サムナー氏による「さっきの手紙のご用事」の解説


TheMoneyIllusion » Reply to Krugman


やー、することないから訳しちゃったぜ。以下拙訳



クルーグマン氏へのお返事


危ないところだった。最初にクルーグマンの返事を読んだとき、彼が非伝統的金融刺激策について述べたことを「覚えミス(こんな言葉あるかな?なんとなくブッシュ語っぽいな)」をしでかしたのかと思った。なので彼の以前の投稿を読んでいくと・・・見つけた。さて、Thomasという人物が私に一発お見舞いしたことをここに記す。彼には感謝しないと。だって間違ったことを言っていたらすぐに訂正しないと、読んだ人が信じても困るし。私がなにを言ってるのかわからない人は、このリンク先のエントリを見てね。このエントリではクルーグマンが私の主張を否定している。彼は非伝統的な金融政策は非常にリスクが高いと言っているのだ。


もちろん「非伝統的金融政策」という言葉は彼の書いた引用部分には出てこない。でも僕の手紙の最初のほうに出てくる。もっと重要なことは、私は例としてインデックス債権や長期国債、外国債などを例として出していることだ。私は、非伝統的金融政策について語っているこのポイントをどうして彼が見落としてしまったのかほんとうにわからないでいる。さて、これが1月のエントリのリンクだ。ここで彼は伝統的金融政策(彼はこれを現金による国債の買い入れと定義している)はもはや効果的ではないと言っており、非伝統的な公開市場での買い付けを提案する意見を紹介している。そして彼はこれはは非常にリスクが高いと言っている。私が彼の言っていることをこうまとめたとしても問題はないだろう。お互い相手の言いたいことを誤解していたかも、というのがもっともありそうな説明だとしてもだ。以下ではなんでこういう誤解が生じたのかを説明してみるつもりだ。ただその前に、クルーグマンが1月に言っていたことのポイントを見ておこう。

アメリカは流動性の罠などには落ち込んでいない!(そして、お前がすべてまちがっておるのだ)」という文章やブログのエントリを僕はずっと見てきている。なぜ流動性の罠などに落ちていないかというと、その著者の「罠」の定義と状況が一致しないかららしい。たとえば、民間が借り入れることのできる負債の金利はゼロになっていないではないかとか、まだFedはやれることがある、たとえば長期国債社債やなんやかやを買うことができるではないか、とか。

えー、僕の流動性の罠の定義は、すっきり&さっぱりだ。流動性の罠とは、公開市場において政府短期国債を購入するという伝統的金融政策が効果を失った状況である。まる。以上。

なに?違う定義のほうがいいだって?わかった。じゃあかわりに現在の状況を「バナナ」と呼んでいいよ。でも名前を変えたって本質的な事実はかわらないよ。伝統的金融政策はすでに効果を失ってるよ。大事なことなので二度言いました。

そう、たしかにFedはほかにもできることがある。実際彼らはなんかすげー規模でなんかやってるしね。でも彼らのやってることはちょっとどうかなって感じだ。だって伝統的金融政策とは違って、潜在的にリスクの高いものを取捨選択して買い込んでるんだよ。これはつまり平時よりもはるかに財政政策を進めるべき強い理由が存在するってことなんだ。なぜならわれわれはどうやれば非伝統的金融政策がうまくいくのか知らないから。


最初の二つの段落は非常にはっきりしている。すでに流動性の罠にはまっているというクルーグマンの意見は、非常に明確な意味を持つ。金利ゼロの現金で利率ゼロの短期国債を買っても効果はないってことだ。しかし彼は長期国債社債について同様の議論をしていないこともまた明らかだ。


第3段落を見てみよう。私は異なった流動性の罠の定義をあの手紙の中で書いたりはしてない。私が主張しているのは、非伝統的金融政策は効果を持つということだ。


あの手紙で、私は「潜在的にリスクの高い資産を取捨選択して買い込」むこと、そして買ったときよりも低い値段でFedが売ることになると思われる資産について述べている。まさに彼が上で言っていることだ。これは私にとっては非常に自然な推測なんだが、クルーグマンは最後の段落で、極端な政策(たとえば数十兆ドル規模で非伝統的資産を買い取るとか)を実行すればインフレを生み出せるということを実は理解していると暗示しているのではないだろうか。でも(クルーグマンの見方では)この政策には、もし間違った資産を選んでしまうと納税者の税金を大量に失ってしまうという問題があるということも。仮に第4段落のこの解釈が間違ってたり、仮に非伝統的資産を買い取らなくても総需要は伸びると思ってたりするのであれば、そのときはそう言ってほしい。でも彼が「われわれはどうやれば非伝統的金融政策がうまくいくかどうか知らない」と言った意味は、おそらくこういう意味ではないと彼は言うんじゃないだろうか。クルーグマンは、われわれが普通株を買ったり、不動産を買ったり、ありとあらゆるものを買えることを知っているし、まともな経済学者なら、Fedが地球上のすべての資産を買ってもインフレは起きないなんて信じてるはずがない。


