なぜうつ病の人が増えたのか
- 作者: 冨高辰一郎
- 出版社/メーカー: 幻冬舎ルネッサンス
- 発売日: 2010/08/25
- メディア: 新書
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本書はうつ病啓やそれを取り巻く状況における一つの重大な現象について、実証的なデータを踏まえながら提示した一冊である。正直驚かされる情報が非常に多い。
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厚労省による医療機関対象の調査では、1999年を境にうつ病は急増し、1999年から2006年までの6年間でその数は2倍以上に増加した。
うつ病患者はなぜ倍増したのだろうか。景気の悪化や職場のストレスなど、もっともらしい理由を考えることはできるが、うつ病患者数の推移は、景気の動向や自殺者の推移とはあまり一致しない。
実は、ある時期を境にうつ病患者が急増するという現象は、日本だけでなく諸外国でも見られている。諸外国でも同様に、うつ病患者の増加は、景気の動向や自殺者の推移とはあまり関係がないらしい。
つまり、経済状況や社会情勢に関係なく、うつ病の数だけだが、ある時期を境に急に増加するという現象が、各国で見られるというのだ。
そのある時期とはいったい何か。そこに共通する出来事が、抗うつ薬の一種であるSSRIの販売である。
奇妙なことに、SSRIが発売されると、その国でうつ病の患者数および、抗うつ薬の販売量が増加するのだ。著者は、この現象のことをSSRI現象と呼んでいる。
日本の場合は、1999年5月にデプロメールが、翌200年11月にはパキシルが日本で発売された。そしてその結果、抗うつ薬市場は99年から激増している。
諸外国でも同様のことが起きている。イギリスでもSSRIの発売後、抗うつ薬の処方量は8年間で2.5倍になった。スウェーデンやオーストラリア、アメリカ、カナダは、5年で約2倍、アイスランドに至っては11年で5倍である。
つまりSSRIの発売に伴い、うつ病患者の数が増加し、結果としてSSRIの販売量が増えるのだ。それはなぜか、発売に伴い、大規模なうつ病啓発が行われるからである。
それまで精神科は、製薬会社にとって余り魅力的な市場ではなかった。理由は簡単で、薬価が低いからである。しかしながら、SSRIの販売が開始されてから事態は急変する。
従来の三環係抗うつ薬では、例えばアモキサンが一か月2394円であったのに対し、SSRIであるデプロメールはその3倍以上の7902円、パキシルは6倍以上の14466円となる。
これは当然製薬会社にとって魅力的な話だ。結果として様々な形でうつ病の知識普及や受診を促進するための大規模な啓発活動が行われ、日本の抗うつ薬の売り上げは、1999年までは毎年おおよそ170億円程度だったものが、2006年には5倍以上の875億円となった。
つまり、薬の発売が啓発活動を促進させ、結果的に多くの患者を「生み出す」ということだ。たとえば1990年代、アメリカでは躁うつ病のため、従来よりも薬価の高い薬が承認された際は、アメリカの躁うつ病の患者数は、1994年から2003年までの10年間で40倍となった。これは明らかに異常な増加である。
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本書執筆の第一の目的は、著者が感じた「驚きを世間に伝えたかった (p.269)」からだそうである (そういう意味では、帯にある「これはつくられた「病い」だった。」というのは、著者の意図からはやや外れている気がする)。
筆者も明言している通り、うつ病の啓発や薬物療法自体を批判しているわけではない。私も、うつ病についての啓発は重要であると考えるし、薬物療法も大切であると思う。
ただし、つい数年前の発達障害やPTSDのように、ある精神疾患や障害の知識が世間に伝わると、結果としてやや過剰に多くの人が、その疾患や障害とみなされるということは、医療の領域でしばしば生じるジレンマである。
しかしながら、そうした現象が実証的なデータに基づいて検討されるということはあまりなかったように思う。他にも本書では、抗うつ薬を取り巻く製薬会社の事情や、抗うつ薬の効果、うつ病の治療における知見など、様々な話題もあわせて解説されている。
うつ病の治療や支援に携わっている人には是非お勧めの一冊である。著者の思惑通り、何度も驚かされることだろう。
- 作者: 冨高辰一郎
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- 発売日: 2013/05/31
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