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s3731127306の資料室

2012-02-10

槇村浩「間島パルチザンの歌」「京都帝国大学」「獄中にてドイツの同志を思う歌」「獄中のコンミューンの戦士の詩を憶つて」「詩諷 大江鉄麿諷射宣言」「出征」「シュレジェンの織工によせて」 (2012年03月07日一文追加)

追加した一文:テキスト「間島パルチザンの歌」の作成に際しては先駆けて電子テキスト化なさっていたサイト「名詩の森」様のhttp://www.urban.ne.jp/home/festa/makimura.htmを使用させていただいた。感謝の念をここに表する。

間島パルチザンの歌
槇村浩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)落葉《から》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)おめ/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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思ひ出はおれを故郷ヘ運ぶ
白頭の嶺を越え、落葉《から》松の林を越え
蘆の根の黒く凍る沼のかなた
赭ちゃけた地肌に黝《くろ》ずんだ小舎の続くところ
高麗雉子が谷に啼く咸鏡の村よ

雪溶けの小径を踏んで
チゲを負い、枯葉を集めに
姉と登った裏山の楢林よ
山番に追はれて石ころ道を駆け下りるふたりの肩に
背負《しょひ》縄はいかにきびしく食ひ入ったか
ひゞわれたふたりの足に
吹く風はいかに血ごりを凍らせたか

雲は南にちぎれ
熱風は田のくろに流れる
山から山に雨乞いに行く村びとの中に
父のかついだ鍬《くわ》先を凝視《みつ》めながら
眩暈《めま》ひのする空き腹をこらえて
姉と手をつないで越えて行った
あの長い坂路

えぞ柳の煙る書堂の蔭に
胸を病み、都から帰ってきたわかものゝ話は
少年のおれたちにどんなに楽しかったか
わかものは熱するとすぐ咳をした
はげしく咳入りながら
彼はツァールの暗いロシアを語った
クレムリンに燻《くす》ぶった爆弾と
ネヴァ河の霧に流れた血しぶきと
雪を踏んでシベリヤに行く囚人の群れと
そして十月の朝早く
津波のやうに街に雪崩れた民衆のどよめきを
ツァールの黒鷲が引き裂かれ
モスコーの空高く鎌と槌《ハンマー》の赤旗が翻ったその日のことを
話し止んで口笛を吹く彼の横顔には痛々しい紅潮が流れ
血が繻衣《チョゴリ》の袖を真赤に染めた
崔先生と呼ばれたそのわかものは
あのすざましいどよめきが朝鮮を揺るがした春を見ずに
灰色の雪空に希望を投げて故郷の書堂に逝った
だが、自由の国ロシアの話は
いかに深いあこがれと共に、おれの胸に沁み入ったか
おれは北の空に響く素晴らしい建設の轍《わだち》の音を聞き
故国を持たぬおれたちの暗い殖民地の生活を思った

おゝ
蔑すまれ、不具《かたわ》にまで傷づけられた民族の誇りと
声なき無数の苦悩を載せる故国の土地!
そのお前の土を
飢えたお前の子らが
若い屈辱と忿懣《ふんま》をこめて嚥《の》み下《くだ》すとき−
お前の暖い胸から無理強いにもぎ取られたお前の子らが
うなだれ、押し黙って国境を越えて行くとき――
お前の土のどん底から
二千萬の民衆を揺り動かす激憤の溶岩を思え!

