それは晴れた日のことそれが最後の日

いつも君は画面の向こう側にいる手に触れたくて私はよく話しかける

物語を読んでいるとき、残りページが少なくなってくると、終わってしまうことが惜しくなり、しおりを挟んで読むことを止めたそのまま最後まで読まなかった本が何冊もある終わってしまうから美しいとわかっているのに、終わりを受け入れることができない

行き交う車が水溜りを弾く音小刻みに雨戸を叩いている雨、雨が降っている昔から夜に眠ることが苦手だった悲観的に絡み付いてくる腕を解こうとして余計、逃れられなくなる

ライオン、リライト

距離にして300メートル。サバンナで向かい合うライオンの存在感は圧倒的だった。 陽炎の向こう側から悠然と歩を進めてくる姿は、動物園で見かけた萎びれたライオンとはまるで別の動物のようで、その自信に満ち溢れた佇まいからは、私という見慣れない生物に…

心はいつも現実とすれ違ったまま潔く全てを断ち切ることもできずに、まだどこかで引き摺っている願い通りのことが起きるんじゃないかって失ってもいつかは元通りになるんじゃないかって都合の良い勝手な解釈ばかりどこかでその訪れを信じている奇跡が起きる…

ブランコに揺られながら、暮れてゆく空を眺めていた色濃く染まった孤独の影を引き連れて、誰かが迎えに来るのを待っていた永遠を待っていた

吹雪は勢いを増してきて、次第に視界が奪われていく赤く腫れ上がった耳には誰の言葉も届かず悴んだ手を暖めることさえ忘れて最後には君以外、みえなくなる

楽しくはないけれど耐えられないこともない概ねそんな感じで構成されているのが世の常でいつも喜んでばかりいるほうが不自然に見えなくもないなんて屁理屈をこねているうちに時間だけが無為に過ぎ去っていきそれを呆然とした面持ちで眺めているのです雨はま…

悲しみに打ちひがれて沈痛な面持ちで喪に服していたはずなのに、夕食の時間が来れば当たり前のように食事を摂ろうとする自分がえらく間抜けだなと思う。こうやって少しずつ生と死の境目が滲んでいく。別段それが悪いことだとは思わない。ここまで悲しめば充…

執拗に繰り返される永劫の別れにそれまで自分を支えてきた信念に近いものが根元からボキッと折れて役立たずと罵られている誰一人として失いたくなかったのに、実際には自分しか残っていない醜く、浅ましく、そして孤独だこんな夜にいったい何を欲しがればい…

殺人現場は静かで居心地がいい誰も無駄なことを喋らないからだカーテンがそよぐ姿を愛でる優しさに溢れているいつもこれぐらいで丁度いい

終末を示唆するような暗い言葉こんな時、世界は想像以上に鮮やかで私は、逃れる術を知らない

灰皿を棄てた本棚を棄てたカーテンを棄てた冷蔵庫を棄てた絨毯を棄てたベッドを棄てた洗濯機を棄てた全てを棄てた夜に、夢を見た浅い眠りの中、やはり声は届かなくて何もかも忘れたつもりだったのにまだ未練があるんだなと思った

社会と上手く折り合いがついていないことは薄々気付いてはいたけれど、目を逸らして逸らし続けて360度ぐるり回ったところで目が合ってしまって、その醜さに耐えられそうもない。

毎日たくさん命を落とす人間がいて今日はボクもその中の一人やっと順番が来たのか出番だぞ叫び出せばいいのか泣き出せばいいのかわからない

期待する癖が抜けない。望んだことはもう何一つ起きないというのに。こうして無為に時間を重ねるうちに、会いたい気持ちも冷めてしまうのかもしれない。罪と罰のバランスを失ったまま、満月の夜を切り取ろうとしても答えには辿り着けない。身を捩り呻き声を…

少し哀しいことがありました。それを誰かに話したいと思うことは、いけないことでしょうか?よくわかりません。最近、わからないことばかりです。それは裏を返せば、何かを考えているということなのかもしれません。けれども、いつかはわからないことを考え…

傘をカラカラと引きずりながら歩く後ろには曲がりくねった一本の線がのたうち回っている薄く頼りがなくなっていく線と反比例するかのように胸の奥で押し殺した感情が膨れ上がっていくこのまま、飛び込んでしまえばいいちっぽけな魂の支えを見失い足取りさえ…

不穏な雲に覆い尽くされた海岸線に一人の男が立っている。時おり襲いくる突風に足元をふらつかせながらも、荒れ狂う波をじっと睨みつけて何事かを考え込んでいるようだった。一歩、二歩、男は前へと足を踏み出す。その一歩がどれだけ遠かったのだろう。温も…

フロアにぽつんと取り残されて、キーボードを叩く音だけが空しく鳴り響いている。孤独感を払拭しようと躍起になって叩き続けていたら、FAXが低い振動で応えてくれた。やあ、ありがとう。向こうの誰かもまだ格闘中らしい。一番乗りで出社をして、一番最後に会…

月の音

灯りを消して、月の光に埋れるように暖かい湯の中へと身体を沈める。 手探りで蛇口を捻り湯を止めると、辺りはしんと張り詰めた静寂に支配された。 耳を澄ますと遠くから微かなエンジンの震えが聴こえてくるだけで、全ての生き物は排されたようだ。 心地良い…

「愛している」と「信じている」はどうして切り離せないのだろう

暖かいシチューを作ろうとして、牛乳でルウをかき混ぜて、適当にじゃがいもと牛肉を放り込んで、隠し味にコーンポタージュの素なんて入れたりしてみたのだけれど、ぜんぜん美味しくないなと思っているうちに鼻水が出てきて、止まらなくなって、なんだかしれ…

こんな自分だってわかってはいたけれど、それでも誰かと一緒にいたかった。こんな自分と一緒にいてくれるはずもないのに。握り締めた手は小さくて、僕を信じさせるには充分だった。

まだシチューが暖かかった頃、カラスの夢は見るの?と心配してくれたことを思い出す。泣き疲れて眠り、嗚咽で目を覚ます。延々その繰り返し。誰かと話がしたい。でも誰にも会いたくない。長い病名と共に処方された錠剤を噛み砕きながら、たった一つのことを…

孤独の月

バスターミナルに設置されたベンチに腰掛けながら、地べたに膝を抱えてうずくまる浮浪者を見下ろしていた。 特に何か目的があったわけではない。すべきことが無いという観点からみれば二人は似たようなものだ。 明確な違いは所持金の有る無しぐらいか。 私の…

観覧車

群青色を頼りにどこまでも昇っていく仮初の高さから見下ろした街はやけに静かで「世界が廻るのはいったい誰の仕業なのだろう」と君は呟いた「さぁ・・・働き者なんだろうね」 意味のない相槌の後、 「でも、僕らを仲間外れにしたのは、僕らに違いない」そう言い…

後姿

痩せた月を見上げても乾いた心は満たされない あっという間に置き去りにされていく今日に明日へ踏み出す意味も見出せないまま もう一度、会って話がしたい ここではない、どこかで君の後姿ばかり思い出して零れる涙

熱海、潮騒にて

隣で寝ている同僚のいびきが煩い仕方なく浜辺を散策することに 自分の家族を持つことは諦めている あまり良い思い出がないからと誰かに責任を擦り付けるのも嫌だし子供が欲しいとも思えない決して口にはするまいと固く結んで 月を探していると また一つ、空…