労務屋ブログ(旧「吐息の日々」) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-08-22

[]インターンが無償のバイトとは

荒らしは無視で休暇モードに突入して久々の更新です。この間世間ではあれこれ起こっていて世の中に遅れることはなはだしいわけですが、まあ追い追いキャッチアップしていこうかと。

さて本日は切込隊長を引退されたやまもといちろうさんのブログから。8月15日の「インターンを無償のバイトで”使える学生選別の機会”と思ってる馬鹿ベンチャーの経営者ちょっとこい」というエントリです。エントリもさることながらコメント欄がなかなか面白いので備忘的に。

http://kirik.tea-nifty.com/diary/2011/08/post-60a8.html

いつも思うのですがこの山本一郎さんは今をさること十数年前に東京FORTでご一緒していた山本一郎さんなのだろうか。だとしたら偉くなられたものだなあ。いや年齢的に違うかなという気はしているのですが。

さてエントリはといいますと、

 死ね。

 ええと、就職活動が大変なのは、確かに学生の悩みだし、良い会社に入りたいけどその窓口がなかなか開かない、どうしたらいいのかずっと考えている状態であることは間違いないです。でもだな、いかにもなベンチャー企業が、その将来性やブランドを過剰に喧伝して学生を惹きつけ、無料、あるいはバイトにも満たない賃金で結構キツい働かせて、ヘバる学生が出ると「根性が足りない」とか平気でブログやtwitterで書くのは、それブラックなだけだから。

 ベンチャーは深夜労働当たり前、働き倒して当然、だから成長企業なのだとか言ってるベンチャー経営者は、搾取とか傲慢という以前に問題外の駄目な奴認定するほかないです。働きたい学生の、足元を見ているだけ。そんなのインターンじゃないですよ。ブラックリスト作って飯田橋に駆け込みたいぐらいです。

 企業としてのモラルとかそういう綺麗事じゃなくて、一取引先としてもそういうのを見るとやっぱり退きます。せめて、短い期間でも人を働かせて人生を預かるからには、最低限の賃金はしっかり支払って相手と向き合う必要があるんじゃないでしょうかね。

http://kirik.tea-nifty.com/diary/2011/08/post-60a8.html

いきなり「死ね」とか支障のある表現が使われているのは氏のキャラクターというものでしょうが、内容についてはまったくもってごもっともです。

さてこの文中に飯田橋とあるのは中央労働基準監督署のことですね。コメント欄にも「労働基準法的にいかがなものなのでしょう」とありますが、不払いは労基法違反、単価が低すぎるのは最賃法違反であることは申し上げるまでもありません。こうした程度の低い使用者も相当数いるのが悲しい現実であるわけですが、とはいえ本当にブラックリストを作って労基署に持ち込めば解決するかというと、そう楽観できるとも思えません。

このブログでは過去のエントリで労働基準監督行政についてはたびたび辛口のコメントをしているわけですが、そんな私でも認めていることがあり、なにかというと労基署、労働基準監督官のマンパワーが相当程度不足しているという実態があるわけです。先般の事業仕分けの際の資料(http://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/15-2d.pdf)で数字がつかめるのですが、わが国の労働基準監督官は2,941人(明記されていませんがたぶん平成22年)で、雇用者1万人あたり0.53人となっています。この中には監督署長とかの管理職も入っているので、臨検などで実働しているのは高く見積もっても2,000人いないでしょう(私が若い頃出入りしていた労基署は監督官が4人いましたが、うち2人は署長と一課長で実働2人でした)。ILOのガイドラインは雇用者1万人につき1人ですので、まあ半分か実質それ以下です。ちなみに上記資料によるとアメリカは0.28人と日本より低く(まあアメリカは法律も紛争処理もかなり異なるので)、イギリスが0.93人、フランスが0.74人、ドイツが1.89人ということのようです。

こういう手薄な状態のところにブラックリストを持ち込まれても全部を是正することは物理的に無理なわけで、どうしても一罰百戒的な監督にならざるを得ないというのはうなずけるところで、ここは私は現場に同情的です。ときどき悪質な賃金未払いなどで経営者が送検されてニュースになっているのを見ると、ああ頑張っているなあと思うわけで、上記資料によれば平成21年度には1,110件送検したそうです。