おゝ三月一日!
民衆の血潮が胸を搏《う》つおれたちのどのひとりが
無限の憎悪を一瞬にたゝきつけたおれたちのどのひとりが
一九一九年三月一日を忘れようぞ!
その日
「大韓独立萬歳!」の声は全土をゆるがし
踏み躙《にじ》られた××(1)旗に代えて
母国の旗は家々の戸ごとに翻った

胸に迫る熱い涙をもっておれはその日を思い出す!
反抗のどよめきは故郷の村にまで伝はり
自由の歌は咸鏡の嶺々に谺した
おゝ、山から山、谷から谷に溢れ出た虐げられたものらの無数の列よ!
先頭に旗をかざして進む若者と
胸一ぱいに萬歳をはるかの屋根に呼び交はす老人と
眼に涙を浮かべて古い民衆の謡《うた》をうたふ女らと
草の根を噛りながら、腹の底から嬉しさに歓呼の声を振りしぼる少年たち!
赭土《あかつち》の崩れる峠の上で
声を涸《か》らして父母と姉弟が叫びながら、こみ上げてくる熱いもに我知らず流した涙を
おれは決して忘れない!

おゝ、俺たちの自由の歓びはあまりにも短かゝった!
夕暮おれは地平の涯に
煙を揚げて突き進んでくる黒い塊を見た
悪魔のように炬火を投げ、村々を焔の×(2)に浸しながら、喊《かん》声をあげて突貫する日本騎馬隊
を!
だが×(3)け×(4)れる部落の家々も
丘から丘に搾裂する銃弾の音も、おれたちにとって何であらう
おれたちは咸鏡の男と女
搾取者への反抗に歴史を×(5)ったこの故郷の名にかけて
全韓に狼煙を揚げたいくたびかの蜂起に×(6)を滴らせたこの故郷の土にかけて
首うなだれ、おめ/\と陣地を敵に渡せようか

旗を捲き、地に伏す者は誰だ?
部署を捨て、敵の鉄蹄《てってい》に故郷を委せようとするのはどいつだ?
よし、焔がおれたちを包まうと
よし、銃剣を構へた騎馬隊が野獣のやうにおれたちに襲ひ掛からうと
おれたちは高く頭《かしら》を挙げ
昂然と胸を張って
怒濤のやうに嶺をゆるがす萬歳を叫ばう!
おれたちが陣地を棄てず、おれたちの歓声が響くところ
「暴圧の雲光を覆ふ」朝鮮の片隅に
おれたちの故郷は生き
おれたちの民族の血は脈々と搏《う》つ!
おれたちは咸鏡の男と女!

おう血の三月――その日を限りとして
父母と姉におれは永久に訣《わか》れた
砲弾に崩れた砂の中に見失った三人の姿を
白衣を血に染めて野に倒れた村びとの間に
紅松へ逆さに掛った屍の間に
銃剣と騎馬隊に隠れながら
夜も昼もおれは探し歩いた

あはれな故国よ!
お前の上に立ちさまよふ屍臭はあまりにも傷々しい
銃剣に蜂の巣のやうに×(7)き×(8)され、生きながら火中に投げ込まれた男たち!
強×(9)され、×(10)を刳《えぐ》られ、臓腑《ぞうふ》まで引きずり出された女たち!
石ころを手にしたまゝ絞め××(11)れた老人ら!
小さい手に母国の旗を握りしめて俯伏《うつぶ》した子供たち!
おゝ君ら、先がけて解放の戦さに斃《たお》れた一萬五千の同志らの
棺《ひつぎ》にも蔵められず、腐屍を禿鷹の餌食に曝す躯《むくろ》の上を
荒れすさんだ村々の上を
茫々たる杉松の密林に身を潜める火田民《かでんみん》の上を
北鮮の曠野に萠える野の草の薫りを籠めて
吹け! 春風よ!
夜中《よじゅう》、山はぼう/\と燃え
火田を囲む群落《むら》の上を、鳥は群れを乱して散った

おれは夜明けの空に
渦を描いて北に飛ぶ鶴を見た
ツルチュクの林を分け
欝蒼《つそう》たる樹海を越えて
国境へ――
火のやうに紅い雲の波を貫いて、真直ぐに飛んで行くもの!
その故国に帰る白い列に
おれ、十二の少年の胸は躍った
熱し、咳き込みながら崔先生の語った自由の国へ
春風に翼《はね》を搏《う》たせ
歓びの声をはるかに揚げて
いま楽しい旅をゆくもの!
おれは頬を火照し
手をあげて鶴に応《こた》へた
その十三年前の感激をおれは今なま/\しく想い出す

