制度」は米国などで実績をあげており、たしかに考慮に値するものでしょう。いっぽう、「準市場メカニズム」のほうはどうでしょうか。「事業者に良質なサービスを安定的に提供させるための、具体的なインセンティブ(誘因)の設計が非常に重要」なのはそのとおりだと思いますが、それではどのように「具体的な設計」を行うかというと…なかなか難題ではないでしょうか。「低所得者は価格が安く質の低い保育所を、高所得者は価格が高く良質な保育所を選ぶ、というように市場が分離され」るのはたしかに問題かもしれませんが、しかしそれはそれこそ給付付き税額控除のような所得の面からの支援で対応すればいいのであって、やはり公定価格というのはなかなかうまくいかないのではないでしょうか。

そりゃ、そうなるわな

もうひとつ、今朝の日経新聞から。

 人材サービス各社が企業のアルバイト採用支援を相次いで強化する。リクルートは二十八日、短期バイトに特化した求人情報サイトを開設。ディップは求人企業のホームページ制作を請け負うサービスを始めた。違法派遣問題を背景に、産業界では日雇い派遣からアルバイトなど直接雇用への切り替えが進んでおり、特色のあるサービスで需要を取り込む。

 リクルートの新サイト「フロム・エー短期ナビ」に掲載するのは期間が一―三十日以内の短期バイト。「翌日」など急な求人情報を、事前登録者に携帯メールで配信する。

 求人情報サービスを手がけるロケーションバリュー(東京・千代田)と提携。全地球測位システム(GPS)の位置情報を利用し、求人企業の近くにいる登録者だけに携帯メールで情報を配信する仕組みも導入する。新サイトの掲載料金は、応募人数の上限五十人、掲載期間十二週間の場合で三十万円。

 求人サイト「バイトルドットコム」を運営するディップは同サイトで求人広告を掲載する企業向けに、ホームページ制作と管理を請け負うサービスを始めた。サイトでバイトを探す人の多くが応募を検討する企業のホームページを訪ねるため、「ここで働いてみたい」と思わせるホームページを作ることで、応募増につなげる。料金は一社あたり月五万円。

 インテリジェンスは直接雇用への切り替えを進める企業に、求人広告の出し方や競争力のある時給設定などについて助言するサービスを始めた。基本的に企業相談に無料で応じる。

 企業はここ数年、グッドウィル(東京・港)など日雇い派遣業者に人手集めを頼ってきた。ただ港湾運送など認められていない分野への派遣や「二重派遣」が発覚した結果、日雇い派遣市場が急速に縮小している。企業は直接雇用に切り替えることで、違法派遣にかかわるリスクが回避できるものの、求人や面接などの手間がかさむ。このため採用支援サービスの需要が高まっている。

(平成20年7月24日付日本経済新聞朝刊から)

まあ、結局こういうことになるわけですね。で、こうした対応ができない派遣業者は追い詰められると。いずれにしても、日雇派遣を禁止したところで日雇直接雇用に置き換わるだけで雇用が安定するわけではないということは明らかなようです。はたして、利用する企業のコスト負担はどうなるか?これは賃金水準に響いてくるわけですが…。

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