たらおさ
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私の故郷,大分県日田市は大変残念な土地である.
日田市の特異な郷土料理として,真っ先に挙げられるのは,この「たらおさ」ではなかろうか.
これがたらおさ.
これ,どこの洗車ブラシ?
というかこんなものが食べられるのか,と最初は誰でも思うだろう.
父から教えてもらったことだが,実は漫画「美味しんぼ 71巻」が大分県特集になっており,そこで日田の名物としてたらおさが紹介されている.
なんとも不気味な料理である.
実はこれ,鱈のえらとか消化器の干物を戻して煮た料理なのである.
こんな食材が日本にあるのかと,初めて現物を見たときの驚きは今でも覚えている.
「たらおさ」は「鱈胃」と書き,このことからも普通は捨ててしまうような魚の部位を,大変有効に活用して作った料理であることが理解できる.
流石内陸部!
美味しんぼから引用すると,その味は
「甘辛く煮てあって,粘り気があって固い…不思議な歯ごたえだ.」
だそうだ.
大分合同新聞社 おおいた逸品「たらおさ(日田市)〜先人の『胃』に感動〜」
http://www.oita-press.co.jp/oitaippin/taraosa.html
「人間の食べるものではなかったんでしょうが…」とか「歯ブラシ」みたいとか「むかで」みたいとか「上品なお料理ではありません」
この人,「県栄養士会日田支部長」という肩書きを持っているらしいが,この人本当にたらおさを宣伝する気があるのかな.
それはさておき,
干物状態のたらおさを戻すのには,丸二日かかるらしい.高級料理だね.
「たらおさ煮しめ」の作り方が網羅されているので必見である.
このたらおさだが,日田でも何軒か,郷土料理店で食べられるようなので,日田に来た際には是非,食べてみてほしい.あ,ネタとして.
今日,日田の黒潮市場に行くと,お盆が近いからか,山積みになっていたよ!
ほんと,たわしか歯ブラシみたい!
では何故,日田でこんな「(昔は)人間の食べるものではなかった」食材が,ハレの日のおめでたい料理として食べられるようになったのであろうか.
『美味しんぼ』では,
「この地方では,江戸時代からお盆にたらおさを食べる習わしがあったんです.ハレの日のご馳走だったんですね.」とした上で,
「なるほどねぇ.内陸部の山地では,海の魚は手に入りにくいから,乾燥したものでもご馳走だったんだね.」
等と,少々美化して書いているようだが,本質は別のところにあったようだ.
お盆の帰省時などにはたらおさを作る祖母に,たらおさに関する話を聞いてみた.
もともと関西や九州内陸地方,とりわけ日田にだけ,こんな魚の部位が入ってくるようになったのは江戸時代頃であり,どうも,以下のような黒い話が存在するようだ.
「海岸部の人が鱈の美味しい部分(身)を食べてしまい,その余った部分(えらや消化器⇒食べかす)を,何も知らない内陸部の人に売りつけた.
内陸部の人は,めったに手に入らない魚の部位を大変ありがたがっておめでたい日に,それはそれは大切に食べたそうな.」
うーん.
確かにたらおさという郷土料理が存在するのは大変興味深いし,それがお盆の料理として現存する点は凄いと思うが,その過去は複雑そうである.
日田の人に魚嫌いが多い(?)のも少々頷ける気がする.
今でこそ,スーパーに行けば新鮮な魚が店頭に並ぶようにはなったが,昔は海から何日もかかった,内陸部への遠い遠い道のり.
そういう意味でも,日田は最果ての地なのだろう.
由来を考えると確かに残念な土地ではあるが,それでも日田という特異な田舎に生まれたのはちょっと嬉しかった.