氷塊が河床に砕ける早春豆満江を渡り
国境を越えてはや十三年
苦い闘争と試練の時期を
おれは長白の平で過ごした
気まぐれな「時」はおれをロシアから隔て
厳しい生活の鎖は間島におれを繋いだ
だが、かつてロシアを見ず
生れてロシアの土を踏まなかったことを、おれは決して悔いない
いまおれの棲むは第二のロシア
民族の墻《かき》を撤したソヴェート!
聞け! 銃を手に
深夜結氷を越えた海蘭《ハイラン》の河瀬の音に
密林に夜襲の声を谺した汪清《ワンシン》の樹々のひとつひとつに
×(12)ぬられた苦難と建設の譚(ものがたり)を!

風よ、憤懣《ふんまん》の響きを籠めて白頭から雪崩れてこい!
濤よ、激憤の沫《しぶ》きを揚げて豆満江に迸《ほとばし》れ!
おゝ、××(13)旗を飜す強盗ども!
父母と姉と同志の血を地に灑(そそ)ぎ
故国からおれを追ひ
今剣をかざして間島に迫る××(14)の兵匪!
おゝ、お前らの前におれたちがまた屈従せねばならぬと言ふのか
太て/\しい強盗どもを待遇する途をおれたちが知らぬといふのか

春は音を立てゝ河瀬に流れ
風は木犀の香を伝えてくる
露を帯びた芝草に車座になり
おれたちはいま送られた素晴らしいビラを読み上げる
それは国境を越えて解放のために闘ふ同志の声
撃鉄を前に、悠然と階級の赤旗を揚げるプロレタリアートの叫び
「在満日本××(15)兵士委員会」の檄!

ビラをポケットに
おれたちはまた銃を取って忍んで行こう
雪溶けのせゝらぎはおれたちの進軍を伝へ
見覚えのある合歓《ぬむ》の林は喜んでおれたちを迎へるだろう
やつら! 蒼ざめた執政の蔭に
購《あがな》はれた歓声を揚げるなら揚げるがいゝ
疲れ切った号外売りに
嘘っぱっちの勝利を告げるなら告げさせろ
おれたちは不死身だ!
おれたちはいくたびか敗けはした
銃剣と馬蹄はおれたちを蹴散らしもした
だが
密林に潜んだ十人は百人となって現はなんだか!
十里退却したおれたちは、今度は二十里の前進をせなんだか!
「生くる日の限り解放のために身を献げ
赤旗のもとに喜んで死のう!」
東方××(16)軍」の軍旗に唇を触れ、宣誓したあの言葉をおれが忘れようか
おれたちは間島のパルチザン。身をもってソヴェートを護る鉄の腕。生死を赤旗と共にす
る決死隊
いま長白の嶺を越えて
革命の進軍歌を全世界に響かせる
――海を隔てつわれら腕《かひな》結びゆく
――いざ戦わんいざ、奮い立ていざ
――ああインターナショナルわれらがもの

― 一九三一・三・一三 ―

(1)日章 (2)海 (3)焼 (4)崩 (5)綴 (6)血 (7)突 (8)刺 (9)姦 (10)腹
(11)殺さ (12)血 (13)日章 (14)日本 (15)革命 (16)解放

京都帝国大学(十四行詩)
槇村浩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)高梁《かうりゃう》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)めん/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 十二の仮面のような頭蓋時計。肩を垂れ硬張《こわば》った淫売婦のような白い建物。塀。涸《か》れた
レプラの血行路のように交叉する国道
白い上っ張りと黒服とが朝から晩までこの中え出入りする
彼等はもっとも丁寧に挨拶し、町並の看板のように生真面目である
そして彼等はドルメンの淫売窟《いんばいくつ》えぞろ/″\入って行く
傍の板壁には次の青札が懸っている――健康第一!

