吐息の日々 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-08-05

[]労働政策を考える(25)勤務時間インターバル制度

「賃金事情」2605号(2011年4月5日号)に寄稿したエッセイを転載します。


 近年、労働組合による「勤務時間インターバル制度」導入の取り組みが注目されています。2009年の春季労使交渉では情報労連が「可能な組合においてはインターバル規制について労使間論議を行なう」ことを方針に掲げ、全国情報・通信・設備建設労働組合連合会(通建連合)加入組合で12社と、KDDIで導入が実現したと報じられました。2010年には連合も春季生活闘争方針にこれを織り込み、情報労連は「すべての加盟組合で労使間論議」を行うとの方針のもと、さらに通建連合傘下で2社の導入を果たしました。2011年も情報労連は取り組みを継続しているほか、三菱重工労組もこれを要求して話題になっています。本号が発行される頃には回答も出揃い、導入数はさらに増えているかもしれません。

 この制度は、勤務の終了と次の勤務の開始との間に一定時間のインターバルを保障することで休息時間を確保しようというものです。欧州連合諸国ではすでに1993年制定のEU労働時間指令にしたがって「24時間につき連続11時間の休息時間」が必要とされています。この規制は週休日にも適用されるため、週に1回は連続35時間の休息が必要になります。これはただちに1日の拘束時間を13時間に制限するものではありませんが、事実上それに近い規制としても機能しているようです。なお勤務間インターバルですから、始業から就業までの間に設定される休憩時間は当然含まれません(ちなみにEU労働時間指令においては、労働時間が6時間を超える場合に休憩時間の設定を求めており、その水準は各国の国内法などに委ねられています)。

 わが国でも、これまで類似の発想がまったくなかったわけではありません。「長時間労働による過労運転が交通事故の原因となっている」などの指摘のある自動車運転者についてその労働条件の改善のために1989年に定められた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」には休息時間についての基準もあります。そこでは休息時間を「勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、労働者にとって全く自由な時間」と定義した上で「1日の休息期間は継続8時間以上必要」とされています。EUの11時間に較べるとかなり短いですが、こちらではあわせて原則13時間・例外16時間という拘束時間の上限も定められていて、原則の13時間であれば休息は11時間という計算にはなります。他にも休憩時間・仮眠時間を含む1か月の拘束時間の上限を原則293時間とするなどの基準が設定されており、法的な強制力があるわけではありませんが、これに基づく行政指導などが行われています。

 とはいえ、これはかなり狭い範囲の職種に限られたものであり、情報労連などの取り組みはこうした規制を広く拡大しようという試みとして注目されているようです。現在わが国の労働法では労使協定と割増賃金の支払によって時間外労働が可能とされており、その労使協定にあたっては「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」に適合したものとなるようにしなければならないとされていますが、いわゆる特別条項を設けることでそれを上回ることも可能であるなど、あまり実効性のある規制とはなっていません。勤務時間インターバル制度は、こうしたわが国の実情にかなり直接的で実効的な労働時間の上限規制を設けようという点で画期的との評価があり、情報労連自らも「2009春季生活闘争の中間総括」の中で「勤務間インターバル規制は、1日における労働時間の絶対的な上限に関する要求であり、働く人の健康を保持する根源的な意味での労働安全衛生を確保するための要求でもある。通建連合を中心として、この勤務間インターバル規制の導入を実現したことは、今後の労働時間に対する論議に対し一石を投じたともいえ、当該労使の先進的な取り組みに敬意を表したい」と述べています。

 そこで具体的に情報労連傘下の勤務間インターバル制度をみてみると、導入の主役となっている通建連合は「1日における時間外労働の最長時間を7時間以内とする」「時間外労働終了時から翌勤務開始時まで最低でも8時間の休息時間を付与する」「休息時間が勤務時間に食い込んだ場合は勤務したものとみなす」の3条件を満たすものを「インターバル規制」と定義しているようです。3つめは少しわかりにくいですが、前日の勤務終了が遅くなってインターバルを確保すると翌日の始業時刻を過ぎてしまう場合に、その分は有給で勤務免除とする、という趣旨のようです。個別のインターバル時間の設定は、10時間が2社、8時間が10社、残る2社は「必要時間」として「8時間+通勤時間」となっています。ちなみにKDDIのインターバル時間は7時間で通建連合の基準には達しておらず、いっぽうで通建連合傘下には通建連合の基準には満たないもののなんらかの制度を導入している例もあるとのことですから、通建連合傘下の14社にKDDIを足して「15社」とカウントするのは適切ではないかもしれません。

 さて、労使の協議と努力によってこうした画期的な労働条件の改善がはかられることはもちろん非常に好ましいことですが、一部にわが国においても長時間労働抑止・労働者の健康確保のためにEUのように勤務間インターバル規制の法定を主張する意見があることには注意が必要です。

 時間の使い方や働き方に対するニーズは人により、仕事により多様なことは言うまでもありません。ワークライフバランスの観点から勤務間インターバル規制を歓迎する人もいるでしょうし、やる時は一気にやって休むときはしっかり休みたい、仕事が終わったら11時間は働いてはいけないなんて嫌だ、という人もいるでしょう。労働時間の実態や、疲労の回復にどの程度の時間を要するかも、仕事により、人により異なるものと思われます。長時間労働の傾向が指摘され、交替制勤務も少なくない情報産業においては勤務間インターバル規制の必要性について比較的合意が得られやすいでしょうし、夜間の工事も多く、労働安全に力を入れる通建連合からまず成果が出てきたのも頷けるところですが、EUのように一律の規制導入が可能になるほどのコンセンサスはまだできていないのがわが国の実情ではないかと思われます。

 今年は三菱重工労組がこれを要求したように、情報労連の取り組みは他産別に波及する可能性があります。仮に規制を行うにしても、まずは労使による自主的な取り組みを進め、その普及・浸透の程度を見ながら、規制導入にコンセンサスが成立しそうな産業・職種から、順次その実態に即した規制を導入していくというのが手順ではないでしょうか。結果的に限られた範囲にとどまるかもしれませんが、それがわが国の実情に応じたものだと考えるべきでしょう。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110805