吐息の日々 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-04-06 イカサマ師登場

金曜日のエントリで取り上げた日経ネットPlusの「ちょっと待った領空侵犯」ですが、実はもうお一方コメントされていて、これがまた業界一のイカサマ師(笑)城繁幸氏です。そうか、福井、城ときたか(爆)

それでは見てまいりましょう。

 日本企業は新卒採用と年功序列で硬直し、競争力を落としている。山田昌弘中大教授の提言には総論で賛成だが、「新卒採用の禁止」は職業選択の自由を侵害してしまう。そこで、企業に「採用枠の2割は新卒者以外、特に非正規雇用経験者で埋める」ことを義務付けてはどうだろうか。

 新卒でなくても大企業に入る道が開けば、学生の安全志向も変わる。対象とするのは、年間の採用数が100人を超える大企業だけでもいい。新卒に限定しない採用は、中小・ベンチャー企業なら当たり前の話だ。

http://netplus.nikkei.co.jp/forum/kosaten/t_447/e_1787.phpから、以下同じ)

採用枠の2割は新卒者以外と言われますが、大企業でも今や中途採用比率は2割近い企業が多いのではないでしょうか。城氏が勤務しておられた富士通でも、転職の多い業界でもあり、当時すでにそのくらいはいっていたのではないかと…。実際、東洋経済が主要企業250社に2006年度の採用実績をたずねた調査があって(「新卒採用と中途採用のウェイトについて」企業アンケート)、それをみると、58%の企業で中途比率が20%を上回っています。その上さらに採用数100人以上の大企業に限るとなると、はたしてこの義務づけで増える中途採用はどれほどのものか、おそらく全体に影響が出るような多数にはならないでしょう。

「特に非正規雇用経験者」というのは就職氷河期フリーター対策を考えたのでしょうか。正社員しか経験のない人が中途採用に占める割合がどの程度かはよくわかりませんが、派遣技術者が正社員採用されたり、製造現場の契約社員が正社員登用されたりする例もかなりありますので、効果のほどは疑問かもしれません。

 大企業が新卒にこだわるのは、30歳のフリーターを採用すると22歳の新卒より高い年齢給を払わねばならないためだ。これは「どれだけ責任の重い仕事をするか」で給料を決める職務給制度のコースを作れば解決できる。非正規出身者には再挑戦の機会を与え、給料は仕事次第にすればいい。新卒にこだわなければ、中小企業や外資系企業で経験を積んだ人材の活用も進むだろう。

いまどき年齢給を持っている企業がどれほどあるのか知りませんが、とりあえずこれは30歳のフリーターを採用しない理由ではあっても22歳の新卒にこだわる理由ではないですね。また、現状すでに「30歳フリーター」については事実上の職務給になっているケースが多く、だからこそ「給料は仕事次第」で低いわけですよ。非正規雇用の大半は「この仕事でいくら」の職務給ですからね。で、正社員ならまだ多分に職能給や職務等級給(変な言葉ですが、実態としてはそうなので)で人材投資促進的な賃金制度になっていて、なんとかそちらに移行させたいというのが現状の課題なわけで。その体系に見合った「中小企業や外資系企業で経験を積んだ人材」はすでに中途採用されていて、その割合が2割以上の企業が6割近いわけです。このあたり、支離滅裂ですね。

 最近の学生に大企業志向が強まっているのは、先輩世代を見て「一度非正規になったらはい上がれない」と分かっているからだ。「新卒」という1枚のカードしかない状況を改めれば、キャリアの積み方に選択肢が出てくる。

 私が話を聞いたある男性は、上場企業のグループ会社を入社3年で退職。中小企業で働いて人事のスペシャリストに成長し、米国メーカーの日本法人の人事部長に引き抜かれた。仕事が細切れになる大企業と違い、中小の方が視野が広がり専門性が鍛えられる。

 そもそも大企業に入社すれば安心だろうか。多くの学生は「会社漬けの生き方は嫌だ」と言いながら、「40歳で課長、45歳で部長。マイホームに住み、車はBMW」など父親に似た将来像を描く。そんな人生設計が成立するのは、企業が成長し、年功序列が機能していた間だけだ。ある調査によると、大企業で40歳で課長になれるのは26%にすぎない。その後の抜てきは事実上ないから、7割が一生、平社員で過ごすわけだ。