彼等は出来るだけずぼらに臓腑のめん/\の仕切りえ腰掛け、それによっては時を誰がほんの少し少なく淫売窟で消費したかを自慢し合い、盗んだ剰余価値をより多く盗まれた
と愚痴《ぐち》をこぼし合うことをジェストとする

秋の雨上り、常春藤《きずた》の網目が青く光っていた日、私はこの構内え入って行った白い上っ張りと黒服との坐るべき畳み寝床のない所には、がらんどうな貧しい標本はぼつねんと並んでいた
私は訪れた友はこゝにいなかった、彼は私の訪ねつゝ″けた間決していたとゆうことはなかったのだ
――252 この方の札はいつでも表返してあるのですよ
私は昆虫を他人の臓腑の中から採取している友の異性の友人たちに挨拶をして黙って出て行った

私は出しなに、投げ込まれた新聞と、学生の言葉の一かけを聞いた
×(1)后がまた梅毒の子供を近い内に生むだろう、梅毒×后が行幸されゝば京都はたゝ″一時的に失業者が職を得るだろう――これが新聞の記事だった!
河上博士は老マルキストとして獄中ます/\健在である、学連の×(3)的活動はさらに非転向的であろうだろう――これが学生の言葉だった!
― 一・二四 ―
(1)皇 (2)皇 (3)党

獄中にてドイツの同志を思う歌
槇村浩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)潮《うしお》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)じめ/\した
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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鎌と槌をうちぬく
ひろ/″\とした
美くしい
自由の花園をへだてゝ
砲口をそなえた二つの牢獄がそゝり立つ!

――日本!
東方の突端
この蜜房のようなじめ/\した数千の牢獄の一画に
おれらが住み――潮《うしお》が
南方のたぎりたつ褐色の急潮が
夜の銃架《じゅうか》のように、おし静まった独房のはての
島々の礎石を噛み
残虐な奴隷労働の、憂愁《ゆうしゅう》と反逆を箭《や》のような熔熱にのせて
北流し――化石した憂愁を、大陸の凍岸に崩折れしめ
あらゆるメエルヘンにまして美くしい生活の華《はな》
――とろけゆく鉄蹄に刻む馴鹿《となかい》の自由の花びらを
連鎖する
一万キロの鈍重な氷壁に聞かしめ
流れは
溶け――崩れ――なだれ
資本の濁流に泡立ち――南下し
まっしぐらに、汚濁の国の城塞の裾をうつ
――ドイツ
西方の瀝土《チャン》の沼沢《しょうたく》――こゝにきみらが囚われ
きみらの眼と腕は
たくましく――
おれらを呼び
怒号するおれらの叫びは――鉄壁を衝いて
見えざる数万の宇宙のバリケードをきみらの上に交し合う

潮は
黒い戦艦と、武装せる掠奪漁猟者の路をのせて
はるかにつながり
鉄槌と火薬は
資本の領海を越えて、互いの鉄鎖をかすがいづけるために取引される
日独同盟!――と資本家は胸衣《チョッキ》のボタンをはづす
欺瞞と圧殺。乾盃
インターナショナル!――と民衆は逆撃の合唱にどよめく
世界資本家同盟《ブロック》の打倒。プロレタリアートの正義。――パンを、パンを!スクラム
スクラム

一九三五年
おれは――毎日のように
鞭でひっぱたかれる機械の顫音《せんおん》と
荷物をうけわたす徒刑囚の退屈な懸け声と
革紐《かわひも》で吊し上げられる囚徒の悲鳴と――銃声と
そして――瞬間!
殺戮の叫喚と混乱を聞き
番号と
重監禁の札をぶったつけられてた独房の扉を
おれは破れるばかりに叩きはじめた
――その時!
突然、屋上の樫材の骨組からラッパが吠えたけった
拡声器が、相場と天候とを早口にがなり
そして急に――電流が
ドイツ!と呼んだ
きみらの国のなつかしいアクセントと固有名詞が次々に流れ出
喉音が、ヒットラー!と発音した
――虐殺とパンの抑圧
――死の専制失業令の発布
――すゝ″なりの追放列車
――人民の反抗。マッセン・ストライキ暴動
――コンミュニストの一斉検挙。死刑牢獄………
と急に、電波が捻転し
音響がずれ
調整器が鳴り出した
ガックン………ガックン………ガックン………ガックン………ジ、ジ、ジ、ジ――………

