ネズミ。

薄日。
最寄り駅から1駅の所に、ドトールがある。1駅とは言っても、乗車時間1分ちょっと、1キロもない。
だから、散歩のつもりで、時折り歩いて行く。普通の人なら、10分もかからないだろうが、私は、ゆっくりだから、12〜3分かかる。ただ、家から駅までが同じくらいかかるので、家からドトールまでは、25分ぐらいとなる。普通の人なら、20分弱だろうが。
今日も夕方、ドトールまで散歩に行った。
1時間ほどいて、煙草を何本か吸い、本を1冊読んだ。歩くのは遅いが、読むのは如何ようにもできる。5分か10分で1冊読むこともできる。適当に飛ばし読みをすればいいのだから。ページを繰るのは、忙しいが。もちろん、ゆっくり読むこともできる。当たり前だが。
秋の陽は、すぐ落ちる。行く時には、まだ明るかったが、帰りは暗くなっていた。
途中、駅の近くの植え込みで、ネズミを見た。
街灯の光の中で、チョロチョロッと動き、すぐ植え込みの中に消えた。ネズミなど久しぶりに見たが、昔見たネズミに較べ、ずいぶん小さなネズミであった。ドブネズミだろうが、その子ネズミかもしれない。
都会地ではないが、下水道などは整備されており、ドブなどというものはない。それに、駅の近くなので、街路樹や植え込みはあるが、周りはみんなコンクリである。都会地と違い、ゴミの残飯なんてものもないし。こんな所で生きていけるのか。いったい何を食ってるんだ。食う物があるのか、と思った。
少し行った所に、この夏、何度かセミを見に行った公園があり、そこには、ドングリなどは落ちているのだが、ネズミの行動半径は、案外短いらしいので、そこへも行けなかろう。たとえ行けたとしても、ドングリを食うのかどうか、知らないが。
ドングリは、うっかりしていると、犬もよく食うが、翌日には、そっくりそのままの形で出てくる。便を調べてみれば、よく解かる。噛まないから、消化しないんだ、きっと。ネズミは、犬に較べたら小さいが、歯は強そうだから、根気よくガリガリ齧るのであろうが、たとえそうでも、ドングリだけじゃ、辛かろう。
それに、この時季、日中はまあ暖かいが、陽が落ちると急に気温が下がる。ネズミも寒いんじゃないかな、とも思う。植え込みの中に何らかの穴でも掘って、その中に潜んでいるのだろうが。
久しぶりにネズミを見たからであろう、そんなことを思いながら歩き、家に帰ったあとも、暫くネズミのことを考えていた。
が、その内、ネズミも寒かろうが、人間もだんだん寒くなって行くんだ、と思った。ネズミも、じゃなく、ネズミより、人間が寒くなっていく季節なんだ、と。上野公園や、浅草の松屋の裏から少し行った隅田川のほとりや、山谷の玉姫公園で、夜を過ごす人たちには、厳しい時季が近づいていることに。
ひと月ほど前、厚労相の長妻は、日本の相対的貧困率を発表した。日本政府として、初めての発表である。
それによると、2006年度の日本の相対的貧困率は、15.7%である。OECD加盟30カ国の中で、メキシコ、アメリカ、トルコに次いで、第4番目。この場合、第4位ということは、下から4番目、酷い方から4番目、ということである。
OECDには、いわゆる先進国ばかりでなく、いわば準先進国も加盟している。その中で、下から4番目に酷い国が、日本なのである。15.7%といえば、国民の6人に1人である。今では、その比率もより上がっているもの、と思われる。上野や、隅田河畔や、玉姫公園で夜を過ごす予備軍が、どんどん増えている状態となっている。
そう言えば、いつか鳩山は、今年は”年越し派遣村”なんてものは、作らないようにする、と言っていたが、難しかろう。現状を知れば、考えれば。
ドトールの帰りに、ネズミのことなど考えながら歩いていた私などには、言う資格はないが。