ただ、資料ではこれについてこう自賛しているわけですが、

 労働条件の履行確保を図るため、平成21年においては、91,615件について法違反の是正を勧告し、1,110件の司法処理(送検)を実施した。

 また、賃金不払残業(サービス残業)の指導を行い、是正され支払われた未払賃金(1企業当たり100万円以上の割増賃金が支払われた事案)は、平成20年度において約196億円であった。

 このように、労働基準監督業務により、法令違反の是正が図られ、また、重大悪質な事業場に対して司法処分が行われている等、労働者の労働条件の確保に有効であった。

しかしマンパワーが絶対的に不足している中で是正勧告の件数や未払賃金の金額で評価をするとなると、どうしたって少ない労力で金額や人数を稼げる大企業に監督が向かいがちになるのも当然といえましょう。かくして、やまもといちろう氏の指摘するようなブラックのベンチャーは野放しとなるわけです。大企業であれば賃金台帳を見せろといえばすぐに出てきますし、タイムカード(まあ今時の大企業はタイムカードなんか使ってないでしょうが、それに代わるもの)をよこせといえば耳を揃えて持ってくるわけで、きわめて効率的に件数も金額も稼げます(もちろん大企業は目立つので一罰百戒効果もあるでしょうし、子会社への波及が期待できるという見方もあるかもしれません)。いっぽう、ブラックなベンチャーはといえばそれこそ「就業規則なんかありません」「36協定ってなんですか」みたいな例もあるわけで、そこから指導、是正するとなると大変な手間隙で(というかそれ経営者がカネ払って社労士に頼めよと言うのも一理あるわけで)、それでようやく数人のインターンを救済したとしてもまあ微々たるものなわけで。なにせブラック企業ですから中にはコワモテのお兄さんが出てきておととい来やがれと凄まれるなんてこともあるでしょうし(いやだからこそそういう仕事は公務員がやらなければならないわけですが、しかし怖いものは怖いんだし他に仕事がたくさんあって忙しいから近づきたくないというのも情においてはうなずけるわけで)。まあ上記資料をみると監督の半数近くは申告にもとづいて行われているようなので、こう書くほど大企業に偏ってもいなかろうとは思いますが。

ということで、ブラック企業の監督是正を促進するにはまあ実働ベースでILOガイドラインくらいまでは監督官を増員増強する必要があるのではないかと思います(厳罰化してさらに一罰百戒効果を高めるという手もありそうですがあまり筋が良くなさそうな)。加えて、増員された監督官がブラック企業の監督に回るよう、組織や評価尺度の見直しも必要でしょう。極端な話、全国展開、グローバル展開しているような大企業の監督は霞ヶ関に専門の監督組織を置き(地検の特捜部みたいに3ヵ所くらい置くのでもいいかも)、地場のスーパーとか中域に複数の事業場のある中堅企業とかは都道府県の労働局に監督組織をつくり、各地の労働基準監督署は中小規模の企業に特化する、といったしくみにしたほうがいいかもしれません。良くは知らないのですが法人税の税務調査がそんな感じになっていたと思います。

まあこのご時世、公務員を増やすなんて話はなかなか通りにくいだろうとは思いますし、どこか別の役所の公務員を減らして総数ではつじつまを合わせるというのも話したり書いたりする分には簡単ですが現実にはなかなか難しいでしょう(いや国税庁と社保庁を統合すれば軽くそのくらい浮いてくるような気もしますが、それこそ難しいでしょうが…)。もちろんそれが国民の選択だということでしょうし、行政改革そのものの必要性は私も否定はしませんが、しかし監督署の組織や監督官の人数を拡大することはまかりならん、公務員を増やすとはなにごとか、という選択を国民が続けるのであれば、ブラック企業世にはばかるのもある程度は受け入れざるを得ないのではないかと思うわけです。