同じ死刑牢獄の断章にふれ
おれは耳許まで獄衣と同じ色に燃え上ったのを感じた――扉の樫の木目が床に長方形
緋色の斑紋《はんもん》を投げた
――陽はかげり
斑紋はうすれ
怒号の暴圧の夜が訪れる――ひろがってゆくノック、ノック………
おれはまた扉を蹴《け》りはじめた………

二つのバスチーユ
かしこに、潮はつながり
こゝに、潮はわれらを結ぶ
何がきみらとおれらを隔てうるか?
骸骨旗《がいこつき》!――否。それは資本家共通のものだ!
神聖と封鎖と猜疑といろんな悪徳
戦争えの投資と累々たる死屍と!――否。それは天皇独裁官とが分割する!
曠原と
氷塊と
密林と
漠草との二千里の距離にか!――否!
こゝにわれらの精力の根源はツンドラに花咲かせ
鉄軌と
工場と
コルホーズ
鉄と電気のハーモニーを奏で
美くしい自由の花園を育てあげた――
サヴェート同盟!
鉄鎖でなく、連繋が
帝国主義の荒野でなく
無敵の社会主義の螺旋庭園が
われらの間にある!
何がきみらとおれらを隔てうるか?

われ/\は銘記しよう――
鎌と槌をうちぬく
ひろ/″\とした
美くしい
自由の
花園をへだてゝ
砲口をそなえた二つの
ボルセビークの砲台もまたそゝり立つ

やがて
地殻《ちかく》をうちぬく灼熱《しゃくねつ》の烽火は辺境と内国の戦線に燃え
見すぼらしいこの一片の牢獄の工具は、歴史的叛乱の武器となるだろう
われ/\の工場細胞にまして
把手のきれはしと、椅子の砕片と、拷問のしばり縄とで
即決裁判の断頭台を、組み立てるに巧みなものがあろうか?
親愛なる西の同志たち!
われ/\は誓って
矛《ほこ》に貫かれたきみらの独裁官の一族どもが、死体陳列場にさらされる日におくれぬだろう!
友よ、こうした社会主義競走は楽しい!

青ざめたバスチーユよ!
失われた搾取国境線の地平に没するところ
濤は楽しい島々の礎石に寄せ
北海処女原を刻む断層
鋸目《のこぎり》の隅に、しわぶく南方の溶熱がくちづけるとき
赤い工場に改装したおまえの前に
われ/\は一切の牢獄を絶滅しよう!
同志!
かしこに、潮はつながり
こゝに、血はわれらを結ぶ
みのれるラインと紫のドナウに、きみらは自由の酒を流せ!
まっすぐに、太平洋に開放の鋼条をおれらは張ろう
世界革命の決定点――これらの主線をつなぐことは
友よ、楽しいではないか!

鎌と槌をうちぬく
ひろ/″\とした
美くしい
自由の
花園をへだてゝ
同志!こゝにも
厖大な無数のゲンプランをそなえた、二つの人民革命の砲塁がある!

