「ターミネーター4廃墟から」

このスピンオフ小説の著者、ティモシー・ザーンにおそらく選択肢はそう多くなかったのだと思う。タイムパラドックスのような大きなネタをプリクエルの性質上扱うわけにはいかず、単なる地上戦の話にするほかない・・・よねぇ。
それが結果的に、本編以上の濃厚なドラマ性を持つことになったのは、なんとも皮肉というか怪我の功名というか。
長らくスカイネットの魔手に晒されずにすんだ幸運なコミュニティ「モルダリング・ロスト・アッシュズ」が、遂に機械軍団の襲撃を受け、コミューンの住人たちが決死の反撃をする・・・という、単にそれだけの話なのだけど、映画本編のようにあまりプロットを詰め込まなかった分、戦争ドラマとしての濃度と完成度はこっちが上。
かつて「審判の日」を、僻地で演習をしていたため生き延びた元海兵隊員*1
旧時代の権威にしがみつく無能なコミューン指導者。
そのコミューンに身を寄せる、言葉をなくした少女と、その保護者である聡明な少年。*2
コミューンに機械軍団接近の危機を報せるが、むしろコミューン指導者によって敵視される抵抗軍の部隊長。*3
馬鹿なコミューン指導者はコミューンからの脱出を頑なに拒み、コミューンの防衛を担当する元海兵隊員はその決断を愚考と知りながら彼らを見捨てることが出来ず、未来のないコミューンから少女と少年を逃がそうとし、少女と少年はしかしコミューンを守るべく奮闘し、抵抗軍隊長は本隊の援護を受けられぬ状況では撤退を聞き入れぬコミューン自体を囮に使わざるを得ないその戦法に自己嫌悪を覚えつつ、そして、遂にT-600部隊がコミューンに侵攻する・・・
もう、ガチの侵略戦争ドラマです。かつて映画の部分的に描かれた未来戦争の、純粋な拡大版がここにあります。
映画本編では結局描かれなかった人間VS機械軍団の攻防と、その混乱と破壊がもたらす様々なドラマがしっかり描かれていて好印象。「審判の日」後、ということで期待せずにはいられなかったシチュエーションの1つが、確かにここにはあります。
終盤の、ある牧師の行動は、苛烈な決断の上にしか希望を見出せない未来世界の過酷な現実を巧く描いていて、暗澹たる気分におさせてくれます。つまり、ディストピア小説としても正しいのだ。おそらくその悲惨さにおいてT4本編よりも。
な〜んて、堅いことは抜きにして、手製のパイプ爆弾を胸郭部分に突っ込みT-600を見事爆破する少年カイルの勇姿*4に拍手を送ろうではないか!いやもう、正直そのシーンでは鳥肌立ったね!ティモシー・ザーン、ぐっじょぶ!

ターミネーター4 廃墟から (角川文庫)

ターミネーター4 廃墟から (角川文庫)

*1:事実上の主人公

*2:勿論スターとカイルである

*3:勿論ジョン・コナーである

*4:言わずもがな、それは映画T1においてのカイルの決死のアッタクである!燃える!このシチュは燃えすぎる!!