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2009-09-02 現場からみた労働政策(4)育児・介護休業法改正案成立

「労基旬報」紙に連載しているコラム「現場からみた労働政策」の第4回です。

http://www.jade.dti.ne.jp/~roki/

もともと育児・介護休業は「家庭と仕事の両立」を意図していたもののはずなのですが、今回の法改正ではかなり「少子化対策」や「男性の育児参加」などに重点がおかれていて、政策目的がなし崩しに変化しているように思われます。もちろん、社会情勢などに応じて政策目的が変わってくること自体はむしろありうべきことと思いますが、労使を交えてきちんと議論したうえで進められているのかどうかに疑問が残ります。

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 先日、育児・介護休業法の改正法案が成立しました。

 おもな改正点としては、まずは1年以上勤続した労働者について、子が3歳に達するまでの短時間勤務制度(1日6時間)の義務化と、所定外労働免除の制度化があげられます。これは、子を持つ母親が望む働き方として、1歳までは育児休業、3歳までは短時間勤務・定時勤務の支持が最も高いことに対応するものです。従来は、子が3歳に達するまでの間は「勤務時間短縮等の措置」、具体的には短時間勤務、所定外労働免除(定時勤務)、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、託児施設の設置運営またはそれに準ずる便宜の供与、法定を超えた育児休業に準ずる制度のいずれかの措置を講ずることが義務づけられていましたが、このうち定時勤務・短時間勤務を導入している企業がそれぞれ2〜3割と少ないことから、この際法律で規定しようということのようです。

 とはいえ、短時間勤務については、たとえば交替制勤務に従事する労働者など事業運営上困難なケースが想定されますので、原則として過半数組合または過半数代表者との協定によって適用除外できることとされています。所定外労働免除については、適用除外できる労働者を厚生労働省令で定めることとされています。

 次に、父親の育児休暇取得を促進するための一連の改正があります。第1に、父母がともに育児休業を取得する場合は、1歳2か月までの間にそれぞれ1年間の育児休業を取得可能とするという「パパ・ママ育休プラス」があります。延長された期間についても、育児休業給付等の支給があります。第2に、父親が出産後8週間以内に育児休業を取得した場合、再度、育児休業を取得可能とするというものです。これは、母体の回復期で父親の休業取得ニーズが高いであろう出産後8週間について「1回限り」の制約を外すことで、安心して休業を取得できるようにするとともに、この時期の休暇取得を「パパ休暇」として促進したいとの趣旨のようです。第3に、配偶者が常態として子を養育することができる場合には労使協定で育児休業の適用除外とできる制度を廃止するとしています。現行法では、妻が専業主婦の場合は夫を育児休業の適用除外にできるわけですが、専業主婦のほうが育児不安が大きいといった現状にも配慮して、これを廃止して男性の育休取得を進めようというものです。

 このほか、子の看護休暇について、現行では小学校就学前の子がいる場合に年5日となっていますが、これを小学校就学前の子が2人以上の場合には年10日に増やすこととされています。また、介護についても、現行の介護休業とは別に、要介護状態にある家族の通院の付き添い等に対応するため、介護のための休暇を年5日、対象者が2人以上であれば年10日設けるとされています。

 また、もう一つ大きな改正が、企業名公表制度の新設です。実は現行の育児・介護休業法には法違反に対する制裁措置がなく、たとえば育児休業を請求したところそれを理由に解雇された、といった法違反に対しても、もっぱらいわゆる行政指導によって是正がはかられています。今回改正法案では、こうした法違反に対する是正勧告に応じない場合には企業名を公表できるとされています。

 さて、今回の改正はどの程度の効果が見込めるのでしょうか。

 まずは短時間勤務制度の義務化と所定外労働免除の制度化ですが、残念ながらその効果は限定的なものと思われます。

 前述したように、たしかに子を持つ母親が望む働き方として、1歳までは育児休業、3歳までは短時間勤務・定時勤務の支持が最も高くなってはいます(ニッセイ基礎研「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」2008年)。ただし、最も高いとはいっても、3歳まででは短時間勤務または定時勤務を支持する人はあわせて約47%で、「育児専念+育児休業+在宅勤務」の合計約49%を下回っています。「短時間勤務+定時勤務」が最多となるのは小学校就学から3年生までで約81%、小学校卒業までが約77%、さらに中学校卒業まででも約56%と過半を超えていいて、3歳までの措置では効果は限られざるを得ないでしょう。とはいえ、小学校卒業まででも11年以上になりますから、仮にそれだけの長期にわたって短時間勤務・定時勤務を可能とするとしたら、対象者のための新たな雇用管理区分を設け、業務内容や労働条件、キャリア開発なども他の従業員とは異なるものとしていく以外に現実的な対応はなさそうです。

 つまるところ、勤務時間面での対応は一定の必要性と効果はあるにせよ、それだけでは限界があるのであり、あわせて早朝や夜間でも利用可能な利便性の高い託児サービスの供給を増やすことが必要不可欠だろうと思われます。ニーズに応じた託児サービスが利用可能ならば勤務時間面での対応は不要という人も多いでしょう。とりわけ、キャリア開発を重視して所定外労働も行いたいと考えている人や、大都市圏で郊外から都心へ長時間かけて通勤している人などにとってはそうなのではないでしょうか。もちろん託児サービスは育児・介護休業法とは直接の関係はなく、それはそれで別途取り組まれているものとは思いますが、一段の推進を期待したいものです。

 もう一つ、今回改正で大いに力の入っている男性の育児休業取得ですが、そもそも育児休業を取得するかどうかは個人の自由な選択であって強制するわけにもいかず、事実上男性のみにあまりに大きなインセンティブを付与するのも均衡を欠くでしょうから、目に見えて効果が上がるような施策を打つのは難しいのが実情でしょう。今回のように、多少のインセンティブを与えつつ、制度的な障害があればそれを取り除き、あとは「パパ・ママ育休プラス」や「パパ休暇」のような広報・啓発活動を通じて意識の向上をはかっていくのが正攻法なのだろうと思います。実態をみると、男性の育児休業は取得率1.56%と、政策目標である10%に較べてかなり低い水準にあります(厚生労働省「雇用均等基本調査」2007年)が、2005年の同種の調査では0.50%でしたので、伸び率は非常に高いともいえます。この流れを確実なものとし、さらに強めていくために、地道な取り組みが求められるところと思います。

 企業名公表は、かなりの効果が期待できるかもしれません。たとえば、従来すでに義務化されている勤務時間短縮等の措置の実施状況をみると、義務化されているにもかかわらず、なんらかの制度のある企業の割合は4割強にとどまっています(厚生労働省「女性雇用管理基本調査」2005年)。こうした現実を改善するには、なんらかの制裁的な手段も必要でしょう。もっとも、あまり安易に多数の企業名を公表することは、似たような実態なのに公表されたりされなかったりで現場に混乱を招いたり、「なんだ、他にも同じような企業がたくさんあるじゃないか」といった受け止めになってかえって逆効果になる恐れもあります。行政には、助言、指導、勧告などに地道に取り組んでいただき、特に悪質なケースは企業名公表に踏み切るといった運用を望みたいと思います。

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