「はやぶさ」回収隊参加報告会 特別プラネタリウム 帰ってきた「はやぶさ」/全天周映像 HAYABUSA -BACK TO THE EARTH- 大阪市立科学館

 6月13日午後10時半、パソコンを立ち上げると、なんだかネット上が騒がしい。何が帰ってくるって? はやぶさ? それって何だったっけ…。
 この時点では、そういえば、失敗したとかそういうニュースを見たことがあるようなないような、という認識でしかなかったのですが(今も大して変わってません)、面白そうなことが起こっているなーというミーハー的なノリで、お祭り騒ぎに乗っかって、関連サイトを回り始めました。リアルタイムでは無理でしたが、和歌山大学宇宙教育研究所の帰還ライブ中継での流星と、「はやぶさ」が最期に撮った美しい地球の写真を見て、今、この瞬間に、ひとつの新しい「物語」が完成しつつある、という感覚に興奮したのが、はじまりでした。

 正直、「はやぶさ」が学術的にどれだけの成果を上げたのか、ということはよくわかりません。ですが、「はやぶさという物語」が、人々に繰り返し語られることを通じて、ひとつのストーリーとして洗練され、普段は宇宙を見上げることのない人々を引き付けているということを、とても面白く感じます。
はやぶさという物語」は、数々の困難に負けなかった不屈の精神が感動を呼ぶという側面にスポットが当たっていますが、もうひとつ、これが「行きて帰りし物語」であるということも、強烈な求心力の源であるんじゃないかなーと思うんです。「指輪物語」を引き合いに出すまでもなく、物語の最後で「ただいま」ということが人に与える満足感は、きっと、考えているよりもずっと大きい。
 あと、たぶん他の国なら、このミッションに携わった研究者にもっとスポットが当たると思うのですが、なぜか日本では「はやぶさ」という人工物が人気者になってしまうというのは、不思議だなあ…。

はやぶさ」回収隊参加報告会 特別プラネタリウム 帰ってきた「はやぶさ
 で、「はやぶさ」のカプセル回収隊に参加していた大阪市立科学館学芸員、飯山青海氏の報告会が好評だったそうで、追加公演を行うというので、聞きに行ってきました。
 6月26、27日の開催では、チケットが即完売になったということだったので、9:30販売開始のところ、8:10頃に大阪市立科学館に行ったのですが、もうその時点で30人くらい並んでいました。それから、あれよあれよと列が伸びて、結局9:15に販売開始されたチケットは、9:25くらいに完売。聞いてはいたけれど、「はやぶさ」本当に人気があるんですねー。
チケットを買う列に並んでいる人の読んでいる本をちらちらと盗み見ていたのですが、ライトノベルだったり、海外ファンタジーだったり、司馬遼太郎だったり(私は『緑金書房午睡譚』を持って行っていました)。いかにも天文学ファンという人だけでなくて、若い女性や、家族連れも多かったです。科学館をちびっこが走り回っている、というのはなんだかすごくいい光景でした。
 報告会は、「はやぶさ」とカプセルが再突入する映像を、見るポイントを段階を追って一つずつ説明しながら、繰り返し流してくれたので、すごくわかりやすかったです。
一発勝負の撮影を見事に成し遂げた飯山氏の唯一の心残りは、「はやぶさ」の帰還を肉眼で見ることができなかったことだそうです。見失ってはいけないので、ずっとモニター越しでしか見られなかったんだとか。「次があれば、今度は自分の眼でみたいですね」と仰っていたような気がするのですが、それは「はやぶさ2」のことなのかなあ。
和歌山大学のライブ中継もそうでしたが、飯山氏の映像にも、飯山氏の声が入っていて「おかえり!はやぶさー。おかえり、はやぶさー!」という声が印象に残りましたが、他にもいろいろな音声が入っていて、これは、別のカメラで撮影しているチームの人たちに、今自分がどんな映像を撮っているのかを知らせるためなんだそうです。スポーツの声出しと同じですね。
飯山青海氏が撮影した映像は、ネットで見るものよりもずっと鮮明で、きれいでした。大画面で見られてよかった。朝早くから並んだ甲斐がありました。

全天周映像 HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-
 せっかくなので、13:00からの「はやぶさ」の映画も見ました。すごいリアルな映像で、まるで自分が宇宙空間を飛んでいるみたい。イトカワ着陸の時は、グラグラ回るので、ちょっと気持ちが悪く…(映画が始まる前に、「気分が悪くなった時は、目を閉じて映像を見ないようにしてください」と注意されました)。
 「はやぶさ」がこなしたミッション、乗り越えたトラブルはたくさんありますが、私は「正確無比」と謳われる「地球スウィングバイ」が一番好きです。地球の高度3700kmで、約2mの物体が秒速30kmで誤差1kmの範囲をすり抜けるってどんだけー。ネーミングもカッコいいですよね。こう、遠心力で振り回してぶん投げる、というイメージだったのですが、地球、イトカワはやぶさの軌道を動画で示しながら説明されたので、なんとなくわかったような気になりました。
 ナレーションは、私の好みからするとやや叙情的でしたが、「はやぶさ」とともに遠い旅をしたような気持ちになれるいい映画でした。作成が2009年で、帰還の映像は予想だったので、やっぱり「帰った」映画も続編で作って上映してほしいです。

