問い

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なぜ、新幹線から見るネオンはこんなに綺麗に感じるのだろう。普段はただうるさ過ぎる、明る過ぎる、夜の街が綺麗に綺麗に流れていく。車両が静かに左右する、流れる景色は恐ろしいくらい早いのに、ゆっくりゆっくり左右している。


窓の外に浮かぶ暗闇に車内の光が浮かんでいる。ガラス越しの一番近いところにもう一人の自分がいた。肘をついて、窓ガラスに頭を着けて、二つの頭で今日あったことを考えていた。


会社の上司の自分に対する笑顔が最近多くなったなと思った。


今は、頭の回転の速度と、この星の自転とではどちらが早いのだろう。妙に時間が止まって見える時がある。きっと奇妙なくらいその速度が合ってしまった時だろう。


あちこちに散らばる街灯と、高層ビルの無数の窓、高速道路を浮かび上がらせている光。流れる速度が早すぎて、涙目になる。涙の薄い膜が流れ星の尾を作っている。


シンセサイザーの作られた音が似合いそうだと思う。


普段の生活の中で感じることのできる最も速い速度の中で、最もゆっくりな時間を過ごせるこの乗り物はどこに向かっているんだろう。



自分がここにいることの意味は、今全体から自分のいなくなる意味を引くことでもとめることができる。




「人の形をした神様っていると思いますか。」 突然、隣の女性が口にした。


「いると思いますよ。」 と答える。


「ありがとう、私はいないと思います。もっと別の形をした、そう、想像できるあらゆるモノに似ていない形をした神様ならいるとおもうんです。でも、私と違うことを言ってもらいたかったんです。」


「僕は神様こそ人の形をしていないといけないと思うんです。こんな奇妙な生き物を創り出したり、導いたり、迷わしたりしているのが神様の業だとしたら、神様は人の形をしていると思うんです。こんな奇妙な形を思い付くなんて、神様が自分の形を真似て創ったとしか思えません。人も人の形をした人形というモノをよく作るじゃないですか、あれは神様の癖が移ってしまったんじゃないのかって思えるんです。」


「そうかも知れませんね、世の中は人の形をしたウサギとかネコとか、ネズミとがで溢れてますしね。自分と形の似たモノを作るのは神様の癖を受け継いだものかもしれませんね。」


「私は次の駅で降ります、楽しいお話をありがとう、自分と違う考えを持っている人と話をするのっていいものね。」



その女性は荷物を整理しだしたので、また窓の外に目を向けた。


生きていて、自分の生き方に矛盾を見付けてしまうように、今言った自分の考えの反論が頭の中で沸き始める。


気が付くと隣の女性の姿は無い。


自分の意見の訂正のチャンスを一生失ってしまったんだ。 気が付いたときは物事が遅すぎるなんてことはよくあることだ。


この世は、とんでもない質問や疑問や自問や愚問でいっぱいだ。その場その場で答えを出していく。



訂正はありえない。



答え直すことはできないけれど、教訓は残る。


二度と同じ問いの無い面接みたいなものだ。次の人生の問いはどんなものが来るんだろう。


その問いに対する答えは、出した瞬間に別解が生まれるかも知れない。二度と同じ問いは無いし、別解を答える猶予も無いんだから、胸張っていこう、間違えに気付いても、斜め上を見ていこう。



その方が得意気にみえるし。



速い速度の中のゆっくりとした時間の中で、西に西に向かっていた。