労務屋ブログ(旧「吐息の日々」) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-09-13

[]「働き方改革」法律案要綱(続き)

さて昨日の続きです。安衛法の次には派遣法が来ているのですがここだけで12ページにわたるというボリュームであり、まことにご苦労のほどがしのばれるわけですがとりあえず後回しにさせていただいて、直接雇用のほうの同一労働同一賃金をみていきましょう。

これは三分科会合同の同一労働同一賃金部会の結論のとおりで、パート労働法を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に改めて、パートだけでなく有期もまとめて面倒見てしまおうという設計になっています。ということで労契法については20条は削除されると明記されているのですが、「その他所要の規定の整備」が具体的に何なのかはよくわかりません。パート労働法改めパート・有期労働法(?)のほうにも「ほか、この法律の規定の対象に有期雇用労働者を追加する」となっていますので、労契法の有期に関する規定(5年ルールとか雇止め法理とか)もこちらに移すのかな。

ということで具体的な文言を見ていきますと、こちらでも「基本理念」として「生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することができる機会が確保され、職業生活の充実が図られるように配慮されるものとすること」が追加されるようで、パート・有期は典型的なフルタイム正社員に較べて生活との調和のニーズが強い傾向があるでしょうから理解はできます。ただ、一義的には事業主の責務ではなく国の配慮義務ということだろうと思うのですが、部会報告を読むと相当程度は事業主にあれこれと求めることが想定されているようですが…。

そこで具体的な同一労働同一賃金についてはどうかというと、基本的にはパート法8条を下敷きにして有期を追加しているわけですが、

四 不合理な待遇の禁止

 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を付与する目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められるを相違を設けてはならないものとすること。

これについては「合理的な理由のない」なのか「不合理な」なのか、という議論がありましたが(ここでも以前書いた)、結局は「不合理と認められる相違を設けてはならない」ということになっています。まあそもそもパート法8条が「通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては…不合理と認められるものであってはならない」だったことを考えれば妥当なところでしょう。

パート法8条と較べてみると、まずパート法では単に「待遇」としていたのをわざわざ「基本給、賞与その他の待遇」と念を押しているのが涙ぐましいところで、「非正規にも賞与」という本音が見え見えで感慨深いものがあります。あと「基本給」というのは年功昇給を意図しているのかな。これは深読みしすぎかもしれません。

「当該待遇の性質及び当該待遇を付与する目的に照らして適切と認められるものを考慮して」と入れ込んだのも気持ちはわかるところで、個別にきちんと検討しなさいということでしょう。現実の労使交渉の現場では「ベアは出せない代わりに手当を積むということでどうか」みたいな話もあるわけでそうそう簡単に割り切れるものでもないよとは思いますが、まあ今後はきちんとしなければならないということでしょう。あまり手足を縛ってほしくはないですが致し方ないのかなあ。

次にパート法9条については、そもそも有期については同様の定めはありませんでしたので、かなり大きな変更といえるでしょう。でまあこれまた現行パート法9条が「賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇」としているのをわざわざ「基本給、賞与その他の待遇」と書き換えているわけで、「なんとしても非正規に賞与」という決意がうかがわれてたいへんに趣深い。さてどうなりますでしょうか。

あとは、やはりパート法にしかなかった福利厚生施設利用の配慮義務が有期も含めて義務化されることや、待遇の内容や相違についての説明義務など、働き方改革実現会議などでも議論された内容が織り込まれています。部会ではガイドラインの根拠規定とか紛争処理の強化なども議論されていたと思うのですが、とりあえず今回法律案要綱には含まれていないようで、このあたりは「その他所要の規定の整備」でくくって政省令でという話なのでしょう。

さて派遣法ですが、まずは派遣にあたり派遣先から派遣元への派遣先の賃金情報の提供を義務付け、それを派遣契約締結に必須とするというのはどうなんでしょうか。もちろん部会報告が言うように「派遣労働者の実際の就業場所は派遣先であり、待遇に関する派遣労働者の納 得感を考慮する上で、派遣先の労働者との均等・均衡は重要」というのはよくわかるのですが、しかし賃金情報ってそう簡単に外に出すものだっけという感は強くあります。もちろん求人票には賃金を書くわけですしすべて一切出さないというものでもないわけですが、一方で「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度…並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者」の賃金情報を提供しろと言われても人事担当者としては途方にくれるしかないことが多いのではないでしょうか。当然ながら幅があるわけで単純に平均でいいだろうという性格のものとも思えず、端的にいませんという例も多いでしょう。

さらに、この情報を元に派遣元が派遣労働者の賃金を改善することができるように派遣先は派遣料金について配慮せよという話まで出てきて、あれだな君たち商売のことをなにも知らないな。派遣元としてみれば数多い派遣先のトータルで利益を出して派遣労働者の待遇改善の原資を捻出すればいい話であり、なにも個別の派遣元・派遣先の相対で清算しなければならないものではないことは明らかでしょう。さらにご商売であれば初来の客にはおためし価格を提供するなどさまざまな価格戦略を考慮するのもまあ普通であり、だから配慮義務にとどめたんだという話かもしれませんがしかしいただけません。