(一三三行)
― 一九三五・八・二三 ―

獄中のコンミューンの戦士の詩を憶つて
槇村浩

コンミューンの戦士をして墓の中より起たしめよ、よし東方の墓堀り人夫らが
釘づけ、磐石の錘を据え置こうと
わが森山啓氏が肩をすくめ、全身の力もて突立ち上る時
あなたはアトラスのように地球の屈辱を荷わぬだろうか

わたしら獄中で
若い憂愁が瞼を襲うとき
いつもあなたのコンミューンの詩を想い出した

それがわたしらにとって無上の刺激剤だった
苦難の時代をわりあい間違なく進みえたことについて
わたしらは心からの感謝をあなたに捧げる

嵐はよどみ、戦列は地平に没しようと
誰かコンミューンの戦士をして蘇らせえぬか
あなたの詩が、新らしく南方の労働者の集会で読み上げられる時
あなたはアトラスのように地球の凱歌を荷わぬだろうか

詩諷 大江鉄麿諷射宣言
槇村浩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)真面目《まじめ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大量|屠殺《とさつ》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)われ/\は
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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「われ/\は諷射しよう!」
詩人大江鉄麿は、幅広いこめかみを引きつけて吃りながら言った
「保留と伏字の泥沼で、編輯者が自分で自分の評判を悪くしたとき
犬の字を書く代りに書かすことが、ジャーナリズムの紹介業者たちの仕事となっているとき
われ/\がみんな真面目《まじめ》な吃りであることを強いられているとき
われ/\は正確に、そして効果的に吃ろう!

刺すことは、敵の一卒を倒すだろう
だが散兵壕はいま大量|屠殺《とさつ》のまっさいちゅうだ
われ/\が射程を拡大しなければ、何によってわれ/\の立遅れを克服することが出来るだろう
射ることは敵の全線を乱すだおる
たとえ一卒を倒さずとも、全線を乱せばわれ/\の任務は終るのではないか
詩は単独ではかつて何者をも倒しえなかった――また永久に倒しえぬだろう。」

詩人大江鉄麿は労働で上皮だけ油ぎった額を句切りごとに昂奮に吃らせ、ヴォードヌイのようにおどけてみせながら言った
「諷刺の代りに、われ/\は諷射しようではないか!」

出征
槇村浩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)濤《なみ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|隊《たい》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まざ/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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今宵電車は進行を止め、バスは傾いたまゝ動かうともせぬ
沿道の両側は雪崩れうつ群衆、提灯と小旗は濤《なみ》のように蜒《うね》り
歓呼の声が怒濤《どとう》のように跳ね返るなかをおれたちは次々にアーチを潜り、舗道《ほどう》を踏んで
いま駅前の広場に急ぐ

おゝ、不思議ではないか
かくも万歳の声がおれたちを包み
おれたちの旅が
かくも民衆の怒雷の歓呼に送られるとは!

春の街は人いきれにむれ返り
銃を持つ手に熱気さへ伝はる
火の海のやうな市街を見詰めながら、おれはふと思ふ
おれたちこそ
苦闘する中国の兄弟に送られた××(1)の×(2)軍
国境を越えて共に暴圧の鎖を断ち切る自由の戦士!
いま丘を越え
海を越えて
武器を携え急×(3)に赴くおれたちではないかと

けたゝましく響く喇叭の音におれはふと我に返る
(……蒋介石ごときは問題ではない
(わが敵はただ第十九路軍……
砂風の吹き荒れる営庭、拳を固めて怒鳴った肥っちょの聯隊長の姿が、
烈しい憎悪と共にまざ/\と眼の前に浮ぶ
おゝ第十九路軍
屈辱と飢餓南京政府を蹴飛ばして
下からの兵士の力で作り上げた×(3)衛軍
狼狽する蒋介石を尻目にかけ、敢然と××(5)政府に戦ひを宣した
英雄的な中国プロレタリアートと貧農の決死隊
きみらの隊列の進むところ
××××(6)の××(7)は惨敗し
土豪。劣紳・買弁が影を潜めた
よし!
×(8)仏英米の強盗どもが、君たちの陣地を棄てよとジュネーヴから命じようと
よし!
妥協した帝国主義者共の大軍が君たちに襲ひ掛からうと
君たち第十九路軍の背後には中国ソヴェート政府が厳存し
君たちの前には
全世界の同志の差し出す無数の腕がある