さてコメント欄が面白いという話のほうに行きますと、たとえば

 欧州のオーストリアに住んでますが(首都がウィーンのほうです)こちらでも、インターンのような雇用形態において、学生などを同じように安く、もしくは無償でこき使った挙句、試用期間が切れれば放出という例が悪質化しているそうです。こちらでは、オフィスでは通常総合職での雇用がほとんどで、事務専門は少ないのですが、その事務ですらない。お茶くみや掃除のようなことばかりさせられ、職業訓練のためのインターンのはずなのに、雑用係で終わってしまう例があとを絶たないそうです。

 ただでさえ若年者の職業難が問題化しているのに、このままでは後継者も育たないし、給与などに関して明らかに労働法違反な例も多いので、日本で言う労働基準監督署のような機関が動き始めているそうです。

(ちなみに、オーストリアの問題は、大方はドイツやスイスでも共通ですが、ドイツでも悪質なインターン搾取問題はあるようです。)

このコメントを信用するならば、まあいずこも同じという感じでしょうか。「労働基準監督署のような機関が動き始めている」分だけマシかなあ。監督官の体制が手厚いドイツでも事情は同じようで…。

あとワタクシ的に面白かったのが

 就職、単純に仕事が無い、という訳でもないと思うが…それでもあらゆる事が効率化されているならば、仕事そのものが減るのは当然ですし、製造業は人件費の安い海外にどんどん移転してるなんて話も聞きます。

 若者は減っていても、定年退職しても働ける方は結構いて、年金だけでは生活が困難となれば、老人でも働きますし。

Posted by: G | 2011.08.16 at 12:26


>若者は減っていても、定年退職しても働ける方は結構いて、年金だけでは生活が困難となれば、老人でも働きますし。

 いや、その老人は今までに金全部使っちまったのかよ?

 バブル時代を謳歌して退職金たっぷりもらって年金もどっさり出てる世代だろ?

 いい加減引退しろ馬鹿野郎、もしくはすぐ死ね!

 っていうのが若者の本音です。

Posted by: kagami | 2011.08.16 at 16:02

このやりとりです。現実には、ここで言われている(一般的にそうかどうかは知らない)「若者の本音」とはうらはらに、厚労省の研究会は「若年は中小企業とマッチングさせるからいいです(私の勝手な意訳)」という報告書を出しているわけですからねえ。その中小企業がインターンに賃金を支払わないようなブラックかもしれないわけですが、いやもちろんまっとうな中小企業も多数あると承知してはおりますが…。


(9月6日追記)hamachan先生から、苦情のコメントをいただいておりました。連絡してくれた方があり、ようやく気付きました。

…いわゆるサービス残業問題で大企業にも監督にはいるようになったのは2000年代以降であって、それまでは、まさに「マンパワーが絶対的に不足している中で是正勧告の件数」を挙げるという目的からすると、人事労務管理がしっかりしている(はずの)大企業は、叩いてもあんまり埃が出てこないこともあり、申告があればもちろん行くわけですが、計画的に監督をかける対象にはなっていなかったというのが実情だったように思われます。

 もちろん、…わが国の労働基準監督官は雇用者1万人あたり0.53人…という実態ですから、なかなか個々のブラック企業に手が回らないのは当然ですが、初めから大企業ばかり狙っているからブラックに行かない、という印象を持たれるとすると、それはちょっと違うのではないかと。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-c9b8.html

私の書き方がまずく、誤解を与えるような表現になっていたことをまずもってお詫び申し上げます。

私としては、「是正勧告の件数や未払賃金の金額で評価をするとなると」と書いているように、2000年以降(実務家には悪名高い例の四・六通達以降)の監督を念頭においておりますし、「監督の半数近くは申告にもとづいて行われているようなので、こう書くほど大企業に偏ってもいなかろう」とも書いたところです。

ただ、四・六通達後の監督は(ちょっと古いですが)以前も書いたように(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20081027)、是正金額や是正件数などの数字を見ても、まずは大企業から監督に行ったなという感はあります。是正1件あたりの対象者が少ない年でも100人超ということは、やはり大企業が相当割合を占めていると考えていいのではないでしょうか。まあ中には従業員数100人で全員がサービス残業してましたなんて例もあることはあるのでしょうが。

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