さて不合理な待遇の禁止については部会で議論されたように「通常の労働者との均衡・均等」と「派遣元での労使協定」の選択制という形になっています。でまあ例によって「派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇」となっていて繰り返し泣けるわけですがそれはそれとして、これ自体は海外にも類例がありますし、ありうる設計だろうと思います。均衡・均等についても派遣労働者のベンチマークは直接雇用だと考えれば(前のほうに「「比較対象労働者」とは、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする者に雇用される通常の労働者」との記載があります)、直接雇用の非正規がいれば職務の内容や配置の変更の範囲などが似ていて均衡・均等の比較対象となる可能性はかなりありそうで、パート・有期より使えるものになるかもしれません。

労使協定については、ありていに言えば世間並み以上の賃金、年功的な処遇と教育、派遣元の通常の労働者との均衡が求められています。まあ意図するところは均衡・均等を貫徹しようとすると派遣先が変わることで賃金が変動することになりかねず、特に直接雇用の賃金水準の低い派遣先に行くと賃金が大きく下がることも想定されることから、労使協定方式を選択すれば派遣労働者の処遇においても派遣元の経営においても安定的な推移が期待できるだろうということでしょう。とはいえ、直接雇用の賃金水準が低い派遣先は派遣元への支払能力も高くなかろうとは想定されるところで、あるいはそれで派遣を断念してくれればそれでもかまわないということかもしれませんが、しかしあえて均衡方式を選択して派遣労働者の賃金水準を抑制し、低料金の需要に応えようとする派遣元も出てこないとは限りません。まあそんなビジネスモデルがうまくいくとも思えず、中期的には淘汰されていくだろうとも思いますが、いずれにしても予測は難しいようにも思えます。

あとは処遇についての説明義務や、従来配慮義務となっていた派遣先措置の義務化などが並んでおり、紛争処理についてもしっかり書かれています。一部には行きがけの駄賃的なものもなくはないように感じますが(笑)、まあまずは配慮義務にしておいて追い追い義務化というソフトローの活用はわが国では広く行われているところでもあり、そろそろ義務化の時期という見方もあるのかもしれません。はっきりした根拠をもってやっているのかどうかはわかりませんが。

ということで同一労働同一賃金については依然として元が筋悪なのでどうしようもないという話ではあるのですが、さすがに政労使の専門家が集まって検討が行われただけあって、なんとか実態をそれなりにふまえた、弊害が極力抑制されるような方向にはなったのかなとは思います。関係者には多大なるご苦労があったことが推察されるわけで敬意を表したいと思います。

なお最後に労基法関係で昨日書き落としたことを一つだけ書いておきますが、フレックスタイム制の改善は実務的には非常に大きな話ではなかったかと思います(世間の関心はほとんどないようですが)。具体的にはこれのことで、

3 完全週休二日制の事業場で、労使協定により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数に八時間を乗じて得た時間とする旨を定めたときは、清算期間を平均し一週間当たりの労働時間が当該清算期間における日数を七で除して得た数をもってその時間を除して得た時間を超えない範囲内で労働させることができるものとすること。

一見してわかりにくいですが、これでフレックスタイム制における休日が土曜日・日曜日の8日しかない月の問題が解決されることとなりました。具体的にはどういうことかというと、2014年当時のエントリで紹介したことがありますので再掲します。

…「完全週休2日制の場合における、月の法定労働時間の「枠」の特例」というのが、これが実は実務的には非常に重要で、制度導入当時から指摘されてきた問題です。つまり、…完全週休2日制(1日8時間)のもとで所定労働日数が多いと(22〜23日)、週平均40時間の「枠」に収まらない月がある…わけで、法どおりの運用をしようとするとその月は歴月単位の精算ができなくなります。たとえば8月に土日が8回しかないと、出勤日が23日になるため、精算期間内の平均週当たり所定労働時間が23×8÷(31÷7)≒41.55となり、フレックスタイム制の要件である40時間を上回ってしまうわけです。

 まあ、現実には国民の祝日などの休日があるので通常は滅多に発生しない(実際、今年は該当する月はなく、直近で来年の6月になります)わけですが、しかしないわけではなく、多くの企業では知らんふりして月単位で運用しているこらこらこら、いや本当に知らないままに月単位で運用してしまっていたり、当該月だけは精算期間を4週間にしたりして対応しているものと思われます。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20140428#p1

 注)その後、8月に国民の祝日(山の日)が新設されたため、上記の設例(8月に土日が8回しかない)は現在では該当しなくなっております。

旧日経連の時代からかなり長らく問題提起されていた案件であり、こういう行きがけの駄賃は大いに歓迎したいと思います(笑)。いや本当に、裁量労働よりも高プロよりも人事担当者には歓迎されているのではないでしょうか。