 大企業も「御社の製品が大好きです」「何でもやります」などという学生はもう求めていない。例えば自腹で社外研修を受け、留学を申請する。自力で伸びていける人材でなくてはダメだ。

もちろん、大企業のほうが安定しているだろうからとか、人材育成やキャリア形成がしっかりしているだろうからといった理由で大企業を志向することはあるでしょう。しかし、「一度非正規になったらはい上がれない」と思っているのであれば、それは大企業指向ではなく正社員指向として現れなければおかしいわけで。「上場企業のグループ会社を入社3年で退職。中小企業で働いて人事のスペシャリストに成長し、米国メーカーの日本法人の人事部長に引き抜かれた」この人も3社とも正社員で、「一度非正規になった」ことはないわけです。正社員であればそれなりの仕事を与えられ、育成もされる。中には転職でうまくキャリアアップする人もいて、それはそれでけっこうな話です。先週書いたようにそれは向き不向きの問題で、うまくいくような方法を選べばいい。そういう意味では、この人はまさに「新卒」という1枚のカードをうまく「正社員」に使えたわけで、別に「状況を改めれば、キャリアの積み方に選択肢が出てくる」ことの実例にはなりません。現状で大事なことは、企業規模より正社員就職することで、中小企業の正社員になったほうが大企業の非正社員になるよりはるかにマシなことが多いわけです。

「大企業で40歳で課長になれるのは26%にすぎない。その後の抜てきは事実上ないから、7割が一生、平社員で過ごすわけだ。」というのもひどい話で、40歳を過ぎて課長クラスに昇進することはごく普通にあります(富士通でもあると思うのですが)。また、大企業製造業の現業部門では班長−職長−作業長といった職制が敷かれていて、課長というとその上の経営幹部、というのが一般的でしょう(富士通の製造現場、たとえば富士通ゼネラルの現業部門も同様だと思うのですが)。職長くらいだともう平社員という感じではありません。まあ、城氏は大卒しか考慮に入っていないのかもしれませんが。

あと、「自力で伸びていける人材」はたしかに好ましいでしょうが、「自腹で社外研修を受け、留学を申請する」というのはどんなものか。もちろんそういう人もいた方がいいでしょうが、そういう人だけでは組織は回っていかないということも事実なわけで、これまた富士通でもそうではないかと思うのですが。

 近年、企業の人事担当者たちの記憶に残っているのは2001年入社の学生たちだ。「自分に何ができるか、何がやりたいか」を訴える意識が強かったと担当者たちは口をそろえる。新卒学生への求人が悪化するなか、安心できるレールなどないという危機感が、学生たちに新たな価値観を芽生えさせた。

 ここ数年の売り手市場でいったん後退したが、景気後退があと2、3年続けば、再び01年入社組のような意識が生まれるかもしれない。規模で選ぶのではなく、やりたい仕事で選ぶ。例えばIT(情報技術)業界の志望なら、大手も社員数人のベンチャーも受ければいい。学生たちには、君たちがやるべきなのは「就社」ではなく「就職」だと改めて伝えたい。

2001年入社の印象は私には特にないのですが、なるほど、城氏の指摘したような変化はたしかにあったのかもしれません。当時はちょうど、厳しい就職戦線に乗っかって、マスコミがしきりに「即戦力」がヘチマとか「エンプロイヤビリティ」が滑った転んだとか言い立てていた時期でしたから。まあ、学生さんたちにも自覚的な価値観の変化はあったかもしれませんが、城氏はいささか買いかぶり過ぎでは。

で、結局最後は山田先生の問題提起とは全然関係のない話になってしまっていて、まあこれは元があまり筋がよくないので城氏にも気の毒な部分はあるのですが、それにしても「就社」ではなく「就職」という手垢のついたスローガンを担ぎ出して終わるというのもなんかパッとしないような。就社も就職も大切だ、適切なバランス感覚でよい就社かつよい就職をめざそう、というのが現在の大勢ではないかと思うのですが、まあこのあたりはいろいろな意見があっていいところかもしれません。

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