夜香抄

夜香抄 (ノン・ノベル)夜香抄 (ノン・ノベル)
菊地秀行

祥伝社 2008-08-29
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 <魔界都市>の新しい物語です。とはいっても、新たな住人が登場したのではありません。すでに<新宿>ではかなり有名な存在になっている、戸山住宅の長、夜香が主役となっています。
 これまで夜香は<新宿>の住人として、またメフィストやせつらの知人として活躍はしていますが、正直「吸血鬼の長」というほどの存在感があったかといえば、やはり少々弱いといわざるを得ないでしょう。その夜香を主人公に持ってきての新たな<魔界都市>ストーリー、期待を持って読みました。
 読んで思ったのは、確かの新しい<魔界都市>ではある。けれどもここにいる夜香は、今までのわたしたちが知っている夜香とは別人なのではないか、ということでした。確かに登場しているのは「戸山住宅」住民たちの長、吸血鬼夜香です。でも今回、やはり主役をはるにあたって、菊地氏は夜香のイメージを少し軌道修正したのではないでしょうか。というより、より氏の持っている吸血鬼という存在に近付けたといった方がいいのかもしれません。
 わたしがこれまでに夜香に対して持っているイメージは、黒いスーツ姿でした。しかし本書ではどちらかというと黒か黒に限りなく近い紺のマント姿というヴィジュアルが浮かんできたのです。また本書では夜香が4000歳を超える年齢であり、出身は大陸、中国であることも語られています。おそらくこれらは今まで触れられてこなかった事柄ではないでしょうか。
 ともかく、ここに<魔界都市>ならではの吸血鬼ストーリーの幕が上がりました。
 観客である我々は、ゆっくり、期待を込めつつ推移を見守るとしましょう。