1865年、アメリカ。

1865年1月のアメリカ、南北戦争は開戦以来4年となり、ほぼ北軍の勝利が見えてきた。共和党初の大統領・エイブラハム・リンカーンは、再選されて3か月。
戦いのシーンがないわけではない。冒頭、文字通りの白兵戦が出てくる。後年、世界中で知られることになる、ゲティスバーグでのあの演説(の言葉)も出てくる。しかし、基本は、政争劇である。ワシントンでの。
奴隷制度を完全に廃止するための合衆国憲法修正第13条を通すための。前年、上院は通過している。しかし、下院での通過は厳しい情勢にある。憲法の修正(改正)には、議員の2/3以上の賛成票(忙しいだろうが、この映画、安倍晋三も観てくれよ。憲法改正、2/3の決議が必要なんだよ。ほとんどの国で)が必要である。
野党の民主党はもちろん反対である。さらに、与党も一枚岩ではない。共和党内にも、奴隷制維持を唱える連中もいる。
ンッ、と思われる方もおられよう。150年前のアメリカの政党、その主張、今と逆なんだ。民主党が保守で、共和党が革新なんだ。念のため。
いぜれにしろ、2/3には20票足りない。
で、リンカーン及びその陣営、今にも及ぶ汚い手も使うんだ。まあ、利益供与。政治の世界、リンカーンといえど、それも方便。奴隷制を廃止するという大きな目標があるのだから。

監督:スティーヴン・スピルバーグ。
スピルバーグ、ドリス・カーンズ・グッドウィン原作の映画化権をいち早く得、トニー・クシュナーの脚本を映像化した。なお、トニー・クシュナーの前には、2人の脚本家の首が切られている。いずれもスピルバーグの意にそぐわずに。

スピルバーグの『リンカーン』、今年のアカデミー賞の主要12部門にノミネートされていた。大本命、と目されていた。作品賞、監督賞、その他。
今年のアカデミー賞の作品賞と監督賞、見応えのある作品が顔を並べた。
スティーヴン・スピルバーグの『リンカーン』、ベン・アフレックの『アルゴ』、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』、デイヴィッド・O・ラッセルの『世界にひとつのプレイブック』、アン・リーの『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』、トム・フーバーの『レ・ミゼラブル』、クエンティン・タランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』、キャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティー』。曲者ぞろいである。
しかし、蓋を開けると、作品賞はベン・アフレックの『アルゴ』が取り、監督賞は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のアン・リーにさらわれた。かろうじて、ダニエル・デイ=ルイスが主演男優賞を取った。いやー、上手い。それ以上に、よく似ている。
そうではあるが、このところ、せっせと映画館にも行っている私、これらのノミネート作、すべて観ているが、その理由、何となく判る。
スピルバーグの作品は、王道を行っている。だから、ハズレがない。面白い。
でも、何かが欠けている。驚きが無いんだ。ベン・アフレックの、アン・リーの、クエンティン・タランティーノの発する驚きが感じられないんだな。
スピルバーグ、練達のハード・パンチャーではあるが、ミラクル・パンチャーではなくなったんだ、おそらく。

リッチモンドの戦場であろう。
リッチモンド、南部のアメリカ連合国の首都である。150年前、激戦が行なわれた。激戦を制した北部、アメリカ合衆国大統領・エイブラハム・リンカーン、死屍累々たるリッチモンドの戦場を見て回る。馬に乗って。
こういう光景、わずか150年前のもの。感慨深いものがある。