歩廊に整列し
スナップを踏んでおれたちは乗車する
おれの頭を掠めるは残された同志
あの路地の屋根裏
Kは今日もガリ版を切り
Dは円い眼鏡の奥から、人なつこい笑いを覗かせながらビラを刷り
Tは膝の上に「無新」を載せ、黙りこくって糊を煮てゐるだらう
おゝ――それとも
きみらは今宵群衆の中に潜《もぐ》り込み
栗鼠のようにすばしこく、人人の手から手へ反×(9)のビラを渡してゐるのか

欺かれた民衆よ
粧われた感激よ
祝福された兵士たちの何と顔色の蒼いことか
万歳の声に顔をそむけて眼鏡を曇らすおまへ
白布にくるんだ銃を杖に突いてぢっと考へ込むおまへ
とってつけたやうな哄笑で話題を女の話に外らせようとするおまへ
そして恐らくは彼方の車の中で、ごった返す荷物に腰を下ろし馬の首を抱いて泣き濡れて
 ゐるであらうおもへ
枯れた田地と
失業に脅える工場を後に残して
一枚の召集状でむりやりに×××(10)行かれるおまへらにとって、顔色の蒼いのは無理ではな

――だが
今宵おれの胸は嬉しさに膨《ふく》らみ
心臓は喜びにどきんどきんと鼓動をうつ
おれの喜びは、生れて始めてすばらしい武器を手にしたプロレタリアートの喜びだ!
おれの嬉しさは
戦場という大仕掛けの職場の中で兵士の不平を××(11)させる導火線
軍隊×××(12)となった嬉しさだ!

鎖が鳴り
汽笛の音が早春の夜空に消える
風は駅頭の歌声を消して行き
街の灯は次第にかすかになる
ゆくてに明滅する赤いシグナルを見詰めながら
おれは心に誓ふ!

けふ
たった今からさりげない調子で兵卒のひとりひとりに話し掛け
××(13)を覆う神聖なヴェールを引っぺがし中国ソヴェート建設の×(14)のものがたりをきみらの
胸に沁み込ませ

やがて
怒濤を蹴って港を離れる船の中で
きみらの不平の先頭に立ち

明日
上海塹壕
××(15)委員会の旗幟《きし》をたかく掲げ

士官らを壁に×(16)たせ
全東洋被圧迫大衆の春の歌を高らかにうたう、揚子江の河べりに
十九路軍の兵士と××××(17)
……おゝ、おれは×(18)衛軍の一卒兵!

明後日
幸いにおれが
(よし、おれが××(19)士官の銃先に斃れようとその時はおれの屍を踏み越えて
更にすぐれた、更に多くの同志たちが)
×(20)旗を立て
大衆の心からの歓呼を浴びて
なつかしい故郷へ帰るとき
残された同志らよ
苦闘にやつれた君たちが×(21)旗を振って万歳を唱へるとき
おゝその時こそ
共に歌はうぞ
××××××××××(22)建設の歌を!

― 一九三二・四―

(1)革命 (2)援 (3)援 (4)赤 (5)日本 (6)帝国主義 (7)軍隊 (8)日 (9)戦 
(10)つれて (11)爆発 (12)内細胞 (13)軍隊 (14)党 (15)兵士 (16)立 (17)手を握り 
(18)赤 (19)帝国 (20)赤 (21)赤 (22)日本ソヴェート共和国

シュレジェンの織工によせて
槇村浩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)后《のち》
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おなじみの古調で
ハイネはしみじみとシュレジェンの織工の歌をぼくに告げた
無慈悲な神々、王と、不実な祖国とえ三重呪詛を織りこんだむかしの労働者の歌を

その后《のち》ぼくは皇帝の監獄部屋で
皇帝の親衛兵たちのボロを解きながら
皇帝の緋色の衣装を拝受した

このマンチュリアの婦人服に似た着衣は皇帝の女囚によって織られた
三重呪詛は、高貴な織物の一片々々にしみわたっていた
僕は毎朝監守の前で、わざとおどけた子供のような情熱をもってこの筒っぽの着更《きがえ》に接吻した
(以下喪失)

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