労務屋ブログ(旧「吐息の日々」) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-04-18

[]現場からみた労働政策(12)育児休業

「労基旬報」第1436号に寄稿したエッセイを転載します。

http://www.jade.dti.ne.jp/~roki/backnumber2010.html


 この6月30日に、改正育児・介護休業法が施行の運びとなり、昨年末には省令・指針なども示されました。さまざまな内容を含んでいますが、主要なものとしては育児期の労働時間の短縮、父親の育児休業取得促進、および実効性確保策の3つがあげられるように思われます。

 その概要をみていきますと、育児期の労働時間短縮については、3歳未満の子を養育する労働者について原則6時間の短時間勤務制度を導入すること、請求があれば所定外労働を免除することが企業に求められます。対象は勤続1年以上の労働者で、短時間勤務制度については1日6時間以下の短時間労働者は対象となりません。また、所定労働日が週2日以下の労働者や、業務の性質や体制上短時間勤務制度の導入が困難な業務については、労使協定によって適用除外できるとされています。従来は短時間勤務制度、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、所定外労働をさせない制度、託児施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与の5つのうちいずれか1つ以上の措置をとることが義務づけられていましたが、今回はそれを大幅に強化したことになります。

 父親の育児休暇取得促進は、今回の法改正の中でもとりわけ特徴的なものといえるでしょう。やはり主なものの概要をみていくと、第一に父母がともに育児休業を取得する場合の取得可能期間の延長があります。この場合、子が1歳2か月に達するまでの間に父母それぞれが1年間の育児休業が取得可能とされました。第二に、現行では子が1歳に達するまでの間に、子1人につき連続した育児休業を1回だけ取得できるとされていますが、これの例外として、父親が出産後8週間以内(母親が産後休業で原則として就業できない期間)に育児休業を取得した場合には、再度の育児休業取得が可能とされました。加えて、従来は配偶者が常態として子を養育することができる場合には労使協定によって育児休業の適用を除外できるとされていましたが、これが除外できないこととなりました。

 実効性確保で注目されるのが、法違反に対する勧告に従わない企業名の公表制度の導入です。従来から法違反に対しては行政指導が行われてきましたが、制裁措置がないため実効性に欠けるとの指摘がありました。改正法施行後は、是正勧告などに応じない場合に企業名を公表できることになります。

 そのほか、看護休暇の拡充、介護休暇の新設、調停制度の導入などさまざまな改正が行われましたが、これら法改正の効果はどの程度期待できるのでしょうか。もともと育児・介護休業法は職業生活と家庭生活との両立に寄与することを目的としていますが、今回の改正にあたっては父親の育児休業取得促進など、少子化対策を意識したものも含まれています。そのよしあしは別として、効果を考えるには仕事と子育ての両立に加えて、少子化対策としての効果も考慮すべきでしょう。

 まず育児期の労働時間短縮ですが、今回義務化された内容は2〜3歳の子を持つ働く母親からの要望が強いものだということです(2008年にニッセイ基礎研が実施した「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」が参照されているようです。)。それに対する実情はというと、前述した現行法の下で企業に義務付けられている措置(5つのうちから1つ以上を選択的に実施)を実施している企業は、2005年に実施された厚生労働省の「女性雇用管理基本調査」によれば4割強にとどまっています。本来なら100%実施されているべきものですから、残念な現実と言わざるを得ません。そして、その中でも勤務時間短縮や所定外労働免除を選択して導入している企業は2〜3割にすぎず、働く母親のニーズとは大きな開きがありました。そこで今回の法制化に至ったということのようです。

 今回の改正では企業名公表制度も導入されましたので、これら制度の導入・普及は進むものと思われます。ただ、それで十分かといえば必ずしもそうではなさそうです。上記ニッセイ基礎研調査によれば、これら制度を要望する労働者は子が3歳まででは47%なのに対して、小学校1年〜3年では81%に達しており、中学校1年〜3年でも56%となっています。こうした要望にこたえるには、今回の法改正はやや力不足の感は否定できません。

 もっとも、それでは子が中学校を卒業するまでこれら制度を義務化すればいいのかといえば、必ずしもそうは言えないと思われます。10年以上の長期間にわたって短時間勤務や所定外労働免除が続くとなると、働く人のキャリアに与える影響もかなり大きなものになりそうですし、企業の人事管理においても通常の労働者とは異なる雇用管理区分を設けて対処する必要があるでしょう。そもそも、わが国では託児所や学童保育などの育児関連サービスのインフラが不十分であることがこうした制度が強く要望される大きな理由であることはとみに指摘されています。逆にいえば、所定外労働時間までカバーするような育児関連サービスがふんだんに提供されれば、それを利用することで通常の労働者と同様に勤務し、キャリアの形成をはかろうとする人も相当数出てくるでしょう。好ましい預け先がないから勤務時間を短縮せざるを得ないという状況が長く続くことは決して望ましいことではなく、こうした法制度を拡大することには慎重であるべきではないかと思われます。

 次に、父親の育児休業取得はどうでしょうか。今回の施策は、父親の育児休業取得に特別なインセンティブを与えるものではなく、むしろ取得しやすいように制度を整備したという印象が強いものです。配偶者が常態として子を養育することができる場合には労使協定によって育児休業の適用を除外できるという規定を廃止したのはその典型で、この制度があると母親がいわゆる専業主婦である場合にはそもそも父親が育児休業を取得できない可能性があるわけですから、父親に取得させたいのであればこの規定を廃止するのは当然といえるかもしれません。

 その他の見直しについても、母親が1年間育児休業を取得した後、なんらかの事情でもう少し休みが必要なので父親が代わって1か月か2か月休む…という状況はたしかにありそうで、そのためには今回の期間延長は役立つでしょう。また、出産後の母体の回復期である産後休業期には父親の休業取得ニーズも高いだろうというのもやはりありそうな話で、その時期に「ここで取得してしまったら将来取得できなくなってしまう」という理由で断念することがないようにという考え方もよくわかるものです。

 いっぽうで、いかに環境を整えても父親の側に取得の意欲が乏しければ利用も進まないでしょう。父親にどれだけの潜在的な取得ニーズがあり、今回の改正でそれがどれだけ実態として現れてくるのか、非常に興味深いものがありますが、これは施行後の現実の推移をみてみないことにはなんともいえません。結果に注目したいところです。ちなみに、行政は父母ともに取得する場合の期間延長を「パパ・ママ育休プラス」、産後休業期の父親の育児休業取得を「パパ休暇」と呼んで普及をはかろうとしているとのことです。いかに父親に休業を取得させたいとは言っても、強制的に取得させるわけにもいかないでしょう。父親が休むことのメリットや効果など、地道な啓発活動を通じて意識の変革をはかるのは正攻法の取り組みと言えそうです。

 なお、企業名公表については、たしかに実効性確保に一定の効果は期待できそうですが、現状をふまえた慎重な運用が望まれます。たとえば現状、上記のように勤務時間短縮措置の導入がはかばかしくないわけですが、そこで一罰百戒的な企業名公表を行うことは、公表された企業が受けるダメージの大きさを考えるとやや均衡を欠くでしょう。助言、指導や勧告などを繰り返しても改善の意志がみられないといった悪質なケースに限って企業名公表に踏み切るのが望ましい手法ではないかと思われます。 

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