「マーターズ」短評(2回目鑑賞時)

※ネタバレ含みます!自己責任でどうぞ!
得難い体験をしました。久しぶりに懐かしい映画を観たら、昔と感想が変わった・・・というのはよく耳にしますが、1日やそこらでその感想が激変する・・・というのは、初めての経験です。
その掌を返したようなあまりの違いっぷりは、ある種痛快なほどでした。ほんの20時間ほど前に観たばかりだというのに・・・!
『君のマーターズ感想だとまるで後半の展開が超余裕で正視に耐えうるように読める』と指摘してくれたTさんには感謝の言葉もないです。
その指摘で、『あれ?そういやその時の自分、どうやったっけ?』と振り返ってみて、その部分に妙な感情の欠落を自覚しなければ、「マーターズ」を再見することはなかったでしょうから。
 
「マーターズ」短評(初回鑑賞時)
 
↑が、勘違い極まりない初見時の感想。本来なら削除してもいい程なのですが、感想の落差が面白いことになりそうなので、あえて残します。
で、その旧短評の内容を端的に言い表すなら、
『前半は面白いけど、後半は退屈』
なんでこうも短絡したのか考えてみましたが、まずかなりガクブルして物陰に隠れたり一時停止やら早送りやら巻き戻しやら駆使する反則的な見方をしていたのが、1つ。*1
2つ目が、やはり、後半の「おにゃのこが理不尽にひたすらボコられる」のが、耐え難かったんじゃないかな、と。
なまじ予備知識があったせいか、思いっきり一線を引いて観ていた記憶があるんですよ。半ば観ていなかったんじゃないか、と思うくらいに印象が薄い。
なんというか・・・私も結構良識派だったんですねぇ・・・
そこで、「よしじゃあ、もう1回キチンと観てみるか」と2回目鑑賞に踏み切りました。
 
そしたら驚きましたよ。見落としていたこと、見誤ってたコトが多くって。
まず、初見時は前半と後半を乖離したものとして認識していたのですが・・・とんでもない!
後半のアンナが地下室で受ける理不尽な行為をほのめかすサインの、なんと多いことか・・・
そして、アンナのリュシーに対する感情。ラブ。というより・・・ある種病的な独占欲?
初見時は幼いアンナが自傷癖のあるリュシーをよく受け入れられたなぁ・・・と感心していたのです。無償の愛?みたいな。
でも、違うんよね。
リュシーの自傷癖を、アンナはきっと誰にも言ってないんだよね。それを隠すことによって、リュシーを独占していたんだ・・・と、私は思う。*2
アンナの妙に手馴れた縫合や*3、鉄オムツさんを救急車も呼ばずにあくまで自分の手で処置するとこなどに、それは表れてないかなぁ。
もしかしたらアンナは、15年経った今でもリュシーを捉え「独占」し続ける、かつてリュシーを監禁・虐待した何者かに、嫉妬や羨望の様なものを抱いていたんじゃないかな。勿論、無意識的に・・・。*4
そして、救えなかったリュシーの身代わりになったのが鉄オムツさん。その凄まじい自傷痕に、アンナがリュシーを連想し、投影しなかったわけがない。
そして結局、リュシーに続き鉄オムツさんも救えず、それが彼女に強烈な「贖罪」の意識を抱かせ、やがて彼女に、いもしないリュシーの囁き『受け入れたら?』を聞かせ、最終的に「殉教」へと導いたのじゃないかな・・・と。
 
なに勝手に妄想たくましくしてんのwwwと言われそうな気もします^^;
まぁでも、そう感じちゃったのですよ。
さて、後半の「監禁されたアンナが男にボコボコにされゲロみたいな流動食無理やり食わされゴシゴシ洗われボコボコにされ・・・が淡々と繰り返され」る展開ですが・・・ここもね。見直してみるとね、実に周到に計算された演出がなされていることに驚きました。
前半の「動」から一転して「静」のキャメラは否応なく我々に凝視を強いる。
かと思えば、局所的に激しく、そして時に意図的にアンナの貌を我々から「隠す」アングルなど・・・
先の短評で「もしイーライ・ロスならもうちょいエンタテインメントに」云々書いてますが・・・これイーライ兄貴が読んだらバットで撲殺されちゃいますね、私。
ここで脱出を匂わすサスペンス要素やアクションなんかを盛り込んだら、前半での数々の「仕込み」がブチ壊しじゃないですか!
エンタテインメントでなく、フェティッシュな要素もなく、勿論エロティックでもいけないんですよ。
ただ淡々とアンナの尊厳と意志が奪われて「支配」され「独占」されていく・・・それイコール、アンナのリュシーに対する執着と欲望の全否定なわけだから。
これ以上、的確な演出方は多分ないでしょう。
先のエンタメ云々の勘違い感想は、いかに私がこのシークエンスに予防線を張り、忌避したかったかの証明に他ならないわけです。
いやだってマジで微かな光明どころか一片の救いもない陰惨な食事⇒暴行⇒スポンジごしごしが、エンドレスなんじゃね?というくらい繰り返されますから・・・
実際エンドレスでもなんでもないんですが、そう感じさせてしまう演出、アンナの徐々に人相が変わっていく痛々しいメイク、演じるモルジャーナ・アラウィの「マジでボコボコにされてんじゃね?」と疑ってしまうような演技が、そう感じさせてくれます。
ある意味、まんまとパスカル・ロジェの術中に落ちていたのかもしれません。
 
それにしても、世の中には本作を単なる「トーチャー・ポルノ」と断ぜず、初見できちんと評価している人がかなりいるわけで、素直に凄いなぁ、と思います。
そして自分はまだまだだなぁ、と。もういい歳なんですが(笑)感性や洞察力って年齢じゃないなぁ、とつくづく。
ブログ・ランキングやブログ村なんかに登録してなくて良かった、と今回ばかりは心底思いました。映画感想ブログとして胸張ってたら、今回の勘違い投稿は致命傷になりかねませんでしたよw
これから、折を見て先人による「マーターズ」感想を漁りたいと思います。きっといろんな解釈があるんだろうなぁ・・・
私の今回の感想も、「あれ?いやんまた勘違いシテター!」となる可能性もありますからね。どーも、1つの発想に固執する癖があるもので・・・
 
今回は実にありがたい「否」をいただけて、本当に助かったな・・・おかげで「マーターズ」はライブラリ確定作品になったし。
決して胸のすく話じゃないし、後半の展開はやっぱり痛々しくて胸糞悪いのだけど、私が映画に求める全てが揃ってるんです、この映画には。
 
最後、アンナはなんて言ったんだろうなぁ・・・

マーターズ [DVD]

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*1:仲の良い人は知っているかもしれませんが、ホラー映画好きなくせに、私極度の怖がりなんです。ティーンの頃は劇場でホラー映画を観る際、1回目はパンフレットの陰に完全に隠れてショックシーンの箇所を音響で把握。2回目でようやっと画面を観る・・・なんて馬鹿な観方をしてたくらい。(入替え制でない田舎劇場だからこそできた技)

*2:あくまで私の印象です、念のため。これが正しい解釈と主張する気はないです^^;

*3:消毒液や縫合の道具をいつも持っているってことですものね。

*4:アンナがリュシーを虐待したかった、という意味じゃないですよ?