小俣龍の「龍の言い分」

2018-05-05 「巨大鉱床」の発見と資源大国ニッポン! [2018年5月5日]

ニッポンは石油などの資源がほとんどない国である。そのため、海外から資源を仕入れて加工し、それを製品として輸出する加工貿易の国になった、ということを昔学校で習った。

このビジネスモデルの確立によって、我が国は一時世界第2位の経済大国に迄上り詰めた。

このビジネスモデルを支えたのは、勤勉で、工夫好きな1億人を超える豊富な人材である。

ところが、21世紀の我が国は少子高齢化時代に突入し、最大の“強み”であった働き盛りの人口は減る一方である。資源がなく、人材が枯渇する我が国は没落の一途を辿るのか?

この悲観的な見方を粉砕するビックリするようなニュースが飛び込んできた。

東京の東南方1800キロにある南鳥島の深海底から驚くべき量の資源が発見されたのだ。

資源は、21世紀の科学・技術、産業を支えるレアメタル(マンガンなど)とレアアースである。

実は、この資源発見の様子を、NHK教育テレビ(Eテレ)の「サイエンスZERO」が独占取材をしていたのだ。この番組は、サイエンスライターの竹内薫と女優南沢奈央がナビゲーターを務めるEテレの人気番組である(写真)。南沢は知性派を代表するタレントであり、ファンも多い。




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サイエンスZEROの南沢奈央と竹内薫(Pinterest HPより)




「独占密着!海底に眠る巨大鉱床!」というタイトルで、資源発見の様子がテレビで放映されたのは昨年1月29日のことであったという。筆者は、この番組を見逃していたため、再放送でその衝撃の内容を知ることが出来た。

「サイエンスZERO」のスタッフは、深海探査船「しんかい6500」の母船である「よこすか」に乗り込み、11名の地盤や海底資源の専門家と3週間の行動を共にして、この快挙に立ちあった。南鳥島は、船で行くだけで4日間を要するという無人の絶海の孤島である。

リーダーの町田氏は、6年前、偶然南鳥島の周辺海域の深海底にマンガンノジューム(塊)の存在を発見している。音波で海底火山の調査をしている時に、金属の塊が異常に密集している箇所を見つけたのだ。今回の南鳥島行きの目的は、深海に潜って、その存在を確認すると同時に、どの程度の資源が埋蔵しているのかを調査することにあった。




マンガンの巨大鉱床の発見




調査は南鳥島の南方250キロ付近の海域で始まった。ここは日本のEEZ(排他的経済水域)内である。調査の主役を担ったのは日本が誇る深海探査船「しんかい6500」である。名前のとおり、6500メートルという超深海まで潜航することが可能という世界でも7隻しかない船の一隻だ。

筆者は「しんかい6500」の実物を見たことがあるが、全長は9.7メートルしかなく、思ったより遥かに小さい船である。三菱重工が製造し、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が所有している。処女航海は1991年であり、2017年に通算1500回という潜航実績を達成している。

この探査船の操縦席は広さが1.2メートルほどしかなく、パイロット2名と研究員1名しか乗ることが出来ない。この時は深さ5500メートルの深海まで潜ったが、そこに達するまでに約2時間を必要とする。母船の「よこすか」では、「しんかい」が撮影する真っ暗な海底の様子を、固唾を飲んで見守っている。その時である。画面にはライトが照らす異様な海底の様子が浮かんできた。

そこには、大きさが10センチほどもあるダンゴのような真っ黒なノジュール(塊)が果てしなく広がる光景が写っていたのである(写真)。まるで、北海道・阿寒湖のマリモが異常繁殖したような様子である。「よこすか」では、「オー!」というどよめきと共に、なんともいえない感動が広がっていった。




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一面に広がるマンガンノジュール(「つれづれ樹」HPより)




「しんかい」はその後4キロメートルほどを航行したが、行けども、行けどもノジュールが存在していたのである。その後2週間を超える調査の結果、南鳥島のEEZ(排他的経済水域)内には、2億トンを超えるマンガンノジュールがあることが分ったのである。

マンガンノジュールは、約20%のマンガンを含むほか、ニッケルやコバルトの存在も確認出来たのである。マンガンの推定埋蔵量は、世界中の需要の数万年分という驚異的なものであった。

ところで、大きさが10センチほどのノジュールが出来るまでには数千万年を要するという。

普通の海底であれば、ノジュールは出来てもすぐ砂などに埋没してしまって大きくなることはないという。この大きさにまで成長することが出来たのは、周囲に大きな海底山脈があるこの海域独特の地形にあったという。この地形が激しい海流を起こし、降り積もる砂などを吹き飛ばしてくれるのだ。一方、この海域には、マンガン以外に、貴重なレアアースが存在していることも判明したのである。