行きて帰りし物語―キーワードで解く絵本・児童文学 現代萌衛星図鑑 
 はは、こんな本まで買ってしまった…。いや、でもこれすごく読みやすいです。擬人化だけでなくて、ちゃんとした図解も載っていて、「図鑑」の名に恥じない。

四畳半神話大系

四畳半神話大系
(注)アニメ「四畳半神話大系」の最終回を見逃してやや錯乱気味。
 森見登美彦氏のひねくれ者の次男は、あまりにもお兄さんに似すぎてやしないかい、といういわれのある先入観でもって、長らく敬遠していたのですが、アニメの最終回を見逃したショックを紛らわせるために、とうとう親交を温める羽目に陥ったのでした。
うそです。アニメが終わったあかつきには、もとより読むつもりでいたのですが、最終回が…おお、なんということ。まだBSがあるとはいえ、放映まであとひと月以上あるのですよ、ううう。
気を取り直して、読了してみて、「やっぱりアニメの最終回を見てから読めばよかったああああ!」と改めてうちひしがれました。小説では、最終回付近の話が一番面白かったので、先入観なしに見たかった…。
さて、本書は、森見登美彦の名調子のおかげで、楽しくは読めるのですが、同じことの繰り返しなので、だいたい1日に1話読むのがちょうどいいですね。アニメは、その点、週1のペースで、この作品のリズムによく合っていると思います。
森見作品のアニメ化の話を聞いて、なぜ人気のある「夜は短し歩けよ乙女」ではなくて、「四畳半神話大系」? と思ったのですが、作品としての完成度の高い長女より、次男の方が、脚本での再構成のし甲斐があったんだろうなあ。
小説は小説で、アニメでは採用されなかった「仕掛け」が4話目で生きてきて、「こうきたかー」とビックリさせられたので、最終回見逃しの傷心もやや慰められました。

実話怪談集ひとり百物語 夢の中の少女

夢の中の少女―ひとり百物語怪談実話集 (幽BOOKS)
 前回「家族」というテーマでゆるやかにまとまっていたので、今回はちょっとばらばらかな、と思って読み進めていたんですが、だんだん背筋がぞくぞくしてきました。実話怪談集には、短い話が累積することで、「怖さ」も積み重なっていくという側面があるので、読者に続けて読ませるだけの文章力がないといけませんが、作者はそのあたりが達者です。

黒い遭難碑

山の霊異記 黒い遭難碑 (幽ブックス)
 「山岳怪談実話シリーズ」と銘打ってはあるものの、かぎりなく創作に近い筆致で描かれている。この「これは創作っぽい」「実話っぽい」という違いがなんなのかをうまく言葉で表せるだけの思考力と文章力があればなあ。
 創作っぽいと感じるのは、ひとつにはオチがきれいに落ちているというのが挙げられると思います。「ハナシ」としての完成度が高いんですね。その中でも「首なし地蔵」は白眉。幻想小説のアンソロジーなどにまぎれていてもおかしくないです。

杉村顕道怪談全集彩雨亭鬼談

 まず、娘さんによる解説を読んで、作者が大好きになりました。自分の奥さんのことを「美しい婆」だから「ビバ」と呼んで、毎日キスする明治生まれって、なにその萌爺! しかも、医者の家に生まれた剣道五段柔道四段の明治男の書いたもの、と思って身構えて本文を読み始めたら、これがまた、めちゃくちゃ読みやすい文章で、ますます親しみがわきます。
 どの話も、味わい深くて面白かったけれど、なかでも『怪談十五夜』収録の「空家の怪」が素晴らしい。同じ話が、『箱根から来た男』にも「白萩の家」として収録されているけれども、怖さの点では「空家」に軍配が上がります。雑巾がけをしているのが男である方が、意外性とそこから立ち上る物語性があって、いいと思いますね。
 明治生まれの人が書いているだけに、江戸怪談の雰囲気も濃厚で、非常に贅沢な気分になれる一冊でした。復刻してくれた東北の出版社荒蝦夷さんに感謝。

山田野理夫東北怪談全集

 山田野理夫さんの文章って独特だなあ。言ってはなんですが、へたウマな感じ。ときどき、流れに脈絡がなくなるところとか、大事なところをあっさり流しちうそっけなさとかが、あとからじわっと怖さを運んできます。

この落語家をよろしく

この落語家をよろしく――いま聴きたい噺家イラスト&ガイド2010
 勝田文さんが挿絵を描いているし、「ちりとてちん」を見ていて、落語に興味が出て来たので、参考になるか思ったのだけど…関東の落語家さんがほとんどなので、この人の落語聴きたいな、と思っても気軽には行けない罠。しかも、初回から人気落語家のチケットがいかに取りにくいか力説されているので、「見に行こうかな」という気持ちは萎えなえです(笑)。それにしても、チケットの取りにくさと一緒に、いかにその落語家がおもしろいかを熱心に説く著者は、かなりのいけずだと思います。実は京都人なんじゃないんですか。