労務屋ブログ(旧「吐息の日々」) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-01-21

[]小島貴子『就渇時代の歩き方』

もうひとつ、「キャリアデザインマガジン」に載せた書評を転載します。こちらはまあ、ハウツー本ではあるんですが。

就渇時代の歩き方―就職“砂漠化”時代に内定をつかむ方法

就渇時代の歩き方―就職“砂漠化”時代に内定をつかむ方法


 厚生労働省の発表によれば、平成21年新卒者の20年11月末/12月初における就職内定率は高卒で68.1%、大卒で73.1%にとどまっている。かなり厳しい状況といえるだろう。これをみて、すでに大学3年生の就職活動=就活の動きが目立ちはじめているという。

 前回の雇用調整期は「就職超氷河期」と呼ばれた。その後、いったんは景気の回復にともない就職状況も好転したが、今回の深刻な不況のなかで、またしても就職をめざす学生には困難が増大している。当事者の不安はまことに大きいだろう。この本の書名は「就活」ならぬ「就渇」となっているが、まさに現代の空気をうまく言い当てているのかもしれない。

 著者は地方自治体と大学で20年近く就職指導に携わり、カリスマ・カウンセラーとして斯界に知らぬ人のない存在である。この本はその著者が豊富な経験と学生・企業の変化に対する鋭い感性とをもとに書き下ろした、学生に向けた就活指南書であり、応援メッセージの書である。

 就活は、それに臨む就活生にとって、多くの場合初めて経験する種類のチャレンジだろう。もちろん、それまでの人生においても、就職するか進学するか、専攻は何を選ぶか、進学先はどこを選ぶか…といったキャリア上の大きな転機はあっただろう。しかし、希望する方向を選択してしまえば、それを実現するための方法に迷うことは少なかっただろう。多くの場合それは「試験」であり、あらかじめ決められた科目の定められた範囲から出題される問題に回答し、その成績順に合格するといった「ゲームのルール」が明らかだったからだ。

 これに対して、就活は「就職」なのか「就社」なのか、どのような職種や企業を選ぶのかということがそもそも難問であるだけでなく、希望する方向を決めた後に、その実現のために何をすればいいのかも必ずしも明確ではない。実際、企業の求める人材は業界、職種、あるいは個別の企業によって多様であり、さらに企業の中でも多様な人材が求められている。当然ながら入学試験のような明確な基準があるわけではない。にもかかわらず、就活の時間は試行錯誤で対処するにはあまりに限られている。ましてやこの厳しい環境だ。就活生が不安にとらわれ、自らを見失いがちになることは避けがたい。

 こうした中で、この本は多くの就活生にとってたいへん頼りになる存在となるに違いない。社会や企業の現状、実態をふまえ、就活のそれぞれのステージにおいて、どのように考えて、具体的になにをすればいいのか、多くの人や企業、場面に共通してあてはまるナレッジをわかりやすく解説している。もちろん、それは「内定」を保障するものではない。しかし、就活生が厳しい環境の中で初めて経験する種類のチャレンジに臨むにあたっての不安を軽減し、それなりの自信と手ごたえをもって進んでいくための心強い指針として受け入れられるには十分な説得力を有しているのではないかと思われる(現実に就活に臨んでいるわけではない評者の判断には大いに限界があるのではあるが)。

 著者は「就職活動を学生の成長として支援する」という考え方を持っているという。なるほど、大学の教員の先生方に聞いても、多くの学生は就活を通じて大きく成長するという。困難なチャレンジが人を育てることは職業においても同じだし、その経験は就職後の仕事にも資するだろう。たしかに、この本を読んでいると、内定を得るにはというダイレクトな観点よりは、学生を成長させる就活とはどのようなものか、という観点が大切にされているという印象が強い。善し悪しは読む人の求めによって簡単には言えないだろうが、そうした種類の就活本を必要とする人も多いに違いない。

 就活時の景気によって就職の困難さが大きく異なることや、企業が選考基準を明確に示しえないことの理不尽を主張する意見も多く、それはそれで大切な問題提起ではあろうが、この本はそれにはほとんど触れていない。その現状肯定ないし無批判に対して不満を感じる読者もいるだろう。しかし、就活に臨む就活生の前にあるのは、理不尽であるなしにかかわらず、唯一の現実しかない。すぐにはいかんともしがたい現実をいったんは受け入れ、その中での適切なアドバイスを送ることが、著者にとっては就活生への愛情なのだろう。愛情のあり方もまた多様である。

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