太平洋プレートが運んできた奇跡




「しんかい6500」は、約2週間にわたって海底探査を繰り返したが、マンガンノジュールを採掘するだけなく、EEZ内の海底泥の採掘も行っていたのである。その泥を持ち帰って成分を調べてみると、ジスプロシウム(Dy)などのレアアースが高い純度で含まれていたのである。

レアアースとは、イットリウム(Y)やセリウム(Ce)など、17種類の元素(稀土類)の総称である。

再生可能エネルギーやハイブリッド車、電気自動車など最新のエレクトロニクス技術やレーザーなどの医療技術分野に欠かせない金属であり、「ハイテク産業のビタミン」と呼ばれているという。

また、特殊な軍事用途にも使われることから安全保障の面からも貴重な資源である。一方、現在世界中で必要とされるレアアースの9割以上を中国がほぼ独占的に供給しているという。

その垂涎の的のレアアースが、南鳥島のEEZ内に推定1600万トン超も埋まっているというのだ。

世界需要の数百年分という、とてつもない埋蔵量である。これは、先月10日付の英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表された内容の骨子であるが、正に衝撃的な内容であった。

モーターなどに使うテルビウム(Tb)は世界需要の420年分、液晶ディプレイの発光体に使うユロピウム(Eu)に至っては620年分もあるという(4月11日付毎日新聞より)。

有難いことに、この海域のレアアースには放射性物質がほとんど含まれておらず、採掘、精錬時の最大のリスクがクリアされている。また、特殊な装置でふるいにかけ、レアアース泥を抽出する採掘技術の開発も終えているという。このニュースは世界中を驚かせたことは間違いなない。

南鳥島の周辺海域にこれだけ質のよいレアアースが膨大に埋蔵されているのは、地球の営みの壮大な力が働いている。南鳥島が誕生したのは、今から1億2千年前のタヒチ島の周辺である。

南鳥島は、現在は太平洋プレートの西端に位置しているが、もともとは東端にあったというのだ。

それが、プレートのゆっくりした動きに乗って、現在の位置まで動いてきたのである(写真)。




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南鳥島の誕生以降の移動ルート(「JAMSTEC」HPより)




この移動ルートにはハワイ島周辺などレアアースが高度に集積している海域があることと、レアアースが大量に出来た白亜紀を経験したことが大きいという。

地球の営みが生んだ奇跡である。




ニッポンの資源大国化への課題




21世紀はEV(電気自動車)や自動運転自動車、あるいは、AI(人工知能)等が高度に発達するデジタル革命の時代である。このハイテク全盛の時代の中で、ハイテク製品の製造に必須なレアアースやレアメタルをほぼ無限大に入手可能となる日本の立ち位置は飛躍的に向上する筈である。

ここで思い出すのは、2010年に発生した中国によるレアアースの一方的な輸出禁止措置である。これは、尖閣諸島沖で発生した中国漁船との衝突事件を契機とした発生した中国の“資源外交”であった。この措置によって、日本のメーカーは一時パニック状態に陥ったのである。

この措置は日本がWTOに提訴することによって、最終的に解決することが出来たが、資源が乏しい我が国は、経済、安全保障など色々な面で常に不安定な立場にあるのである。

21世紀の我が国は、豊富なレアアースやレアメタルを武器として、資源大国の中国や理不尽なトランプ大統領の米国、あるいは、石油資源を持つ中東諸国などと対等に対峙していくことが可能となる。我が国は戦後初めて、真に自立した経済と外交を樹立する武器を入手したのである。

一方、大きな課題も残っている。それは、5000メートルを超える超深海に埋まっている資源をいかにして安定的に、かつ安いコストで発掘出来るかという技術的課題である。

海底油田の採掘などでも、現時点では3000メートル程度の深度が限界である。海底油田の採掘技術を応用する超深海資源の採掘技術の開発は我が国にとって喫緊の課題である。

たとえば、「しんかい6500」(写真)のような深海探査船の大型化を図り、ロボット技術を応用した資源採掘ロボットを搭載することによって無人採掘の技術を開発する案などがありそうである。

コマツが実現した無人資源採掘ブルドーザーや巨大無人トラックなどの深海底版である。

政府と民間が一体となって、この巨大プロジェクトを早期に立上げ、強力に推進すべきである。




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しんかい6500(“Next Education”ホームページより)




≪ 結論 ≫




日本の海洋産業は過去30年のうちに壊滅状態になってしまったという。

世界の海洋機器のほぼ半分は、現在では韓国で生産されているという。

海洋資源の開発のためには、日本の海洋産業を再興させる必要がある。

深海探査船が巨大な無人深海ブルドーザーを操作する光景は想像しただけで胸が踊る。