さて、クルーグマンはこう答えるかもしれない。あの手紙にこういったいかれたアイデアのすべてが書かれていたわけではないのに、どうやって自分はこれらを知りえただろうか、と。私の答えはこうだ。あなたは「真の」流動性の罠と「似非」流動性の罠の間にきっちり線を引いたではないか、短期国債は入るが、長期国債は入らない、「まる。以上」と。これ以上明確な定義はない。もし彼が長期国債やインデックス債権、外国債などを流動性の罠の定義に含めるべきだと思うのであれば、そう言ってほしい。そうであれば、私は代理債権やトリプルA債権をあの手紙に付け加えることにする。ついでに株価インデックスファンドも追加しとこう(あ、アフガニスタンのカブールの不動産をこのリストに追加しなきゃいけないような状況ではないといいけど)。


おそらく、長期国債を追加すべきかという点について理論面で議論はあるだろう。長期国債の数ヶ月先の予想金利がほぼゼロになってしまっているというイールドカーブの「期待仮説」によるものだ。しかしケインジアンは通常こういう物事に対して非常に現実的に振舞うだろうから、長期債権はよりリスクが高いのでイールドカーブは通常右肩上がりになるという「期間仮説」を受け入れてくれるだろうと仮定しても大丈夫だろう(あ、この仮定に根拠はない。ただの直感だ)。しかしたとえ私の仮定が間違っていたとしても、これはクルーグマンが1月のエントリで長期債券についての間違った印象を与える表現をほったらかしにしたミスが原因だ。


そしてもう一つ。あたかもベースマネーと短期国債がまったく同じものだというファイナンス的な観点から金融政策を論じるというのは大きな問題だと思う。その代わり、過度のキャッシュバランスからのアプローチを強調しておく。まず、ベースが800ベーシスポイントから1,600ベーシスポイントに上昇したとして、銀行はどの程度の準備金を合理的に保持しようとするだろうか(特にもしペナルティ利息を貸されていた場合はどうだろうか。私は今でもこの方法がうまくいかないという理由が知りたい)?そして世の中が現金と短期国債を完全な代替物とみなすとも思えない。このほぼゼロ金利の環境下では、現金の保有欲がそこそこ増えるくらいではないだろうか。もしFedが数十兆ドル規模で外国債や他の優良債券を国内で購入したとしよう。みんな増えたお金を財布にいれてまったく使わないなんてことをまじめに信じる人なんていないだろう。


クルーグマンが私の手紙を誤解した一番の理由は、私が超過キャッシュバランスの変化メカニズムという観点から考えていたという点を見逃したからだと思う。インフレ主義者だと私がたたかれる前に、これだけはいわせてほしい。ハイパーインフレを引き起こしかねない膨大な資金供給のことを、私はほんとは望ましくないと思っている。大事なのは、Fedが「必要なことはなんでもする」と言い、この路線で動き出せば、金融市場ではインフレ期待が高まることがわかるだろうということだ。Fedは注意深く監視することが必要だし、ほんの少しでもやばい兆候が出たらすぐにストップしなくてはいけない。完璧にうまくいくことはないだろうし、景気循環の問題で、われわれが将来の目標を決めきれないということも考えられる。しかしこの政策によって現在よりはましになるだろう。


もしクルーグマンがこの返事を読んでくれたら、「サムナーはカブールの土地を買えとFedに言うつもりらしい件」なんてことは書かないでくれるとありがたい。暖かい目で見てくれることを祈る。もしそれでも彼が同意してくれないとしたら。それでもいい。数十兆ドルにのぼる購入可能な比較的安全な負債についてと、超過準備金の制限について真摯な議論ができればそれでいい。


途上国の数千万人の貧しい労働者がまさに職を失いつつある。その理由の一部は(全部ではないよ)、米・欧・日のデフレ基調の政策のせいだ。これは非常に重要なことだ。そしてもっと重要なことは、アメリカはまだまだ裕福なほうだと気づくことだ。クルーグマンを擁護するという意味で、彼は(誰もがインフレを懸念していたころから)深刻な景気後退の脅威を理解していた数少ない人物だったということだ。この会話を続けていければと願う。